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俺はコンビニに走りながらケータイを構える。
トゥルルルル〜、ガチャ。
「どもーん!!」
『どわっ』
いきなりの俺の大声に土門が驚いた声を出す。
いやいや、土門より俺の方が絶対驚いてるから。
「土門!今、半田がエロい!!」
『は?』
「俺、全然予想もしてなくて!
半田が今準備してるんだけど、俺は何をすればいい!?」
『あ〜…、そうだな取り敢えず深呼吸しろ』
「はぁっ?土門何言って…」
『それで俺に分かるように日本語で話せ』
「あれ?今俺、興奮しすぎて英語でしゃべってた?」
『はぁ〜…っ、そうじゃなくってだなぁ…。
あー、…じゃあ俺が質問するから、お前はそれに答えて。
たぶんその方が早い』
土門が溜息なんか吐くから、ムっとしてしまう。
でも半田がシャワーから出てくる前に戻りたいから、文句を言うのをぐっと我慢する。
少しでも時間が惜しい。
「了解」
『なに?今、半田と一緒なの?』
「そう!半田は今、シャワー浴びてる!!」
俺が自慢げに言うと土門から驚きの声が上がる。
ふふっ、そんなことで驚いてるようじゃこれからどれだけ驚くか楽しみだな。
『えーっ!?なんでそんな事になってんだよ!?
アイツ今日部活休んだじゃん。どこで会ったんだよ?』
「いつもの河川敷。習慣で行ったら半田に会えた」
『あー、お前がストーキングしてるやつね』
「酷っ!危なくないように見守ってるって言ってほしいな」
『へいへい。んで?なんでそれからシャワーになっちゃうんだよ』
「ほら今日夕立があっただろ?
それで一緒に雨宿りして、…それで一緒にうちに来て、今エッチする為に半田がシャワー浴びてる」
半田の身体の事は秘密だから大分省略して話す。
折角の二人だけの秘密だからね。
勿体無くて土門になんて話したくない。
『はぁ〜っ!?説明に途中から妄想混ぜんな!!
お前、それちゃんと確認したのか!?
ただ単に雨に濡れたのが気持ち悪くてシャワー浴びてるだけじゃないのか!?
普通に無理があるぞ!』
俺の説明にいきなり土門が電話の向こうでがなり立てる。
いやいやいや、妄想じゃないし。
無理だなんて、それこそ普通に失礼だろ。
「妄想じゃない。
半田、俺の事好きって言ったし、泊まるって言ったのも半田だし」
『えっ!?半田ついに陥落したのか!』
「ふっ、そうだよ。半田もう俺にメロメロ。
身体中からOKサインばんばん出してて、めちゃくちゃエロいよ」
『うっそだぁ〜!あの半田が!?OKサイン!?普通にあり得ないだろ。
だってあの半田だぞ?あのウブな半田が両想いになった途端OKサインとか絶対あり得ないって!』
・・・なんで土門はそんなに否定したいのかな?
いつまでも『嘘、嘘!!絶対あり得ないって。残念だけどお前の思い違い』と言い続ける土門に苛立ちと、微かな嫉妬心が芽生えてくる。
「土門?必死に否定したいみたいだけど、もう半田は俺のものだから。
これから名実共に俺のものになるから諦めて」
俺の冷たい声に土門がはぁっと溜息を吐く。
『お前はほんっとに…』
「何?」
苛立ちを抑え切れない俺の声に土門がもう一度溜息を吐く。
『いい性格してるよな』
「??褒めても半田はあげないよ?」
『いらないって。
それよりお前は何してんだ?俺と電話してるとかじゃなくだぞ』
土門の一言にはっとなる。
そうだったくだらない話をしている場合では無かった。
「今ちょうどコンビニに着いた。
それでこれからが本題なんだけど、ゴムの他に必要なものって何かな?」
俺は漸く本来の目的を話し出す。
興奮している俺よりも気遣い上手な土門の方が必要なものを漏れなく教えてくれるだろう。
俺はコンビニのかごを持ちながら、取り敢えず電話しながら生活用品売り場の方へ向かう。
『おっ、お前にしてはよく気が利くな。
男同士でも相手の事考えたらそれは絶対必要だからな』
「他は?」
『ローション…はコンビニには無いだろうから、何か潤滑剤になるようなものだな。
クレンジングオイルとか乳液とかでいいんじゃないか?』
んー、半田は女の子の部分もあるって言ってたからなぁ。
でも、まあ用意しといた方が安心かも。
俺はコンドームをかごに入れ、素早く化粧品コーナーへ移動する。
「OK。他は?」
『目的は違うけど、泊まるなら歯ブラシとか下着も買っとけ』
「おお!そう言われればそうだった」
俺が流石土門だなぁって感心して言うと、土門が呆れた声で言ってくる。
『お前なぁ〜。お前半田になんて言うつもりだったんだよ?
ちょっとコンビニまでゴム買いに行ってきたよ、なーんて言ってみろ。
半田みたいなヤツはドン引きだぞ。
俺の身体の事を気遣ってくれるなんて一之瀬大好き、なんて絶対言わないぞ。
寧ろエッチが目的だったんだって下手すると怒って帰るタイプだ』
「あ」
『飯もまだならついでに買っとけ。
それで半田には夕飯を買いに行ったことにするんだ。
下着とか歯ブラシは買ってきたとは言わずさり気なく渡す。
押し付けがましいのは嫌われるし、後で半田が気付いた時に何も言わない方が好感度が高い』
「おお」
『それから買ったゴムは帰ったら半田にバレないように必要な分だけすぐ出せる場所に隠しとけ。
あからさまだと嫌がられるし、いざって時に手間取ると折角のムードが白けるからな』
「うんうん!分かったよ土門!
土門に相談して良かったよ。まさか土門がこんなに詳しいなんて思ってもみなかった!」
ぴしっ。
ん?今空気が凍る音がしたような…?
『あー…、まあ初体験頑張れよ?
半田はそういうのには疎そうだから絶対男同士だからってがっつくなよ。
女の子相手にしてるつもりでムードを大切にしろ』
「当然!
だって俺はただエロい事がしたいってだけじゃなくて、半田と愛を交わしたいって気持ちでいっぱいだからね☆
半田の裸もじっくり見たいし、半田のエロ可愛いところも目に焼き付けておきたいし!」
『…そっか、まあ、お前らしいな。
――…一之瀬』
改まった声で土門が俺の名前を呼ぶ。
なんだか緊張感が高まってくる。
『良かったな。半田と両想いになれて』
でも改まったわりに続けられた言葉はそんな他愛も無い言葉だった。
もう、無駄に緊張させないで欲しいな。
それでなくてもこれから人生のクライマックスなのに。
まあ、でも土門のアドバイスのお陰で大分リラックスして事に臨めそうだ。
半田に怒られる事も無くなりそうだし。
「どもーん!ありがとー!!」
俺は土門に感謝の言葉を言ってから、電話を切る。
そして意気揚々とコンビニのレジへと向かう。
よーし!土門からの激励も貰ったし、
アドバイスに沿ったアイテムもゲットした!
あとは愛しの半田が待つ我が家に早く帰るだけだ!!
待っててね半田!
半田の望むとおりの甘〜い夜にするからねー!!
俺、頑張るよ!!
END
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