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下着を身に着け、一之瀬の用意してくれた上下のラフな部屋着を広げてみる。
パッケージに入ったままだった下着と違い、それは洗濯してあるいい匂いのする着用済みの物。
・・・当然前に着たのは一之瀬だ。

もう、ね。
照れるだろ?これ。

だってこの服は普段、一之瀬の事を身に包んでいる訳で…。
って、うわーうわー。俺、何一之瀬の着替えなんて想像してんだ!?
馬鹿馬鹿、俺の馬鹿!
一之瀬はちゃんと俺の事を紳士的に扱ってくれてるのに、こんな事考えるなんて失礼じゃないか!?

俺は慌てて顔をぶんぶんと横に振る。

そしてそのままの勢いで一之瀬の服に袖を通す。
それでも、ふぁさっと服が自分の肌に触れた瞬間、とくんと小さく胸が跳ねる。

なんだか一之瀬に抱き締められてる気分。
・・・なんて考えてしまったからだ。


一度でもそう考えてしまうと、一気に今日色々あった事が蘇ってくる。


初めて繋いだ手。
一之瀬の驚いた顔。
苦しいぐらいだった一之瀬の胸の中。


…ってぇ!!
俺っ、俺っ、今日、服なんかじゃなく本物の一之瀬に抱き締められちゃってるじゃん!?
あっ、あの時は必死で、それどころじゃなかったけど、
俺、結構大胆なこと言ったりしてたかも!?

俺から告白したところはしっかり覚えてる。
・・・はっきり言ってこれも結構恥ずかしいけど。


でもっでもっ!
その前は全っ然何言ったか覚えてない。
一之瀬が居なくなるって思って混乱して、色々口走った気がしなくもない。
というか滅茶苦茶そんな気がする。
その後なんて思い出したくも無い。

そして、ぎゅうって苦しいぐらい一之瀬は俺の事抱き締めてくれた。
俺の事を支えたいって言ってくれて、それで、それで…。


冷たい雨の中でも暖かかった一之瀬の胸の中。


一之瀬の服を着ているとどうしてもそれを思い出してしまって頬が熱くなる。
だけど、いつもの「ぼんっ」とは少し違う。

ドキドキするのは同じなのに、それがやけに遠い。
いつもは心臓の動きが激しくて息まで苦しくなるって感じなのに、
今はそこまで心臓は苦しくないのに酸素が圧倒的に足りない。
頭の芯が痺れてて、体がやけに熱い。
自分でも口がだらしなく開いて、息が荒くなってるのが分かる。



どうしよう…。

俺、マジで風邪引いたかも。


こんな風に裸で一之瀬の服の前で照れてる場合じゃない。
俺は照れくささを押し込んで、素早く一之瀬の服を身につける。
一之瀬の服を着ているだけでこんなに照れてるのが恥ずかしくて、どんな顔して一之瀬に会えばいいか分からない。
また頭からバスタオルを被って顔を隠す。



「…遅くなってゴメン」

風呂場から出て、通路みたいな狭いキッチンに居る一之瀬に声を掛ける。
一之瀬の服を着ていることだけじゃなく、こんな風に風呂上りの姿を初めて見せることも恥ずかしくって、
タオルで自分の姿を出来るだけ覆い隠す。
頭から被っているバスタオルを口元で押さえて隠しているから、
声が随分くぐもって聞こえる。


「ん?大丈夫だよ。
半田がシャワー浴びてる間にコンビニ行ってたし。
寧ろ半田が出る前に戻ってこれて良かった」

一之瀬が俺を振り返り、マグを渡してくれる。
俺はすごい緊張してるのに、一之瀬はやっぱりなんか余裕を感じる。
コーヒーかな?と思って受け取ると中身は緑茶で少しだけ意外で思わず笑みが零れる。
こくりと一口緑茶を飲むとふんわりといい匂いがしてほっとする。
なんか少しだけ緊張が解れた気がする。


「弁当がもう無かったから適当に買ってきた。
俺もシャワー浴びてくるから好きなの選んでて」

「あっ、うん」

キッチンのシンク脇には白いコンビニの袋が置いてある。
それは二人分にしては随分大きい。
俺は一之瀬が風呂場に消えるのを見送ってから、その袋を覗き込む。


中を見るとチャーハンおむすびがどっさり。
数えてみると6個もあって笑ってしまう。

「幾ら好きでもこんなには食えないって」

コンビニの棚にあるチャーハンおむすびを買い占めている一之瀬が頭に思い浮かぶ。
それは思わず噴出してしまう程、格好悪い。

俺が弱い、俺の為に格好悪いぐらい必死な一之瀬の姿だった。


「太ったら責任取れよな」

俺はそれを一つ取り出し呟く。
少し多いけど、もう残す気にはなれなかった。


 

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