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「違う、違う!
俺が誰かとシてる訳ないだろ!?
医者だ、医者!!検査の時に色々されたんだ!!」
俺は一之瀬の胸を押し返して叫ぶ。
俺がそう叫ぶと、一之瀬はぴたりと動きを止める。
「医者?」
「そう!医者だ、医者!
誤解だから早くどけって」
俺がもう一度一之瀬の胸を押すと、はぁーっと長い息を吐き出した一之瀬がかくりと頭を俯かせる。
一之瀬に止めてもらう為にした話で誤解されて襲われたなんて、洒落にもならない。
それにしても早く退かないかな。
一之瀬も安心するなら、俺の上に覆いかぶさった状態でしないで欲しい。
はっきり言って落ち着かない。
「ねえ、色々ってどんな事されたの?」
それなのに一之瀬は俺に覆いかぶさった状態でそんなことを聞いてくる。
そりゃ、身体は触れてないけど、
こんな風に横たわって上から見下ろすとか本当止めてほしい。
俺は恥ずかしくなって一之瀬から視線を逸らして横を向く。
「色々は色々だよ。
触診で中の状態調べたりとか、異常はないか目視したりとか」
「触られて、見られたの!?」
・・・そういう言い方するかな、普通。
「検査なんだから仕方ないだろ!?」
俺が怒鳴っても一之瀬はまだ詰問してくる。
「他は?他にも何かされてない?」
「他!?
えーっと、他には中の分泌物を採取されたりとか…」
「分泌物!?」
「後はどちらでも性交が可能か機能や形を確認したりとか…」
「性交!?」
・・・だからそういう風に繰り返すとか。
「その医者って男?」
「…男だけど?」
もう嫌な予感しかしない一之瀬の質問に恐る恐る答えると、
案の定一之瀬は渋い顔でまた長い息を吐き出す。
そして何を思ったのか、そのまま俺の方へと落ちてきた。
「!?!?なぁっ!?」
ぴたりと身体を重ねて、俺をぎゅうっと抱きしめてきた一之瀬に、思わず変な声が出る。
「半田ぁ〜」
情けない声で俺の名前を呼ぶと、俺の顔をこれまた情けない顔で覗き込んでくる。
・・・近すぎるから、本当今すぐ離れて欲しい。
「ねえ、やっぱり俺とシよう?」
俺が近さに気を取られている内に、一之瀬が爆弾発言を投下してくる。
「はぁ!?おまっ、何言ってんだっ!」
「だって半田の身体を俺以外の男が触ったままだなんて、俺耐えられないよ。
他の男が触ってんのに、俺はまだなのも。
半田が怖がる理由も分かったけど、それでも俺は半田と今すぐシたい。
駄目かな?」
一之瀬が眉の下がった情けない顔を少し傾けて、俺の機嫌を伺ってくる。
えっ、とぉ〜…、これってもしかしなくても甘えてる?
一之瀬の顔は目が大きくて、どちらかというと可愛らしい顔をしている。
それなのに意思が強くて、男らしいのが意外で魅力って言うか…。
・・・って!今はそんな事が言いたいんじゃなくて。
えっと、そのぉ、つまりワンコ系一之瀬がそんな顔すると、捨てられた子犬みたいって事!
土門にノート借りる時とかにそんな感じで甘えてるとこは随分前に見たことあるけど、
一之瀬は決して俺に対してそんな風に甘えるとかしたことない。
それに俺は悲しいことに、一之瀬に限らず誰かに頼られるとかが滅多に無い。
だから、かな?
一之瀬の言ってることは滅茶苦茶なのに、『きゅぅぅん』ってキタ。
「…だ、駄目に決まってるだろ!?」
否定が一拍遅れるとか、俺、動揺しすぎだろ。
俺の動揺に勘付いたのか一之瀬は更にワンコ感をアップさせる。
「だってそういう怖さって実際にやってみないと無くならないものだよ?
寧ろ時間が経てば経つほど恐怖って膨れ上がるものだし。
ね、だからシよ?
途中までは怖くなかったんだし、大丈夫だよ」
上目遣いとか、本当止めて欲しい。
それでなくても顔近いってだけで、こっちは結構ぎりぎりなのに。
「〜〜〜〜っ。…やっぱ無理!」
俺は見慣れない表情の一之瀬のアップから顔を逸らす。
すると一之瀬は横を向いた俺の先回りするように顔を寄せる。
そのせいで一之瀬の身体が俺の身体に密着する。
一之瀬のあごが俺の肩に当たって、心臓に悪い。
「シてみて、本当に無理だったらすぐ止める。約束する。
だから、ね、半田ぁ」
上目遣いで、しかも今度は俺に顔をすりすりしてくる。
・・・ヤバい、ナニコレ。頭が沸騰しそう。
俺は分かんない内に承諾してしまいそうで、急いで枕で一之瀬を押しつぶす。
枕の下で一之瀬が情けない声で俺の名前を呼んでいるが無視した。
だって本当にあと少しで流されるところだった。
俺はまだ枕に潰されている一之瀬に向かって言い放つ。
「無理ったら、無理!!
だって…、
だって…、一番怖いのは一之瀬に裸見られる事だからっ!!」
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