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「…チャーハン」
「この流れで、ソレ!?」
俺の答えに一之瀬が笑う。
「…サッカー」
「…うん、まあそれはね、俺もそうだし」
何かを待ってるっぽい一之瀬。
俺はそれが何か気付いているけど、簡単には言ってやらない。
・・・だって、初めて俺がちゃんと気持ちを伝えることになるんだし、ね。
「…部活のみんな」
「…サッカー部って皆、仲良しだしね」
なんだかこのやり取りが楽しくなってきた。
こうやって一之瀬と話すのも、俺好きかも。
「…黄色」
「あ〜、黄色好きなんだ。それは初めて知ったかも」
なんだか一之瀬もやけくそっぽくなってきた。
「…格好悪い一之瀬」
「やっと、俺の名前が出てきたと思ったのに…。
俺って格好悪いかな?」
しょんぼりする一之瀬。
少し可愛くて、こんなところも好きだなぁって思う。
何だか俺、一之瀬の全部が好きみたいで笑える。
「半田?」
俺が一人で納得して、一人で笑いを浮かべているから、
一之瀬が怪訝な顔で俺の名前を呼んでくる。
俺はその顔を見詰めながら、自分の中に溢れている気持ちを伝える為に口を開く。
「一之瀬。
俺、一之瀬の事好きになって良かった」
…やっと、土門が言ってた事が本当の意味で理解出来た。
「一之瀬が俺の事好きになってくれて本当に良かった」
…好きな人が自分の事を好きになってくれるってなんて凄い事なんだろう。
好きな人が、自分を認めてくれて、それでも好きだって言ってくれる事が、
こんなにも凄い力を与えてくれるなんて知らなかった。
「俺、一之瀬の事、大好き」
たぶん全てのシガラミを忘れるぐらい好きになるってこういう事だ。
…だって、俺の未来は相変わらずで、俺の体の事も何も解決していないのに、
それでも大丈夫だって思えるぐらい一之瀬の事が好きだ。
この気持ちだけでなんでも乗り越えていける。
俺が好きって笑って言った途端、
それまで呆けた顔で聞いていた一之瀬の顔にどんどん朱が差す。
そして破顔一笑。
一瞬だけ思いっきりの笑顔を見せただけで、一之瀬は俺に力一杯抱きついてくる。
「俺も!
俺も半田が大好きだ!」
あー、俺、こんな幸せなの初めてだよって嬉しそうにぎゅうぎゅうと抱き締めてくる一之瀬は、
たぶん腕の中に俺が居る事忘れてるんじゃないかってぐらい力が強くて苦しくて堪らない。
折角両想いになれたっていうのに、一之瀬一人で喜んでるのは面白くない。
どうせなら一緒に喜びたいのに。
そう思って俺も一之瀬に負けないくらい力を込めたら、何でだか一之瀬の力が急に弱まる。
顔を見ると、さっきより赤くなってるし、
もしかして一之瀬って自分から行く分にはがんがん攻めるくせに、
逆に相手から攻められるのには弱いのかも。
それなら、もっと攻めてやろ。
だって俺、可愛い一之瀬も好きだもん。
「それとね、これ、一之瀬に逃げてるって事じゃなく、それとはちゃんと別だから。
一之瀬とすぐ離れ離れになっちゃっても、俺はずーっと好きだから」
俺が全力で攻め発言すると、俺の思惑通り一之瀬は赤い顔でくりくりの目を照れた様に数回瞬きさせる。
でも、すぐにんまりと笑い出す。
「何言ってるんだ。
やっと半田が俺の魅力にメロメロになったのに、俺が半田を手放す訳ないだろ。
半田が嫌でも絶対離れないよ?」
「本当!?
本当にアメリカに帰らないで、俺の傍に居てくれるの!?」
一之瀬の言葉に俺は逆に驚いてしまう。
…でも、一之瀬から返ってきた答えで、俺は更に驚いてしまった。
攻める事に関しては一之瀬に俺は勝てないらしい。
「アメリカには帰るよ?半田と一緒にね!」
「・・・え?」
「半田はどこに住みたい?
マサチューセッツ?アイオワ?それともニューヨーク?
今度同性婚が認められてる州をリストアップするから、半田が好きな場所に決めていいよ」
「・・・え?ええ?」
「とりあえず帰ろっか。
今夜は泊まれるんだよね。楽しみだな、半田との初めての夜!」
「・・・ええっ!?」
こうして、俺は一之瀬と両想いになれた。
奇跡みたいなこの恋。
もう土門にだって言えない事なんてない。
俺の体の事も、まだまだ悩むだろうけど、
一之瀬のお陰でちゃんと受け入れる事が出来そうだから、土門にだって何だって言える。
…まあ、笑って話す自信はまだ無いけど。
だから今、土門に全部話せるようにここで負ける訳にはいかない。
「ふざけんなっ!
雨止んだし、俺もう帰るって!」
「まあまあ」
「おいっ!さっきの紳士宣言はどこいったんだっ!
マジで変な事したらすぐ帰るかんなっ!」
「うんうん。半田も帰りたくはないんだね」
「話聞いてんのかよっ!?」
「大丈夫だよ、半田。
思い出になるような、あまーい夜にしようね?」
「う〜…、一之瀬の馬鹿ぁ」
END
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