16*
「半田!半田、大丈夫!?」
一之瀬が一生懸命俺のこと呼んでくれてるのに、さっきから返事も出来ない。
今まで生きてきた中で経験した事もないような種類の痛みに、息すら満足に出来ない。
熱い!熱い!
身体が中から灼かれてる…!
一之瀬は俺の中に、ぷつりと何かを突き破って這入ってきた。
這入ってきた瞬間、びりりと俺の身体が二つに裂けたような衝撃が襲う。
そこから後は、ただ灼けるような熱。
内側から俺を灼き尽くすような凄まじい熱。
俺の全身はその凄まじい熱しか感じられない。
その熱の事しか考えられない。
「はっ…はぁっ、はっ!」
目を開けると、遠くに一之瀬の顔。
心配そうに俺を見下ろす一之瀬の顔が遠くに見える。
――俺の中は灼けるような一之瀬でいっぱいなのに、なんであんなに遠くに顔があるんだ。
こんなにも俺は苦しいぐらい一之瀬でいっぱいなのに、それなのに遠くにある一之瀬の顔に、まだ一之瀬が足りないって思ってしまう。
「んっ、はぁっ!…ぃ、ちっ…ぁっ、いち…っ」
寂しくて、足りなくて、一之瀬を呼びたいのに、苦しくて声が出ない。
「ぃっ…ッんあっ…ぃっ、ちぃ…」
一之瀬。一之瀬。
ああ、なんでちゃんと一之瀬の名前が言えないんだろう。
今、すっごく呼びたいのに。
一之瀬って呼んで、ぎゅって一之瀬に抱きしめて貰いたいのに。
「いっ…ちぃ、…んぁっ!んふぅ…ぅぅっ」
「大丈夫?痛いの?」
一之瀬が俺のおでこの乱れた前髪を整えながら優しく言う。
――違う!確かに痛いけど、今、俺が欲しいのは一之瀬だ。
痛くってもいいから、もっと一之瀬が欲しい。
「…ぃ、ちぃ…っ!」
俺は一之瀬を見つめて必死に叫ぶ。
必死で声を出したのに、その声は掠れて凄く小さい。
「もしかして、それ俺の名前?」
それでも一之瀬は俺の叫びに気付いてくれた。
頷く代わりに、ふぅーっと俺が安堵の溜息を吐くと、おでこを撫でていた手を頬に移動させて一之瀬が微笑む。
「『一之瀬』って呼び辛かったら、下の名前で呼んでよ。
一之瀬よりは短いから」
下の名前…?
俺が必死に一之瀬の言葉を反芻していると、少しずつ一之瀬の顔が俺の方へと近づいてくる。
掠れて小さい俺の声をよく聞く為に、耳を近づけているんだ。
「なあに?」
そう言って俺の口元で一之瀬が顔を傾ける。
だけど、熱に浮かされた俺の頭に分かるのは、やっと一之瀬が近くにきてくれたってことだけ。
――もう、一之瀬と離れているのは嫌だ!
「…かずやぁっ!」
俺は近づいてきた一之瀬が、もう離れていかないように背中に手を廻す。
一之瀬が耳を寄せてくれてたから、俺の掠れた声でも、ちゃんと聞こえたはずだ。
・・・ちゃんと名前呼べたよな?
「ッ、んあっ!?」
俺が一之瀬に縋り付いて名前を呼んだ瞬間、
俺の中の一之瀬がどくんって、大きく脈打つ。
「ふぅっ…ふっ、な…ぁっ?」
「あ〜…、ごめっ。今のはちょっと、キタ。
そろそろ限界。ゴメン!動いて、いい?」
なんで?って顔で目の前の一之瀬を涙目で見つめると、辛そうな顔した一之瀬が俺に謝ってくる。
俺がよく分からないまま小さく頷くと、俺の中の熱がゆっくりと遠のいていく。
「ふぇっ、…やぁぁっ」
俺の中はまだじんじんとしてるのに、熱だけが痛みだけを残して居なくなりそうで俺は思わず一之瀬の腰に脚を絡ませる。
「ひゃうぅんっ!」
でも熱はすぐ俺の中に戻ってきて、更に奥を目指す。
最初ゆっくりだったその動きは、一度動きだした事で箍が外れたようにどんどん速さを増していく。
「あっ!…あんっ!…かず、やぁっ…かずやぁっ!」
その速さについていけない俺は、ただ一之瀬にしがみ付く。
教えられたとおりに、一之瀬の名前を呼びながら。
俺に分かるのは、
自分の中にある凄く熱を放っている存在と、
俺を覆う熱い身体だけ。
それは全部一之瀬で。
俺は中も外も一之瀬でいっぱいだった。
それが嬉しくて、俺は痛みしか感じないのに歓びの声を上げる。
そうして俺はもっと熱いもので満たされる。
「…くっ」
一之瀬が一際大きく奥を突いてから、短く声を漏らす。
「ひいぁっ!?…あ、…ぁ、…あぁ…っ」
また大きく一之瀬が脈打つ。
でも今度はどくりどくりって何回か続けて俺の深いところで脈打っている。
そしてもっと深い処で、熱いものが弾けて広がる。
・・・なにコレ、凄い。
――…凄く、満たされる。
あんなに一之瀬が欲しくて、
苦しくても、もっともっとって、すぐ一之瀬が足りなくなっちゃっていたのに。
その瞬間、一之瀬に対する渇望が満たされたのを感じた。
俺は満たされた幸福感の中、俺に凭れて荒い息をしている一之瀬の背中を撫でる。
なんだか凄く一之瀬が愛おしく感じた。
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