17
――その日、俺は部活を休んだ。
その日は、今の俺の心みたいにどんよりとした曇り空で。
些細な事で、雨が降りそうな、
そんな、
そんな空をしていた。
それでも俺はいつも自主練習をしている河川敷に向かって走った。
結果を聞いてから、自分を責めるような顔をずっとしている母親からも、
はっきりとした数値で表された俺の性別からも、
そして決まってしまった俺の未来からも、
少しの間でもいいから逃げたかった。
そう、問題を先延ばしにするのは、俺の得意技だった。
いつもだったら、ボールポストには俺の頭の中にしか存在しない嫌な性格の一之瀬の姿がある。
でも今日は、それ以上に蹴散らしたいものが勝手に浮かんでくる。
俺。
俺の姿。
別に死にたいとか、そういうんじゃなくて。
ただ、俺の気持ちとは全然違うところで、勝手に俺の事が決まってしまって。
今までの俺も、
これから受け入れていかなきゃいけない俺も、
なんでだか今はどっちも嫌で。
有体に言えば考えたくなくて。
考えるのが嫌で。
だから消えればいいって思えて。
でも、消す方法なんて、無くて。
だから、ただボールを蹴っていた。
・・・ボールを蹴るぐらいしか出来なかった。
遠くでゴロゴロと雷の鳴る音がしているのも気づいていた。
ポツッ、ポツッと大きな雨の模様が所々地面に出来ているのにも気づいていた。
・・・でも、どうでも良かった。
雨のせいで暗いからゴールが見え辛くなって、外れ易くなったって、ただそれだけ。
雨で滑って、ゴールポストから外れて草むらに消えてったボールに、
俺は大きな舌打ちをする。
暗いうえに、放置され放題の逞しい雑草に、ボールが中々見つからない。
やっとボールを見つけて、草むらから出てくると、
そこには一之瀬が居た。
いつもゴールポストに思い描く嫌な性格の一之瀬ではなく、
さっきまで俺がボールを蹴っていた辺りに心配そうな顔した一之瀬が立っていた。
何故か俺と同じようにボールを抱えた本物の一之瀬が。
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