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「一之瀬!俺、チャーハンのヤツな」

俺は一之瀬がシャワーを浴びて出てくるのを待ち構えて、そう言う。
出た途端声を掛けられた一之瀬は、少しだけビックリした顔をする。
そうだよな、さっきまであんなに緊張でガチガチだった俺が、
こんなにもリラックスして夕飯の準備(と言ってもお茶煎れ直して、一之瀬の買ったおにぎりとかを並べるだけだけど)してるんだから。

でもさ、自分でも現金だなって思うけど、
どこまでも紳士的で俺との約束を守ってくれる一之瀬とか、
俺の好きなものばかりのコンビニの袋とか、
その袋にさり気なく入っていた歯ブラシとか、今穿いている新しいパンツとか、
それを実は雨に濡れたままで買いに行ったであろう一之瀬とか。

それ全部がさ、なんか俺、大切にされてるな〜って思えて。
で、改めて思い返すと今までだって俺は一之瀬に充分大切にされてて。
それを全部自分勝手な思いで、無視してたのは俺なわけで。

そしたら何だか恥ずかしくなってしまった訳ですよ。


こんなに優しい一之瀬が俺の嫌がる事するわけないって思えたから。

一之瀬の事信じられない自分が、なんだかすっごい疑り深い嫌なやつに思えるし。


だから、これからは一之瀬の事信じて、一緒の時間を楽しもうって。
少しでも一緒に居たくて帰らないって決めたのは自分なんだし。



「えっと…お前、いつもどこ座って飯食ってんの?」

テーブルの上には二つ並んで置いてしまった湯飲み。
隣に座る気満々って、すぐバレるよな…?
俺が恐る恐る一之瀬を見ると、一之瀬はごしごし髪を乾かしていたタオルを取りながら俺に笑う。


「いいよどこでも。半田の隣なら」

うっ。
俺、一之瀬のこういうところはやっぱりちょっと嫌かも。
もう両想いになったし、ちゃんと一之瀬の事を大切にしようって今さっきした決心が速攻でぐらつく。

今までも散々こういう事言われてたけど、
「けっ、格好付けキザ野郎がっ」とかわざと思うようにしてた。
でも今、わざと思い込まなくても、
「うわ〜、止めてくれぇ。そんなくさい台詞簡単に言うなぁ」ぐらいには素で思っている。

これにちゃんと向き合うって、うん、結構大変かも。


「あの、な…俺も、その…一之瀬の隣が…いいなって…思って…」

ぐらついた決心をなんどか踏み留め、ちゃんと自分の気持ちを伝える。
本当、沸騰しすぎてシュワーって頭から何か出そうだ。


「半田…」

俺の言葉に一之瀬が少しだけびっくりして目を見張る。
それから少し照れた顔で嬉しそうに笑う。

「あー…、今やっと両想いになれたって実感涌いてきた。
いつもの半田だったら何も言わないで自分の分だけ持ってキッチンで立って食事してたのに」

「なっ!?なんだよ、一之瀬の中の俺って、そんなイメージなのかよ?」

「そうだよ。
それで俺がこっそり覗くと、『一之瀬の馬鹿』って言いながらも真っ赤な顔でチャーハンのおにぎり食べてるんだ」

「〜〜〜〜っ」

その一之瀬の言ったのは、自分でも昨日までの俺ならそうしそうって思えるもので何も言えなくなってしまう。

俺はもう何も言えず、山のようにあるチャーハンおにぎりに手を延ばす。


「それでね、そんな半田を見て俺は思うんだ。
ああ、半田は可愛いなぁって。
今、俺が思ってるみたいにね」

がぶっと照れ隠しも手伝って大きくおにぎりに齧り付いた俺に、一之瀬がウィンクしてくる。

当然俺はおにぎりを喉に詰まらせた。
ごほごほと咳込み、お茶を飲んだ時点で、
俺の中の一之瀬を大切にしようって決心がどこかへ飛んでった。
うん、だってこれじゃ幾つ命があっても足りないもんな。


「おいっ!もうお前黙れって!
こんなんじゃ飯も食えないだろっ」

「ゴメン、素直な半田がちょっと破壊力抜群で、つい。
そんな急に素直にならないでよ。
俺の心臓が持たないから」

「〜〜〜〜っ!
もおっ!持たないのは俺の心臓だっての!!」



その日、食べたチャーハンおにぎりの味は、実はさっぱり分からなかった。
こんな感じで一之瀬がずっとにこにこと嬉しそうに、俺の生命を削り取ろうとするから。
命の危険を感じつつも、それでも俺はそんな風に上機嫌な一之瀬の隣に居る事が凄く嬉しかった。
それこそ破壊力抜群の台詞言ってくるから、一之瀬には内緒だけどな。


 

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