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「一之瀬は、俺の普通っぽいところが好きって言ってくれたけどさ。
でも、それこそ実際見てみたら駄目だったとかあるだろ?
だって、俺の身体、本当にキモチワルイんだぜ!?」
俺の喚き声に一之瀬が枕の下から顔を覗かせる。
「せめて俺の外見が普通の間は、一之瀬とそういう事したく無いんだ!
そういう事して、わざわざお前に俺が変だって事目の当たりにさせる必要ないだろ!?
少しで長く、お前に好かれていたいんだよ!」
俺の喚き声が湿り気を帯びてくると、一之瀬は枕の下からすっと出てくる。
その顔はさっきまでの情けない顔とは違って、意志の強い一之瀬らしいきりっとしたものだった。
「半田は俺が、そんな事で半田の事を嫌いになると思ってるの?」
まっすぐな目をして俺を見つめる。
それこそ、一之瀬の事を信じきれていない俺を責めるみたいに。
「そ、そうじゃないけど…。
そうなってもおかしくないぐらいキモチワルイから…」
一之瀬の強い視線に、俺は責められてる気分で弱気になってしまう。
だって、いくらそう言ってくれても、やはり心のどこかで「一之瀬が嫌いになってもおかしくない」って諦めているから。
こんなキモチワルイ俺の事をずっと好きでいてほしいなんて、
一之瀬にそこまで責任を負わせたくない。
でも、俺は、一之瀬のことが好きだから。
好きな人から嫌われるのは凄く怖くて。
今こうやってまっすぐ見つめてくれてる一之瀬の視線が、
見てはいけないものを見てしまったように逸らされる瞬間なんて見たくなくて。
だから、少しでも嫌われる可能性のあることはしたくない。
俺の中にある他の恐怖は二人一緒なら多分乗り越えられるけど、
一之瀬に嫌われる恐怖は、永遠に乗り越えることなんて出来ない。
これも、一之瀬の事を信じていないことになるのかな?
「半田。
俺は半田の身体がどんなだろうと嫌いになんてならない。
気持ち悪いなんて絶対思えない」
そう言う一之瀬の目はまっすぐで、嘘なんて欠片もない。
でも、一之瀬は俺の身体が変だって「知ってる」だけでまだ「見て」いない。
俺が信じてないって感じ取ったのか、一之瀬の声が少し尖る。
「半田。
俺は半田のチンポが例え蛙だとしても変わらず半田を好きだって誓える!」
は…?か、蛙?
唐突な言葉に思わず目が点になる。
訝しげな俺を一之瀬がどうとったのか知らないけれど、
俺がどうリアクションしていいか困っていると一之瀬が更に言い募ってくる。
「半田。
俺は蛙が思い出したくもないぐらい嫌いだ。
今言葉にするのも本当は嫌なぐらいなんだ。
でももし!それが半田のチンポだって言われたら舐めるぐらい平気で出来る!」
一之瀬は凄く真剣な顔でどれだけ蛙が嫌いか力説してくる。
・・・馬鹿だなぁ、コイツ。
いくら蛙が嫌いなのに平気だって力説しても、
そもそも俺のチンポが蛙っていう設定が無茶なんだから、俺がときめく訳ないのに。
それなのにコイツはすっごい真剣な顔してて、
この馬鹿な設定の例え話も、俺を安心させる為のコイツなりのロマンティックな口説き文句なのかなって思ったら少し笑ってしまう。
こんなにシリアスな場面だっていうのに、だ。
・・・本当、コイツってば決め台詞のチョイスが残念すぎる。
でも、こんな馬鹿な例え話なのに凄い真剣だから、
本当にキモチワルイものが俺の身体の一部でも平気だっていう一之瀬の気持ちは痛いほど伝わってきて。
そんな馬鹿でロマンティックな口説き文句が、
泣けちゃうぐらい嬉しいとか。
・・・本当、俺も大概残念な奴かも。
「お前、蛙チンポってどんな状態だよ。
ピョン吉もびっくりのド根性だろ。
チンポが蛙だったら授業中げろげろ鳴いて大変じゃんか」
「そしたら、俺が鳴いたことにする。
半田の為なら、蛙の真似ぐらい平気で出来る。
それで学校中の笑いものになってもいい。
それぐらい半田が好きなんだ。
どんな半田も好きなんだ!
半田の全てが好きなんだよ!!」
零れた涙を拭ってから、俺が少し拗ねた振りして言うと、
それこそ凄い勢いで一之瀬は何回も好きだって言ってくる。
・・・ほらね。
一之瀬はいつだって、残念な決め台詞言って俺を脱力させてから、
格好悪いぐらい必死になって俺の気持ちを軽くさせる言葉をくれるんだ。
そして俺はそういう格好悪い時の一之瀬が凄く好きで。
だからもういい。
一之瀬を信じてみる。
例え裸を見られて一之瀬に嫌われたとしても、
俺はもういっぱい一之瀬から好きって気持ち貰ったから。
こんな風に「好き」って言ってくれる一之瀬に、
ちゃんと応えないとそれこそ後悔するって思えたから。
「じゃあさ、蛙が出てくると思っててよ。
そしたら蛙よりはマシなのが出てくるから」
「え?」
ああ、俺の決め台詞も残念チョイスが移ってしまった。
俺のOKサインは一之瀬に全く伝わらない。
だから俺は一之瀬を見習って、必死になってみる。
「一之瀬、俺とシよう?
俺も一之瀬の全てが好きだから」
そして俺は一之瀬にキスをする。
俺からキスっていう、俺のいっぱいいっぱいの行動で、
一之瀬に俺の気持ちがちゃんと伝わるといいなと思いながら。
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