15*
「指挿れるけど、無理そうだったら我慢しなくていいからね」
「…うっ、ん」
一之瀬の優しい言葉に、慌てて返事をする。
・・・おかしい。
さっきから勝手に次から次に涙が溢れてくる。
両腕で顔を隠してるから一之瀬にはバレてないみたいだけど、こんな風に泣くなんて馬鹿みたいだ。
でも、さっきまで本当に怖くて、怖くて。
俺の裸を見られたら終わりだって、ずっと思ってて。
それなのに一之瀬は、しっかり見たのに全然変わらなくて。
それどころか『可愛い』とか、…『天使』なんて言うし。
普段だったら「天使なんて言うな!キモい!!」って怒るところなのに。
でも俺は本当に一之瀬が、あんな風に言ってくれるなんて思ってもなくて。
だから・・・。
「う〜っ、指一本なのに結構キツい。
半田、大丈夫?痛くない?」
「…ふっ、へー、…きっ」
平気だって俺は言ったのに、俺の声に涙が混じってたせいで一之瀬がびっくりして俺の顔を覗き込んでくる。
「無理すんなって言ったのに!」
すぐさま指を抜いて、俺を労わるように顔を撫でてくる。
「半田、半田!大丈夫!?」
心配そうな一之瀬の顔。
さっきまで、あんなにシたそうだったのに。
『早く一つになりたい』とか言ってたのに。
俺がソコを触られると気持ち悪くて屈辱的だって言ったから。
だから、ちゃんと止めてくれた。
・・・嬉しい。
…一之瀬が自分の欲より俺の気持ちを思いやってくれたこととか。
それに・・・。
「ち、ちがっ。
違う、痛い、とか、気持ち悪い、とかじゃなくって」
俺は泣きながら必死で言葉を紡ぐ。
「・・・嬉しぃの。
…今、嬉しいって初めて思えた。
一之瀬と一つになれる場所が、俺にあること」
一之瀬があんな風に俺に言ってくれたから…。
今まで嫌で嫌で仕方なかった女の部分。
皆に隠して、自分でも目を背けていた、俺の反転世界。
その世界が俺に存在することを、今初めて、
『嬉しい』
って思えた。
「半田…」
心配そうだった一之瀬の顔が、俺の名前を呟いた途端、ん〜って感じに嬉しそうにくしゃくしゃになる。
「半田!半田!半田!」
語尾にハートマーク付きで俺の名前を呼びながら、色んな場所にキスしてくる。
一之瀬ってキスすんの好きなのかな?
色んな処にキスされると、そのキスされた場所を一之瀬が好きって言ってるみたいで、実は俺も凄く好きだったりも…する。
「一之瀬、あの…さ、俺、へぃきだから。
早く、一之瀬と…」
頬に熱が集まってくるのを感じる。
こんな風に言葉にするなんて、ハシタナイとも思う。
それでも、身体中から一之瀬の事好きって気持ちが溢れてきてもどかしい。
もっと、もっと一之瀬を感じたい。
苦しいぐらい一之瀬が好きで、行き場の無い感情が出口を探してる。
俺の全部が、早く早く!もっともっと!って、一之瀬を求めてる。
「俺、一之瀬が…欲しぃょぉ」
一之瀬の顔を見上げると、かぁっと一之瀬の頬に朱が差す。
「あ、…うん」
ぎこちなく一之瀬が頷く。
さっきまで初めてとは思えない程スムーズな動きをしていた一之瀬が、そんな風に一気にぎこちなくなるからこっちまで照れてしまう。
「あ、あのさ、最後にひとつ訊いてもいい?」
一之瀬が身体を起こして、前髪を掻きあげながら改まって訊いてくる。
「な、何?」
なんだか俺まで緊張してしまって、身体を起こして向かいあう。
「えっと、検査したんだよね?
そのー…、エッチ出来るかどうか。結果は?」
「ここまでしといて今更それ訊く!?」
一之瀬の質問に、俺は思わず脱力してまたベッドに寝転ぶ。
緊張して損した。
「だって半田の中、すっごく狭くて、キツキツで…!本当に挿入るのかなって…」
「ッ!!」
その一之瀬のセキララな言葉に、今度は俺がかぁっと頬を染めてしまう。
一之瀬の言葉を遮るように叫んでしまう。
「出来るよ!」
つい口を出た言葉が恥ずかしくて、俺はくるりとうつ伏せになって枕に顔を埋める。
「…赤ちゃんとかは出来ないけど、…エッチは普通に、…出来る、って、せんせぇが言ってた…」
どんどん声が小さくなってしまう。
検査をした時も、結果を聞いた時も、そんなのどうでもいいって思ってたのに、まさか自分が本当にそんな事するなんて思ってもみなかった。
「半田」
「…ん」
一之瀬が俺の裸の背中にちゅってキスをしてくる。
「半田こっち向いて。顔見たい」
「…ん」
もそもそと向きを変えると、一之瀬はいつの間にか下まで脱いで裸になってる。
視界に一之瀬のそそり立ったモノが入りそうになって慌てて目を逸らす。
「半田、照れてる。男同士なのに、俺のチンポ見て照れちゃったの?」
一之瀬がからかうように言ってくるから余計恥ずかしくなってしまう。
「べ、別にいいだろっ!?
好きな人のがそんなになってたら照れちゃうの当たり前じゃんか!」
俺が真っ赤な顔で睨むと、一之瀬は俺と同じような赤い顔をしていた。
「…あんまり煽らないでくれるかな?
それでなくても初めてでいつ暴走してもおかしくないのに」
「え?」
煽ってる自覚なんて全然無くて、びっくりして顔を傾げると、一之瀬は俺の脚を抱えて拡げ、その間に収まってくる。
俺が初めてした、その脚を付け根から開くように拡げられた体勢は、一之瀬を受け入れる為の体勢。
俺の中に、一之瀬を…。
「んっ…」
どくんって心臓が高鳴る。
俺に宛がわれた一之瀬の部分は、熱く昂ぶっていて嬉しい反面、
さっきの一之瀬じゃないけど「本当にこんなのが俺の中に入るのかな」って、ほんの少しだけ怖い。
でも、そんなほんの少しの恐怖なんて一之瀬からのキス一回でどこかへ吹き飛んでしまう。
一之瀬は俺を安心させるように軽いキスをすると、俺の顔を覗き込んだ。
「半田、俺の事好きになってくれてありがとう。
俺、半田の事好きになって本当に良かった…!」
その言葉に、ぎゅうって胸が詰まった。
「俺も…っ!」
俺が答えた瞬間、一之瀬が俺との距離を縮めてくる。
二人の気持ちが重なったみたいに、俺と一之瀬が重なっていく。
重なって、とぷんって俺の中に一之瀬が沈んでくる。
そして、ぎちぎちと音を立てて、俺の中に一之瀬が潜っていく。
道なんて無かったそこに、一之瀬の形の道が出来ていく。
一之瀬がゆっくりと俺の一番深い処に辿りつく。
俺の中が一之瀬で埋め尽くされる。
俺の身体が一之瀬によって変わる。
それは息も出来ない程の幸福感。
俺と一之瀬は、今、ひとつになっている…。
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