14*
一之瀬がさっきと同じ体勢になる。
さっき――…、俺が一之瀬を思わず蹴ってしまった時のように、一之瀬は今、俺のハーフパンツに手を掛けている。
ひゅうって俺の喉が鳴る。
さっきと違って。
一之瀬は俺の恐怖を全部分かってくれていて、俺もそれでもいいって思ってるはずなのに、
それなのに身体が強張る。
「脱がすよ?」
一之瀬がもう一度念を押すように訊いてくる。
「う、…ぅん」
口では承諾の言葉を言っているのに、身体が全然動かない。
一之瀬はそんな俺の肩を一度撫でてから、半ば強引に俺の身体からハーフパンツを下着ごと抜き取る。
「ぁッ」
俺の脚から服が剥ぎ取られた瞬間、咄嗟に俺は自分の前髪を両手で掴んだ。
怖くて、怖くて、
何も見たく無かったし、何かに縋っていたかった。
「半田、脚、開いて?」
一之瀬が固く閉ざされた俺の膝頭を撫でながら俺の耳元で囁いてくる。
「…ゃ。…こわ、…こわぃよぉ」
ふるふると顔を振る俺を、一之瀬は俺に覆いかぶさったまま何度も何度も色んなところにキスをしてくる。
耳とか、髪とか、顔を隠してる指とか、肩とか。
ずるぃ。…一之瀬ってずるい。
そんなキスなんかされたら、全身の力なんて勝手に抜けちゃうの知ってるくせに。
怖くて拒みたいのに、俺の身体は一之瀬の熱で勝手に弛緩していく。
「ゃ、ぁ…っ、だめ…だっ」
顔真っ赤にして全力で脚に力入れてるのに、
キスとゆっくりと膝と太腿を行き来する一之瀬の手に、くにゃりと力が抜けてしまう。
「半田、大丈夫だよ」
耳元で囁かれて、ふにゃんとなった隙に一之瀬の手が太腿を割ってくる。
「ふぇっ…ん、やっ、…やらぁ…っ」
涙声で一之瀬の手を押さえているのに、一之瀬は止まってくれない。
必死で押さえているのに、俺の手はもうほとんど力が残ってない。
どうしよう、どうしよう。
このままじゃ…っ。
「ゃぁぁ…っ、ぃちのせぇ…っ」
どんどん一之瀬の手が俺の脚を広げていく。
そして俺の脚を抱えて、閉じれなくした後、
俺に止まらないキスの雨を降らしていた一之瀬の身体がどんどん遠のいていく。
――…やだ!
――…やだ!
――…見ないでよ、俺の身体。
・・・嫌いにならないで…っ!!
「…なんか照れるね」
ぎゅうっと目を瞑って、悲痛な気持ちで一之瀬の反応を待っていた俺に聞こえてきたのは、そんな少し照れたような一之瀬の呟きだった。
「どっちも凄いとろとろに溢れてる。
そんなに気持ち良かった?」
一之瀬は照れてるのを誤魔化すように少しからかいを含んだ口調で、抱えた俺の太腿に軽くキスをする。
え?・・・反応、それだけ?
「一之瀬…。…俺の事、気持ち悪くないの?」
俺は恐る恐る顔を覆っていた腕を退かして、一之瀬の様子を窺う。
もしかしたら、俺のことを気遣ってそんな風に言ってるのかもしれない。
でも、顔を見ても一之瀬の顔にはキモチワルイとか嫌悪の感情は微塵も浮かんではいなかった。
それどころか少し怒った顔で俺のことを見てくる。
「もう!まだそんな心配してたんだ。
俺はどんな半田でも気持ち悪いなんて思えないって言ったのに。
それどころか、どこもかしこもとろとろにさせて俺を感じてる半田が可愛くて仕方ないよ」
ちゅっともう一度俺の太腿にキスを落とす。
さっきは何も感じなかったそのキスも、今度はぞくりと身体が震える。
「ねえ半田知ってる?
天使って両性具有なんだよ。誰かに似てると思わない?」
その一之瀬のキスはどんどん俺の中心に向かって移動していく。
俺の吐く息にどんどん甘えた声が混じっていく。
「半田はきっと天使なんだよ。
怪我に負けないで一生懸命頑張った俺に神様がくれたご褒美。
ね、そう思わない?俺だけの天使様」
そう言った一之瀬は俺の嫌で仕方ない場所に口付けた。
俺はキモチワルイとしか思えないその場所を、
一之瀬は敬うようにキスをした。
たった一回のキス。
それだけで一之瀬は俺の中に巣食っていた恐怖を一瞬で消してしまった。
そうそれはまるで魔法みたいに。
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