9*



「今日は俺の嫌がることはしないんだろ!?」

上に圧し掛かかってくる鬼道を俺は必死に押し返しながら叫ぶ。


「じゃあ、この俺に奉仕だけさせるつもりか?」

「お、お前が勝手にしたんだろ!!」

鬼道の偉そうで自分勝手な言葉にムカつく。
鬼道に向かって言い返すと、鬼道はふーっと長い溜息をついた。


「お前な、全然学習してないようだが、俺はいつでもお前を無理やりできるんだぞ。
この前みたいに中で出すこともな」

鬼道はそう言うと俺の手を教室の床に縫い付けた。
自分の上に感じる鬼道の重みが、忘れてた危機感を思い出させる。
俺は泣きながら帰ったあの日を思い出し、背筋を震わせた。
青くなって自分の顔の前にある鬼道を見つめる。

だが、鬼道はすぐに俺の手の戒めを解いた。
青くなった俺の顔を撫でると、さっきとはうって変わって優しく笑う。


「この前も言っただろう?
俺だって無理やりは好きじゃないんだ。
……だからお前が選べ」

鬼道は自分のジャージのポケットからコンドームを取り出し、俺の目前に持ってくる。


「これを着けてするか。
それとも…、お前が口でするか」

なんだよ…、その究極の選択……。
でもどちらかを選ばないと、鬼道は無理矢理するって、中で出すって言ってた。
さっきの言葉はそういう意味だよな?多分。
俺はじっとコンドームを見る。
それからちらりと鬼道の下腹部に視線を移動させる。

男のアレを舐めるなんて……。
この前は急展開すぎて鬼道のモノなんてしっかり見る暇なかった。
でも、俺のより大きくて剥けてた気がする…。
なんでチンチンって剥けると一気に可愛げがなくなってグロくなるんだろうな。
普通に男のチンチンってだけでも気が滅入るのに、あんなグロちんぽなんて舐めたくなんかない。


「……どっちも嫌だ」

俺が下を向いて言うと、鬼道がいきなり俺の口の辺りをガッと掴んだ。
俺の顔を無理やり上げさせると、優しい口調で訊ねた。


「聞こえなかったから、もう一度言ってくれ」

優しい口調なのに、いつもより低い声がすっげー怖い。
俺は半分泣きそうになって何度も頷いた。
俺の抵抗心が挫けたのを感じて、鬼道は俺の顔を掴んでた手を離してくれる。


「……こっち」

俺が大分逡巡してからコンドームを指差した。
これ、俺がセックスに同意したって事になんのかな…?
でも男のチンポ舐めるなんてそんな屈辱的な事、絶対嫌だ。
だったらまだ、ゴム付きな分だけこっちの方がマシだった。
鬼道は俺が選んだらさっきみたいにまた俺の頭を撫でた。

「よく言えたな」



鬼道はぐずぐずしてる俺の服を全部脱がすと四つんばいにさせた。
俺は全裸にさせたくせに、自分は少しズボンをずらしただけで慣れた手付きでコンドームを装着した。


「いくぞ」

見えないけど、自分の入り口に当たっているのが分かる。
ソレから逃げるみたいに、つい反射的に腰が引けてしまう。
逃げた俺に、鬼道は責める事もなく無言で腰を掴んだ。
と思ったら、鬼道はそのまま腰を密着させる。
急に密着したソレは、この前と違ってぬるんといきなり全部が入ってしまう。


「…ん、クゥッ!」

一気に奥まで穿たれて、背が撓る。
今日こそは声を我慢しようと決意してたのに、あっという間に声が出てしまった。


「痛いか?」

奥まで突いたまま、鬼道が俺の腰を撫でる。
そんな事訊かれても、いきなりの刺激に俺は声も出せない。
無言で首を振ると、鬼道がふっと小さく笑った。
それを合図にゆっくりと俺のお腹を中から擦るように動きはじめる。

ソレは熱くて、硬くて、俺の中を通る度に鈍い痛みが走る。
でもお腹を擦られるとむず痒くて、おしっこ我慢してるみたいにモジモジと腰が揺れてしまう。
温泉みたいにどんどん奥から温かいぬるぬるが湧き出て、痛いところを覆ってしまう。
そうなるともう、鬼道がどんなに激しい動きをしても痛みは小さくなっていく。


「あッ!…あ、ンッ…ああッ!!」

う〜〜〜、気持ちイイよぉ…ッ!
お腹側におしっこ出そうになる部分があって、そこ擦られると「〜〜〜〜ッ!」って食いしばっちゃうんだけど、そこ過ぎてすぐに気持ちイイ部分があって、俺がぎゅっと締め付けちゃってる瞬間にどうしても突かれちゃうから溶けそうになる程めちゃくちゃ気持ちイイ。
指じゃ届かなかった場所。
その場所を鬼道に突かれちゃうと、もう声なんて我慢できない。
自分を支えられなくて、顔が床に崩れ落ちる。


「あぅ…っ、…あッ!…ああッ、ああんッ!」

鬼道が突く度、顔が床に擦れて涎が勝手に零れちゃう。
もう全身がくにゃくにゃになっちゃて、腰を掴んでいる鬼道の手と、鬼道と繋がっている部分だけが俺を支えてる。


「アッ!アッ!アッ!!も、もぅだめッ!また、イっちゃうってばぁ…ッ!!」

またあの感覚が競り上がってきて、俺は首をふりながら慌てて叫ぶ。
なんだろ、さっきよりもずんずんずんってより深いとこからこみ上げてきてる。


「俺もそろそろだ」

応える鬼道の声も少しだけ上がっている。
わわわ!急に速くすんなよ。
短い間隔で気持ちイイとこばっかり突かれて、俺は急速に昂ぶっていく。


「ヤァッ!ヤァッ!もうだめッ、イクッ!イっちゃうぅぅッ!!」

俺はイヤイヤと首を振りながら半狂乱で叫ぶ。
でも、快感は逃げてはくれないし、鬼道の容赦ない動きは止まらない。


「ア…ッ!、ア…ッ!〜〜〜〜〜〜ッ!!
ヤアアアァァァ〜〜〜〜ッ!!」

バチバチって目の前で火花が散って、ビクビクビクーーッって全身がバラバラに痙攣してる。
お腹は絞るみたいにキューッて狭くなってるし、脚は生まれたてのヤギみたいにヒクヒクッて強張ってる。
俺は身体で思い通りになるとこが一個もなくて、怖くなってめちゃめちゃに声を上げた。
俺の背中で鬼道の「ッ!」って小さな呻き声が聞こえた気がした。
でも、俺は自分の身体の異変の方が大変で、そんなことなど構ってらんなかった。


長ーい絶頂が終わり、俺は長い強張りから開放されて床に倒れこむ。
ずるりと鬼道が抜けるのを感じる。
ちらりと目だけで鬼道を見ると苦笑いの表情で自分からゴムを外している。
あー…、いつの間にか終わってたのか…。気づかなかったなぁー…。
俺は、うつ伏せの状態からごろりと転がり仰向けになる。
顔を腕で隠してると、自分の荒い息遣いだけが耳につく。
その息遣いに紛れて鬼道の足音が自分のすぐ傍で止まった。


「お前な、声を抑えろ。
誰か来たらどうするんだ」

「うわっ、どうしよう。
古株さん、来たらどうする!?」

鬼道の言葉に俺は青くなって上半身を起こした。


「来るなら、もっと早く来るさ。
それを避ける為に用務員室から離れた場所を選んでるんだ」

俺を馬鹿にした表情と言葉にぶち当たって、俺はムッとして鬼道から視線を逸らした。
改めて辺りを見ると、そこは全然知らない教室だった。
でも壁には俺のクラスと同じ掲示物が貼ってある。
確かにここは俺が普段過ごしている学校。
さっきまでの特異な状況が、俺の中で日常の延長に変わってく。
俺はそんな場所で同じ部活の仲間の鬼道に、獣みたいな格好で後ろから犯されて。
こんな風に遅くまで残って、人目を避けて。
それで、あ、あんな風に訳分かんなくなっちゃって……。
本当、……最低だ!

自分の置かれている状況に気づいた途端、自己嫌悪が自分を襲う。
また流されてしまった自分が悔しくて、俺は唇を噛んだ。


「なんだ今更そんな顔して。
それより早く着替えた方がいい。
熱、下がったばかりなんだろ?」

鬼道は俺の肩にジャージを掛けると、頭に手を置いて俺の顔を覗き込んだ。
その顔は労わりに満ちていて、俺を混乱させる。
だってこんなの俺の心配してるみたいじゃんか。
こんな事されたら馬鹿な俺は、鬼道が俺をモノ扱いする冷酷な奴だって忘れてしまいそうになる。
優しい言葉一つで、心の底から憎むことができなくなってしまう。
俺は鬼道に背を向けて、急いで服を取る。
これ以上優しい鬼道は見ちゃイケナイって思えた。


「でも、お前もあんなに嫌がっていたのに派手にイったな」

背を向けてジャージを履いている途中に、後ろから声を掛けられた。
顔だけ振り返ると、鬼道は偉そうにそこら辺の椅子に座って、俺の着替えを眺めてにやにやしてた。
ほら、やっぱり酷い奴だ!


「うるさい!!」

Tシャツを速攻で着て、ジャージを抱えると俺は鬼道に振り向いた。

「もう絶対!二度と!金輪際!お前とはしない!!」

ビシッと俺が本気で宣言したのに、鬼道はぷっと吹き出すと高笑いを始めた。


「そうだな、そうなるといいな」

一頻り笑った後、上から目線でそう言うと俺の頭に手を置いた。
掻き混ぜられた髪の隙間から見上げた鬼道は、音無に向けるみたいな顔を俺にしていた。


 第一章 END

 

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