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「・・・本当?」

そんな事、ある訳ないって分かってはいるけど、
それでも一之瀬がそう言うなら、一之瀬はそう思ってるって事で。
それなら俺はそう思うだけの理由が知りたかった。

俺が一之瀬を見詰めると、一之瀬はやっと少しだけ目の端を下げ、口の端を上げる。
見慣れた、いつもの優しい顔。


「うん。
上手く言えないんだけど、
半田が半田らしく居たら、それって普通ってことだと俺は思う」

「・・・意味分かんない」

間髪入れずに俺が言うと、一之瀬の顔が少しだけ赤くなる。
そして少し慌て出す。

「えっ!?
あっ、分かんない?
えーっと、だから俺が言いたいのは、今の半田はすごく普通って事で。
だから、半田らしいってのは普通って事で。
人間、内面が大切なんだから外面なんか気にしないでって言いたくて。
えっと、えっと…だから、半田は半田らしければ大丈夫って事!」

「・・・ゴメン、よく分かんない」

その俺の言葉に驚いて慌てた感じと、
それでも意味が分からない説明に思わず謝ってしまう。
だって一之瀬の言ってる事は意味不明だけど、
さっきの一之瀬が決め顔で決め台詞を言ったつもりだったってのは伝わったから。


「あ〜…。
良い事言ったと思ったんだけど…」

一之瀬は俺が謝ると、更に顔を赤くして、くしゃりと自分の前髪を掴んだ。


「俺はね、外見がどう変わっても半田には半田らしく居てほしいんだ。
俺は半田の普通っぽいところが好きだから」

そう言う一之瀬は赤くなった顔を自分の腕で隠したままで。
はっきり言うと少し格好悪かった。
・・・俺が弱い、少し格好悪い一之瀬だった。


「最初は半田が実は女の子だったんだって思ったから惹かれた。
だから本当に男なんだって分かった時は正直嫌だった。
今だから言うけど、騙されたって思ったよ。
それでも半田のことが好きになったのは、
半田が本当に普通で、反応が可愛かったから。
半田が半田らしかったから好きになったんだよ?」

良い格好しいの一之瀬が、
どれだけ格好悪くても説明を続けてくれるのは俺の為だって、俺はもう知っている。
それに一之瀬の言葉には嘘が無いってことも。

格好付けた言葉よりも、
格好悪くても、飾らない本音の方が胸に響いてくる。


――だから俺の事、本当に内面で好きになってくれたんだって心から信じられる。

・・・それが、凄く、凄く、嬉しかった。


また、ぽろりと涙が溢れる。
でも、その涙は今までと違って、なんだか温かい。


「それにね、俺、最後に残るのは、その人らしさだと思うんだ」

静かに泣き出した俺の背中を一之瀬が優しく撫でる。
もう、腕は掴んでいないのに、
さっきよりも一之瀬が傍に居る気がする。


「その人がどんな事が好きで、何を大切に思うかって事が凝縮されて、
最後に残るのがその人らしさだと思うんだ。

俺さ、事故の後、病院で考えるのはサッカーの事とか、秋や土門の事ばかりだった。
全部俺が好きなもので、大切なもの。
もっとサッカーがしたいとか、
サッカーが出来るようになって、またあの二人に逢いたいとか、
そんな事を思って生きていた。
そう思えたから頑張れたし、それ以外は余り頭に入ってこなかった。
そういう好きなものや大切なものが最後まで自分を支えてくれるし、
その人らしさを作っていくんだと俺は思う。

ね、ついこの間まで死んでた俺が言うんだから間違いないよ?」

一之瀬がまっすぐ俺を見る。
俺もまっすぐ一之瀬を見る。

そう言って俺を伺うように見てくる一之瀬が少し笑ったから、
なんだか俺も少しだけ笑えた。

あんなに降っていた雨も、気付いたら止んでいた。


「ねえ、半田が好きなものって何?
半田らしさを俺に教えて」


 

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