8*



鍵を校内にある校務員室まで走って戻す。
俺の廊下を走る音が校舎の遠くの方まで響いてる。
古株さんに鍵を手渡した時にはもう大分遅くなっていた。
人のいない校舎は明かりもあまり点いてなくて薄暗い。
もしかしたら俺以外、生徒は誰も残ってないのかもしれない。
ほとんど月明かりだけを頼りに俺は昇降口まで走った。



この角を曲がれば出口だという所で、暗い闇の中から急に手を引っ張られた。


「鍵、ご苦労様」

耳のすぐそばで囁かれてビクッとした隙に後ろから羽交い絞めにされ、すぐ側の教室に引き摺り込まれる。
ジャージの上着を捲り上げられ、直接胸に触れた手の冷たさに俺はまた身体を強張らせた。


「やっぱり胸は無いな」

「・・・鬼道!!」

後ろから抱きしめるようにして胸を好き勝手に弄びながら、俺の首に顔を寄せてくる。
首に鬼道のフッて笑う息が掛かる。


「油断しているところを狙うのは兵法の基本だぞ。
わざと油断を誘うのもな」

そう機嫌良く言うと、俺の首を下から舐め上げた。
ぞわわって背中を悪寒が走る。
肉食獣に狙われた草食動物になった気分だ。


「さ、触んな!!」

情けないけど、声が勝手に震えてしまう。
声だけじゃなく、鬼道を押し返してる手も細かく震えてる。
この前みたいに、ヤられて、そのまま中に出されるかもしれないと思うと怖くて堪らない。


「心配するな。
今日はお前の嫌がることはしない」

鬼道の片方の手が胸から俺の男の部分に移動する。
怖くて堪らないのに、慣れた部分への刺激は俺から抵抗する力を奪っていく。
立ってられなくて鬼道の胸に凭れてしまう。
そのまま二人でずるずると床に座り込む。


「じゃあ、今すぐ止めてくれ」

後ろを振り向くようにして必死に頼むと、鬼道は薄笑いを浮かべている。


「そうは言っても、体は嫌がってないぞ。
ほら、もう硬くなってる。
……上も、下も、な?」

そう言うと鬼道は俺の足の間に自分の足を割り込ませて、足が閉じられないようにした。
俺がもう完全に勃ち上がっているのが、俺からも鬼道からも丸見えになってしまう。


「お前のはどこも小振りだな」

俺の耳に鬼道が顔を寄せる。
耳の裏側に、鬼道の息が当たってる。
それは全然規則的で、俺は自分の息が荒いのが途端に恥ずかしくなってきた。
襲われてるのは俺の方なのに、なんで俺ばっかりこんなになってんだよ…。
悔しさと恥ずかしさで俺は俯いた。


「だが、感度は抜群だ」

恥じ入る俺に、鬼道はそう言うと俺の耳に舌を差し入れた。
自分の耳から、くちゅくちゅと音がする。
その音は初めて抱かれた時に自分のアソコから聞こえた音と同じで、どうしたってあの時のことを連想してしまう。
自分の腰の辺りに甘い痺れが広がる。


「…んんっ。ん、…はあッ」

俺は鬼道にバレないように、下を向いたまま声が漏れないよう口を押えた。
声を必死に抑えてるのに、腰が、足が、俺の意思に反して勝手に動いてしまう。


「こっちにも欲しいみたいだな」

胸を触っていた手を、俺の女の部分に鬼道はすっと移動させた。
俺はその手を防ごうと、口を押えていた手で鬼道の手を遮ろうとした。
でもほんの少しだけ、俺の手は遅かった。


「もう、ぐちゃぐちゃだ」

鬼道は俺の女性器を覆い隠すように手のひらを重ねると、中指だけをくぷって俺の中に潜らせた。


「あっ、あ…っ、そこ、やだぁ…っ!」

ぬっぷりと沈んでいこうとしている指を、俺はなんとか侵入を拒もうと鬼道の手の平の下に自分の手を滑り込ませた。
ぐぐっと鬼道の指を押し返すと、ずるりと俺の中から指が抜けていく。
ほっとしたのも束の間、俺の手にぬるっとしたものが触れた。

…鬼道の指だった。


「なあ、本当に嫌か…?
こんなに濡れてるじゃないか」

耳元で囁かれる声。
濡れた手で握り締められようとしてる俺の手。


さっきまで鬼道の指を退かそうとしてたのに、今はその指に触れるのが怖い。
ぬるぬるとしたその指に触れたくない。
なんで鬼道はこんな風にいちいち俺に見せ付けるんだ。

もう鬼道の声も熱っぽく変わっていた。
鬼道の熱が俺にも伝わってきて頭がボウっとする。
恥かしさが加速する。
あの少しの瞬間で鬼道の指を根元まで濡らしたのは俺だって、鬼道が見せ付けるように俺の手を握る。
俺は鬼道の指から逃げようと、必死に手を抜こうとした。
でも鬼道はぎゅうっと後ろから俺を抱きしめ抵抗を封じると、俺の手を握ったまま俺の秘部へと導いていく。


「分かるか…?ほら」

ちょん、と触れただけのはずなのに、ソコはぐちゅりと俺の指を温かいぬるぬるとしたもので包み込んだ。
ぬるぬると濡れたソコは、油断するとすぐにでも俺の指を飲み込みそうだった。
触れたのは一瞬だったけど、あまりの淫靡さに俺は咄嗟に手を引いた。
あんなイヤラシイものが俺の身体の一部だなんて信じられない。
「男」の俺に存在するはずがない。

俺は濡れた自分の指先を、隠すようにぎゅっと握り締めた。


「中までぐっしょり、だ」

俺が手を握ってしまったせいで、鬼道の指は簡単に俺の秘密を暴いてしまう。
鬼道はわざと音を立てて指を抜き差しした。
中を擦るぐちゅっ、ぐちゅっという音が、俺に「お前は女だ。イヤラシイ女だ」って責め立ててるみたいだった。
それなのに鬼道は、俺のちんちんも同時に扱き出す。
「男」の快楽を強制的に俺に思い出させる。
こんなのズルいよ…!
男と女で快感の綱引きしてるみたいだ。
バラバラの方向に快感は凄いスピードで広がってくから、俺はそれを追いきれない。
男か女か一つに決められない俺は、置いてきぼりになって思考力をどんどん無くしていく。


「ハッ!あぁ…っ!あっ、あっ!あぁ、ンッ!」

もう、自分の中からどんどん溢れていく快感を追うことしか考えられない。
目を瞑り欲に流されると、バラバラだった快感の方向性は一つの方に向かってる気がしてきた。
真っ白な空の方。


「き、きどぉ…ッ」

それは突然俺の中にせり上がってきた。
すごい勢いで膨らむ風船のようにどんどん大きくなって、俺を真っ白な空の方へと押し上げてる。

「やぁーー……ッ!な、なんかぁ…、キちゃうぅ…!」

いつ破裂してもおかしくないソレが怖くて、俺は身体を捻って鬼道の胸にしがみ付く。
未知の感覚への恐怖は、鬼道への怒りよりも上回っていた。
馬鹿な俺は、ソレが鬼道によって持たれ込まれていることに気づかない。
限界が近いのだと、ご丁寧にも俺は進んで自己申告してしまっていた。
鬼道は口の端を上げると、俺の中の指をさらに激しく動かす。


「ヤァーッ!やだッ、そこ駄目ッ!!いま、駄目ーーーッ!」

駄目って俺は言いながら鬼道の腕を押さえたのに、鬼道は逆にそこばっかり細かく指を振動させるように擦りあげた。
俺の意思なんてお構い無しに、さらに高みへと昇らせようとする。


「イけ」

鬼道が俺の耳元で囁き、甘く噛む。
甘いはずなのに無慈悲な命令。


「やっ、あっ!?…っん、あああぁぁぁーーーッ!!」

その瞬間、鬼道の命令どおり、俺の中のそれは弾け飛んだ。
なんにも考えられなくなって、身体が勝手に真っ白い空に浮く。
体が弓なりになって、息もできない。

びくんびくんと震える体をゆっくりとまた鬼道に凭れ掛からせる。
鬼道に体を預け、目を瞑ったまま息を整える。
なんか空っぽって感じだ。
さっきまで訳わかんない感情とかでいっぱいだった俺の身体は、真っ白な空に弾け飛んでしまってもうない。
じゃなきゃ、こんな風に鬼道に凭れ掛かるなんて出来ないもんな。


「ッン!」

鬼道が指を抜くと、また体が勝手にびくんとなる。
さっきより神経が過敏になってるみたいだった。
鬼道が未だぐったりしている俺の髪を撫でてくる。
いい子、いい子ってされてるみたい。
「頑張ったな、よくやったぞ」って聞こえてきそう。
これじゃ、なんか俺が良い事したみたいじゃんか。
鬼道を喜ばせる、なんかイイ事。
う〜…、悔しいけど頭撫でられんの、気持ちイイ。


「まさか二回目でイケるようになるとはな」

「ふぇっ?俺、イったの?」

一回、真っ白になってしまったせいか、俺は鬼道への怒りとかそういうのもすっかり忘れてしまっていた。
すっかり今までどおりの仲間感覚で、俺は普通に鬼道に訊ね返してしまった。


「女の方でイったんだ。
ほら、前は出てないだろ?」

視線を落とすと、白いのが混じった先走りは滲んでいるけど、そのものずばりはどこにも無かったし、未だ硬いままだった。


「こっちもイキたいか?」

鬼道が俺の鈴口に触れながら訊ねてくる。
その途端にびくって身体が跳ねる。
うわ、気持ちイイってよりビリビリしてツライぞ、これ。


「さ、触るなって」

ぐったりしてた俺が慌ててそう言ったものだから、鬼道が笑いながら手を離してくれた。
指が離れる時に俺と指の間を結ぶように糸が引いたから、恥ずかしくって堪らない。


「じゃあ、今度は俺の番だな」

鬼道はそう言うと俺の前に回りこんだ。
向かい合った鬼道はこの前の薄笑いを浮かべていて、一瞬で俺は何をされたかを思い出した。
すっかり終わった気でいた俺は、冷や水を掛けられたように凍りついてしまった。


 

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