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俺はその日から、部活後に自主練習を始めた。
一之瀬からスタメンを奪い返す為の練習だ。

俺は
「なんで急に自主練なんて始めたのか」
って聞かれたら、皆にそう返した。
一之瀬本人にさえ。


だって、嘘じゃないし。


それに皆、
「なんで急に一之瀬からスタメンを奪い返そうなんて思ったのか」
までは聞かなかったし。


そう、考えてみれば「男」なら取られたら取り返したいって思うのは当たり前だ。

当たり前の事なんだから、わざわざ聞くまでも無い事なんだ。


「急に一之瀬からスタメンを奪い返そう」って思った理由さえ頭から追い出せば、
自主練は思った以上に俺に良い効果を齎した。

サッカーが少しでも上手くなると、なんか自分が男らしくなった気がした。
だってさ、なよっとした奴より筋肉隆々の奴の方が男らしいだろ?

それに、打倒!一之瀬!!を掲げていると、なんだか一之瀬が嫌な奴に思えてくる。
毎日、毎日ゴールポストに一之瀬が木野とか女の子にでれでれしてる姿とか、
格好つけてアメリカ自慢してる一之瀬とかを思い描いてボールを蹴っていれば自然とそうなってくる。


それが所詮、俺の妄想で、本当の一之瀬はそうじゃないって分かっていても、
俺は無理矢理にでも一之瀬を嫌な奴だと思い込もうとしていた。

「土門作戦」
・・・すなわち、いつでも土門と一緒に居て一之瀬を視界に入れず、
自分が自分でなくなっちゃいそうな時は土門の事だけ考えるって作戦と相俟って、
俺はだんだんと土門と一緒なら一之瀬と居ても普段の俺で居られるようになってきた。

まあ、前の俺とは全然違って、一之瀬にやけに冷たくはなっていたけど、
それでも挙動不審になったり、突発的に動悸息切れに困るよりは全然ましだ。


そして何より、あの日から何ヶ月か経ったのに、生理が一度も来なかった。

これが何より嬉しかった。


俺のしてること、

――自主練習も、打倒!一之瀬!!も、「土門作戦」も、

全部が正しいよって言われてるみたいだった。


しかも俺が一之瀬と居て平気になるにしたがって、
病院の検査もだんだん嫌なものじゃなくなってきた。
変な診察台の上から、机での質疑応答に、
女ばかりの待合室から、普通に男も居る待合室へと変わっていった。


だから俺は、一之瀬を嫌った。
一之瀬を嫌いでいれば、「反転世界」から遠ざかる。
そう信じていた。


嫌な一之瀬同様、
それが俺の妄想にすぎないって気づかないまま、

そう信じていた。


 

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