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「半田っ!どうしかした!?
土門に虐められた?それともどっか身体痛いとか!?」

一之瀬が半田しか見えていないように俺を押し退けて半田の肩を抱く。

・・・別にいいけどね。せめて脚を踏んだのくらい謝って欲しいぜ。


半田はいきなり現れた一之瀬に驚いて目を見張る。
でもすぐどんどんと顔を真っ赤に染めていく。
・・・怒りのせいで。


「一之瀬!お前なんで土門に言っちゃうんだよ!?
秘密って言ったろ!?勝手に言うなよな!?
俺が自分で言うつもりだったのに!!」

半田は怒りながら一之瀬を荷物がたんまり入った肩から提げていたバッグで殴る。
うん、半田が怒るのは尤もだ。
その調子で俺の分まで怒ってくれ。


「痛っ!痛いよ半田ぁ。
誤解だって!俺、秘密は言ってないよ!
土門にも誰にも言ってないから安心して!」

一之瀬が痛そうに身を庇いながらそう言うと、途端に半田の手がぴたりと止まる。


「・・・本当か?」

「本当、本当だよ!
半田との約束を俺が破るはずが無いと思わない?」

半田の手が止まると、一之瀬はここぞとばかりに体勢を整える。
半田の肩を掴むと、無駄にイケメンオーラを振りまいて覗き込むようにして言い募る。

あー…、いつ見ても詐欺だよな。
ここまで変わり身が早いと中身はただの馬鹿だって普通に分からない。
その上、コイツのかっこつけは半田の前だといつもの三倍は酷い。
案の定半田は少し照れた感じで口篭ってしまう。


「…絶対?」

半田がバッグを胸に抱えて上目使いで一之瀬を睨む。
あー…、今度は一之瀬が半田の可愛さにやられてる。

「ん!絶対。
俺が土門に言ったのは、半田が俺にいかにメロメロかって事だけ。
俺の手が触れるとすぐ身体がぴくんってなっちゃう半田の事をほんの少し教えてあげただけだよ?」

あっ、今イケメンバージョンのままお馬鹿な本性が少し漏れた。
目尻も下がってるし、メロメロなのは一之瀬の方だろ。

半田も一之瀬の言葉に瞬間で真っ赤になる。
そうだよな。
今まで一之瀬と目が合っただけで真っ赤になってた半田だもんな。
あんな事言われたら真っ赤になって頭から湯気出して怒るのは当たり前だ。


「馬鹿!」

・・・あれ?

「そういうこと他の奴に言うなよな!!」

・・・普通に怒ってはいるんだけど、なんだか半田の態度が…。

「…お、お前だけが知ってれば充分、だろ?」

・・・はっ、半田の身体から色気が漂ってる〜!?


俺は思わず目を擦ってしまう。
二度見しても目の前の半田は変わらない。
子供っぽくぷんぷんと怒るはずの半田は居らず、
代わりに頬を染めて拗ねながらもどことなく甘えて誘ってるようにさえ見える半田が居る。


「そうだね!もう誰にも言わないよ。
こんなに可愛い半田は俺が独り占めしちゃうからね?」

「一之瀬の馬鹿ぁ!こんな所でそんな事すんなってばぁ。もぉっ俺、先行くからな」

呆然としている俺の前で二人は一頻りいちゃついてから、
半田は突然変異のお色気バージョンのまま学校の方へと走り去っていく。


な、なんだったんだ…?今のは…。

見慣れないものを見てしまったショックが抜け切らないまま走り去る半田を呆然と見送っていると、
そんな俺に気付いた一之瀬が悋気丸出しの顔で睨んでくる。


「駄目だよ、半田がいくら可愛くったってもう俺のだから」

・・・はぁっ。昨日からコイツは…。
ったく本気で俺が一之瀬の恋人にちょっかい出すとでも思ってんのかね?
俺がどれだけお前らが上手くいくように協力してやったと思ってんだ、こら。

目の前でいちゃこらを見せられた挙句、そんなあらぬ疑いを持たれた俺は、ムカついてほんの少しだけ一之瀬に意地悪をすることにした。


「そうだな、あんなに可愛いとヤバいんじゃないか?
それでなくても半田は疑う事を知らない奴だし」

俺がしれっと言うと、予想外の俺の反応に一之瀬がえ?って顔できょとんとする。

「例えばそうだな〜、知らない人が『鉄塔広場で彼女と待ち合わせしてるんだけど見えるのに行き方が分からない』って聞いてきたら半田ならどうすると思う?」

「教える」

一之瀬が即答する。ま、そうだろうな。

「で、『鉄塔に明かりが灯るのを一緒に見る約束してるのに時間がもう無い。困った』って言われたら?」

「…鉄塔広場まで連れていく、かも」

一之瀬が青褪めて呟く。そうそう、焦れ焦れ。

「鉄塔に明かりが灯る時間にはもう広場には誰もいない。
そんなところへ知らない男にのこのこと付いていく半田。
当然彼女なんて居るわけもなく、半田はそのままいきなり豹変した男に…っ!」

「…っ!」

一之瀬が息を呑む。脅しすぎたか?全くこれからが本題だったのに。


「まあそんな事は流石に無いだろうけど、気をつけた方がいいんじゃないか?
ゲイは少数派だからいつだって相手を探してる奴が多い。
あんな色気駄々漏れで居たら、すぐゲイに目を付けられるぞ。
ああ、ノンケのお前が堕ちたぐらいだから男は全員気をつけた方がいいかもな」

俺の言葉に一之瀬は声も無く、半田が走っていった方へと顔を向ける。
見ると半田は校門をくぐるところだった。


「取り敢えず追いかけた方がいいぞ。
あんな顔した半田を部活に行かせるつもりかよ?
あっという間に強力なライバルがいっぱい出来るな」

笑って、ぽんっと肩を叩いてやると、一之瀬は一目散に走り出す。
あのスピードなら風丸にも勝てるんじゃないかって程速い。


こりゃ脅かしすぎたかな?
必死すぎる一之瀬に俺は思わず苦笑いで頭に手をやる。
いくら半田が男にしては可愛いったって、そんな簡単にノンケの男が男を好きになるなんてあるわけないだろうが。
まったくこれが『恋は盲目』ってやつか。
でも、これで俺を疑うことも無くなるだろ。


だってうちの部には俺よりいい男がいっぱい揃っているからな。
思わず心配になるぐらいの、
それこそ一之瀬に負けないぐらいの、超いい男がな!


 END

 

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