7*



「いちの、せぇ…っ」

さっきよりも長いキスをして、一之瀬が俺から離れていった時、
俺はもう頭の中までとろとろに蕩けていた。


頭の中がぼうっとして、なんだか目がとろ〜んとする。
息もちゃんと出来ない。


「ふっ…半田っ」

一之瀬が弾んだ声で俺の名前を呼ぶ。
そしてくるりと弛緩した俺の身体の向きが変わる。

気付いたら俺は一之瀬の胸の中にいた。
押さえられていた手も、知らない内に解放されていた。

まだ整わない呼吸をしながら一之瀬を見上げると、また一之瀬の顔が近づいてくる。


「んんっ、…はぁっ、ん」

声が勝手に漏れるし、舌が一時たりとも離れないから唾液が呑み込めなくて顎を伝っていく。
本当だったらそんな風に涎を垂らすなんて恥ずかしいんだろうけど、
頭まで蕩けた俺は少しの間も舌が離れるのが惜しくて流れるままにしている。

俺の腰と髪に廻った一之瀬の手が熱くて、
さっきまでその熱さが怖かったくせに今はそれさえ心地良い。


「半田っ、…半田ぁっ」

キスの合間に一之瀬が熱に浮かされた声で俺を呼ぶ。

「いち…の、せぇっ…んんっ…いっ、ちぃ…のっ、せぇ…」

ちゃんと答えたいのに息が弾んで言葉が紡げない。


一之瀬の熱い手は俺の体をゆっくりと這っていく。
腰に廻っていた手は背中へ、
頭に廻っていた手は腹へと移動し俺の肌に直接触れてくる。

その手は俺を堪らなくむず痒くさせ、
手が這っていく度に俺の身体をひくりひくりと跳ねさせる。

手が這い回っている間もキスは続いていて、俺の思考力を奪う。
俺はただ一之瀬にいいように翻弄されてしまう。


「はっ…ん、いちぃ…のっ、せぇっ…」

俺はただ酸素を求め喘ぎ、
それしか知らないように一之瀬の名前を繰り返し呼ぶだけの存在になってしまっていた。


「あっ!?…ゃ、やぁ…っ、やぁぁ…っ」

むず痒さを与えていた一之瀬の手が、急にずくんと疼くような刺激に変わり、
俺はその刺激から逃げようと、シーツを掴んでいやいやをするように頭を弱弱しく揺する。

俺の一之瀬の与えてくれる刺激に酔った頭では、もう自分がどんな状態にあるのかさえ分かっていなかった。


今の俺は、一之瀬の手によって服がたくし上げられ胸まで露になっていて、
その胸の先を一之瀬の手の平で優しく撫でられてアラレモナイ声を上げている。
俺の胸の先は一之瀬の手の平をもっと感じる為にぷっくりと立ち上がり、
撫でられる度に手に合わせてふるふると震えている。


「半田…可愛ぃ」

自分の状況を理解していない俺は、
俺の目に映る、上気した顔で嬉しそうに呟く一之瀬だけが全てだった。


――あー…、一之瀬笑ってる。…良かったぁ。


「ふぁっ」

さっきまで不安そうだった一之瀬に微かな笑みが浮かんでたのが嬉しくて、
なんだか声が抑えられなくなる。

一之瀬はそんな俺の首筋に顔を寄せ、ぺろりと舐めてからちゅうっと俺の肌を吸う。

またぞくりと走る甘い痺れと、
さっき見た嬉しそうな一之瀬が嬉しくて俺は一之瀬の髪をくしゃりと掴んで抱える。
指の間を通る一之瀬の髪さえ気持ちいい。



体中から気持ちいいと、一之瀬が好きだなって気持ちが溢れてきて、
俺の中をふわふわとした幸せな気分でいっぱいにしてしまう。


「いち、のっ…せぇっ」

「ん、半田少し腰浮かせて?」

俺が何度目かの一之瀬の名前を呼んだ時、一之瀬は始めて会話らしい言葉を言ってくる。


腰…?

今、俺の思考力を奪っていた一之瀬の手は止まっていて、
尚且つ俺を昂ぶらせていた一之瀬の熱は俺から少し離れている。

だから少しずつ俺は自分の状況に気づき始めた。


一之瀬の手が止まったのは、俺の履いているハーフパンツに手を掛けているから。
腰を浮かせるのは、俺の服を脱がすため。


スゥーッと頭から血の気が引く。


「駄目っ!!」


…それは咄嗟で、決してわざとじゃ無かった。


俺が一之瀬の服を脱がそうとする手から逃げる為に振り上げた脚は、
一之瀬の腹部の真ん中あたり、丁度みぞおちの辺りに当たった。

「ぐっ」

一之瀬が短い呻き声を洩らして顔を歪める。



熱くて俺を溶かしてしまった一之瀬の手は、もうどこにも触れていなかった。


 

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