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「今日…、うん、病院…行ってきた。
検査の結果、聞きに」

思い出すと、心が凍りつく。
まだ、自分の中でも、どう受け取ったらいいのか分からない事。


「俺みたいのって、珍しい症例なんだって。
真性ヘルなんとかって言われた」

「…体のこと?」

「うん、…真性半陰陽だって」

それは自分でも驚く程、平静な声だった。
まだどこか他人事なのかもしれない。

自分の声なのに、どこか他の人がしゃべってるような感覚。
頭が働いてなくて、ただお医者さんが話してた事を思い出しながら話しているからかもしれない。


「外性器の形がどちらも綺麗で、
性腺も不完全だけどどちらも働いている。
しかも、染色体までXXYなんだって。
ここまで揃ってるのは凄いってさ。
出来たら開腹手術して学会で発表したい程だって言われた」

「・・・」

一之瀬の顔が優しいものから厳しいものへと変わっていく。
そうだよな。
こんな話、自分の事でも受け入れ難いのに、
急に聞かされても何て言っていいか分かんないよな。


「俺、声変わりしてるだろ?それに生理も来た。
二次成長がどっちも現れてるって。
だからどんな成長が現れるか分からないんだって。
身長も伸びるかもしれないし、このまま伸びないかもしれない。
体毛も濃くなるかもしれないし、このまま薄いままかもしれない」

ああ、なんだか雨がさっきより激しくなってきた。
一之瀬の顔が見え辛い。


「む、胸も、このままかもしれないし、お、大きくなるかも、しれない、って…」

それになんだか息苦しい。
なんだろう、濃い霧でも出てるのかな?


「俺、今は、普通でも、こぅ…やって、二次成長が、進む、につれて、
ふ、ふつうじゃ、…なく、なる。
どんどん、お、おとこ、か…お、おんな、か分かんなく、なって…」

「半田!!」

俺の言葉は一之瀬の声で遮られる。
降り注ぐ雨さえ、一之瀬の体で遮られて、俺には届かない。
俺に降る雨は、顔にだけ。
俺の顔だけが相変わらず、濡れ続けている。


「みんな、は、ちゃんと、男、と、女、に別れ、てくの、に、
俺、は、どう、なる、か、分からない。
俺、だけ、が、分から、ない」

「もういいから!!」

痛い。
一之瀬の力が強すぎて、息が詰まる。
身動き出来ないぐらい、一之瀬が俺を離してくれない。

苦しくて、
でもその痛みが俺を現実に押し留める。
だからずっと見ない振りしてたのに、
誤魔化しきれず、ついに気持ちが零れ出てしまう。




「俺、このまま、が、いい。
このまま、ふつう、が、いいよぉ…っ」



――俺の逃げたい事。
それは決まってしまった俺の未来。

・・・必ず普通からはみ出していく、俺自身。


それをどんな風に受け入れればいいかなんて自分でも分からない。
一之瀬を拒絶したからって男のままで居られる訳でも、
女の部分を認めたからって普通で居られる訳でも無い。
出来るなら時間を止めてしまいたい。
もうこれ以上成長なんてしたくない。


「ごめん!ごめん半田!!
無理に言わせてゴメン!!」

一之瀬が俺を力一杯抱き締めてくる。

「俺が力になれるんだったら、何でもする!
俺が半田の事支えるから、俺を頼って!
少しでも辛い事忘れられるなら、俺が傍に居るから!!」

「嘘吐き!!」

カッとなった。
頭に血が上って、視界が狭くなる。


さっき俺は怖いって言ったのに!!
弱くなるのが怖いって言ったのに!!


「俺を置いてアメリカに帰っちゃうくせに!!
俺を置いて男になっちゃうくせに!!
ずっと傍に居れないなら、優しくなんかすんな!!
これ以上俺を弱くしないでくれよ!!」


今でも耐えられないのに。

今より弱くなった俺が、
一之瀬に守られることを知った俺が、
一人きりで辛い未来を生きていくことなんて出来ない。

出来ないに決まっている。

それでも一之瀬を求めずには居られないのに。

それが怖くて、どうしていいか分からないのに。


どうして、それを、分かってくれないんだ!?


 

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