12*
俺が触れるだけのキスをすると、一之瀬がすぐさまもう一度唇を重ねてくる。
勿論、一之瀬のくれたキスは俺のみたいなお子様なものじゃなく、
俺を蕩けさせる濃厚なやつ。
「はぁ…っ、半田」
唇が離れ、一之瀬は俺の頬に触れながら嬉しそうに笑う。
まったくそんなに嬉しそうにすんなよ、泣きたくなるだろ。
「半田、本当に大丈夫?
無理そうだったら、すぐ言ってね」
それなのに一之瀬はすぐ顔を引き締めてそう言ってくる。
もうっ、何なのコイツ。俺を泣かすつもりかよ。
今、涙腺緩いんだからすぐ泣くぞ、こら。
「平気、だから…早くシろよ」
俺は泣きそうなのを誤魔化すように、わざと偉そうに言いながら、ベッドの上で向かいあうようにして座っている一之瀬の腹に枕を押し当てる。
一之瀬が俺たちの間にある枕を脇に退けて、俺にずり寄ってくる。
近づいてくる真剣な顔が格好良くて、俺はまた泣きそうになる。
「半田、上脱がすよ?」
「う、…うん」
一之瀬が俺に断りを入れてから、俺のTシャツに手を掛ける。
向かいあったまま、一之瀬がゆっくりと丁寧に俺のTシャツを脱がしていく。
いつも部活で一之瀬の前でだって平気で着替えているのに、誰かに脱がせてもらってるってだけでこんなにもドキドキしてしまう。
たぶん相手が一之瀬で、こんな風に向かい合っているからかも。
「触れるね?」
「…ぅ、ん」
一之瀬がそのままの体勢で俺に手を伸ばす。
「ふぁっ」
最初に触れたのは唇。
口が割られ、鼻に掛かった声が漏れる。
それから顎をなぞり、一之瀬の指は胸元へと降りていく。
一之瀬は自分の指が触れている場所を少し紅潮した顔でうっとりと眺めている。
その視線が、一之瀬が俺の身体を具に見てることを俺に教える。
触れられた場所が、かあっと色づく。
恥ずかしくて一之瀬の顔を見てられなくて俯くと、今度は俺の視界に俺の身体を一つ一つ確認するように触れる一之瀬の指が入る。
「っ、ぁ…」
なんだか堪らない気持ちになって、顔を横向かせる。
手を付いて顔だけ横に向かせているから、一之瀬に胸だけを突き出すような体勢になってしまった。
「胸、触ってほしいの?」
「ちが…っ」
一之瀬が丸を描くように中指で胸の周りを触れながら聞いてくる。
俺は横を向いたまま俯いて顔を振る。
その言葉に嘘はないけれど。
それでも胸の周りが触ってほしいって言うように、そこだけひくひくと敏感になっているのが自分でも分かった。
「触ってないのに勃ってる」
一之瀬がくりっと俺の乳首を押し上げる。
その指先は口をなぞったからか少し濡れていて、ひんやりとしている。
どうしても声が我慢出来ない。
「んっ、…ふぅっ」
漏れてしまう鼻に掛かった声も、一之瀬に感じているところを見られていることも恥ずかしくって堪らない。
せめて声を堪えたくて、下唇をきゅっと噛む。
「唇、噛まないで。声、聞かせてよ」
それなのに一之瀬はすぐ俺の口元に反対の手を持ってくる。
親指を俺の口と歯の間に捩じ込んでくる。
「ッあ…やっ、ゃぁぁ…やあぁぁ…っ」
唇を割られてしまうと、勝手に変な声が漏れてしまう。
「気持ちいい?」
「んっ、…あっ、やっ、ちがぁ…の、なんか…へんっ」
身体中がふわふわとした熱に浮かされている。
胸の先がじんじんとして、そこばかりが敏感になっていて。
反対に腰から下はじくじくと甘く痺れて感覚がない。
そのふわふわとした熱に流されてしまいたいのに、突き刺さる一之瀬の視線と、俺の気持ちを毎回確認してくる一之瀬に引き止められる。
すごく恥ずかしいけど、簡単に流されてしまったさっきよりなんだか感じてしまう。
何かに縋っていないと、自分の身体がそのふわふわした熱がいつまでも自分を苛んでくるようだ。
俺がシーツをきゅうっと掴んでそう言うと、一之瀬は俺の顔を覗きこんでくる。
「変?嫌じゃない?」
心配そうなのに、手は胸の先を弄るのを止めてくれない。
それでも俺の言うとおりにちゃんと気持ちを確認してくれる一之瀬に嘘はつけない。
「ゃっ、やじゃ…なぃ」
さっきと同じように横向きで俯き首を振りながら、言葉を紡ぐ。
素直な気持ちを口にするのが恥ずかしくって堪らない。
「けど…っ」
「けど?」
漸く一之瀬の手が止まる。
俺は少しほっとして、一之瀬の方を向く。
「は、恥ずかしいから、さっきみたいに…。
…ぎゅって、してて?」
見つめた一之瀬はどこか熱に浮かされた顔をしている。
・・・たぶん、俺も同じ顔。
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