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「半田、何が怖いの?
俺は半田を傷つけるつもりは無いし、出来るだけ優しくする。
多少は痛いかもしれないけど、多分大丈夫だよ。半田気持ち良さそうだったし」

俺がそのまま全てを告げずにぽたぽたと涙を溢していると、
一之瀬が俺を宥めるように全然見当違いの馬鹿なことを言ってくる。
もうコイツはどこまで分かってて、どこまで分かってないのか本当に区別がつかなくて苛々する。

俺はコイツのことを家族を除いた、一番の理解者だと思っているのに。


「馬鹿っ、俺が怖いのは全部だよっ!
そういう事はしないって決めてたのに、簡単に俺の意思なんて無視して暴走する身体だって俺は怖いんだ!
俺の思い通りにはならないって身体が言ってるみたいで!」

俺は一之瀬を睨み、怒鳴りつける。
少しは俺の気持ちに気付いてくれると思ったのに、それでも一之瀬は馬鹿なままだ。


「それだけ気持ち良かったってことだよ。
俺の手で簡単に乱れる半田は凄く可愛くて、俺は好きだよ?」

甘ったるいオーラを纏った一之瀬が俺を抱き寄せ耳にキスしようと唇を寄せる。

俺は怒っているのに、怒れば怒るほど何故だか一之瀬は逆に調子に乗ってくる。
先程の険悪なムードが嘘みたいに、一之瀬は上機嫌で俺に馴れ馴れしく触ってくる。
その能天気さが俺を余計苛立たせる。

俺は一之瀬のキスを寸でのところで交わし、一之瀬を突き飛ばす。
またキスなんかされて訳が分からないまま有耶無耶にされたら堪らない。


「お前いい加減にしろよっ!
お前が俺の気持ちも聞かないでどんどん先に進もうとするのだって怖かったんだぞ!?
『支えたい』とか調子のいいこと言って、俺を追い詰めてるだけじゃんかっ!」

俺に押され、身体を支えるように一歩脚を後ろに踏みしめた一之瀬は、
漸く驚いた顔で俺を見る。


「俺…半田を追い詰めるような事何かした?」

「しようとしただろっ今!?
俺が身体の事悩んでるの知ってる癖にっ!」

俺は泣きながら一之瀬に怒鳴る。
一之瀬があまりに阿呆なこと言うから涙が止まらない。


「お前が居てくれたら何があっても平気だって思ったのは確かだよ!?
でもっ!
でもさっ、…少しゆっくりするぐらい、いいだろぉ…っ?
まだ女の方で受け入れるなんて早すぎるよぉ…っ!」

ぼろぼろ零れる涙を拭う事もせずに言えば、一之瀬は少しずつ顔を曇らせていく。


「…半田」

俺を抱き寄せようとする一之瀬の腕を、俺は俺に届く前に撥ね退ける。
それでも、やっと俺の気持ちに気づいてくれたって思いが、少し俺の苛立ちを和らげている。
俺を労わる一之瀬の姿にも。
涙をぐいっと拭い、もう一度一之瀬を改めて見つめる。
馬鹿だけど、俺の事をいつでも真剣に考えてくれるコイツを。



「お前は知らないだろうけど、ソコに触れられるのってすっごく気持ち悪いんだ。
中に入れられると冗談抜きで吐き気がするし、
俺、男なのになんでって思えて凄く惨めで、死にたくなる。
お前相手でも、またアソコを触られるって思ったら怖くてしょうがないんだ」

俺は一之瀬を説き伏せるつもりで出来るだけ冷静に話した。
本当に怖いんだって事を分かって欲しかったから。

でも、一之瀬は俺の話の途中で顔を伏せてしまう。
俺がちゃんと最後まで話終えても中々反応しない。

俺がなんか変だっと思い始めた頃、漸く一之瀬は低い声で呟く。


「また…って何?」

「はっ?」

一之瀬の反応が予想外で、俺は思わず聞き返す。
てっきり「ごめん、これからは中学生らしい清い交際をしよう」とかいう自分に都合の良い言葉が返ってくるとばかり思っていた。

それなのに、一之瀬は俺が聞き返すとがっと俺の腕を急に掴んでくる。


「半田はもう誰かとシてたんだ。
…相手は誰?土門?」

え?え?…えぇっ?土門が何だって?
一之瀬のあんまりな話の飛躍に俺は頭の中がハテナマークでいっぱいになる。

驚く俺を他所に一之瀬は掴んだ腕を引っ張って俺をまたベッドに引き戻す。
ぼすんっと身体がベッドに沈む。
そしてすぐ俺の上に被さってくる一之瀬。
ぎしりとベッドが軋んだ音を上げる。


「前の男とシた時に気持ち悪かったから、俺とはシないって半田は言いたいんだ。
悪いけど、そんな話聞かされて止まれる程俺は大人じゃないよ?」

目の据わった一之瀬が俺に圧し掛かってくる。

・・・ヤバい、完全に誤解している。


 

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