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影野君は思いました。

無事サッカー部の存続が決まって良かった。
特に何かした訳じゃないけど注目を浴びれた。
この部ではただ在籍しているだけでも感謝される。
それに何より松野君との繋がりはサッカー部しか無い。
無くなると困る。
そう切実に思いました。

それなのに、サッカー部はまだまだ廃部の危機に晒されたままらしいのです。
試合に負けてしまえば即廃部。
折角帝国との練習試合を乗り切ったのに、サッカー部は未だそんな状況に置かれているのです。

影野君は困りました。

松野君だけじゃなく、影野君はすぐサッカー部の全員が大好きになっていたからです。

そこで影野君はサッカーを頑張ろうと思いました。
運動がやや苦手な影野君は、本当を言うと普段の練習についていくのも難しいぐらいでした。
それでも影野君は必死に頑張りました。
何も言わずいつも最後尾をヘロヘロになって皆についていきます。
ぜーっ、はーっ、ってしながら影野君が見るのは松野君の姿です。
器用な松野君は同期入部だというのに、影野君と違って部の練習を軽々とこなしていきます。
松野君の真剣みの足りない、常時他の人間をからかいながらの練習態度も、影野君にとっては練習を楽しんでるように見えたのです。
辛い練習を軽々とこなし、しかも楽しんでいる松野君を影野君は凄いと思いました。
ますます松野君と仲良くなりたいと思いました。

でも松野君との繋がりはサッカー部しかないというのに、その肝心の部活では影野君は練習についていくのに手一杯でそれどころではありません。
練習前は掃除をサボってやってくる松野君と、掃除を他の人の分まで押し付けられている影野君では時間が合わず話せません。
練習後は疲れきっていて影野君は着替えをするのものろのろと遅く、気づいた時には周りは帰り支度を終えています。

……このままじゃいつまで経っても松野とは仲良くなれない。

影野君がそう思った時には、入部した時に初めて話したあの時からちゃんとした会話の無いまま二週間以上が経っていました。

影野君は少しのんびりさんだったのです。


そして影野君は考えました。
部活以外でなんとか仲良くなれないかな?と。
誰かと仲良くなりたいとそう強く思うのが初めての影野君は、少しだけ怖くなりました。


……二週間も経っちゃったし、もう忘れられてたらどうしよう。


二週間も一緒に部活をやっているのだから普通は忘れるどころか、より親密になっているはずなのに影野君はそう心配したのです。
新しいクラスで自己紹介して三日でクラスメートから忘れられる影野君らしい心配事でした。
それに慣れっこになっている影野君は普段だったら忘れられても全然平気です。

でも、松野君に限っては違ったのです。

自分にとっては凄く嬉しかった事を松野君が忘れてたらと思うと胸がきゅうきゅう軋みます。
話しかけて自分の事を松野君が知らない人を見るように見たらと思うと泣きそうになります。


……なんで二週間も何にもしなかったんだ。
直後にあんな強烈な帝国軍団を見たんじゃ、俺みたいな影の薄いヤツなんて忘れて当然だ。
自分だって二週間前の夕飯のメニューなんか覚えていない。
40分も掛かる食事内容を覚えていないのに、たった五分のおしゃべりなんて忘れてるに決まってる。

影野君は食事を食べるのものんびりさんでした。


何事にものんびりさんな影野君は思いました。

……そうだ、毎日陰ながら松野に何かしよう。
そうしたら少しずつ俺の事を覚えてくれるかもしれない。

昔読んだ靴屋の妖精さんみたいにこっそりと良い事をして松野君の役に立とうと思ったのです。
こっそりと良い事をし続け、いつか自分の存在に気づいて貰う。
影野君らしい気の長い話でした。


ですがこっそり行動するのが大得意な影野君は、これ以上ないくらいの妙案に思えたのです。

……何をしたら喜んでくれるかな?

影野君は考え出しました。
松野君の喜ぶ姿を想像しながら考えるのは、影野君にとって楽しい時間でした。

でも、すぐ気づきます。
影野君は松野君の事をあまりに知らなすぎたのです。

……何も思いつかない。


困った影野君は母親に相談しました。

「ねえ、よく知らない人を喜ばせるには何をしたらいいと思う?」

返ってきた答えはこうでした。

「そうねぇ、プレゼントとかは嬉しいんじゃない?
物や食べ物だったら好みとか好き嫌いがあるから花なんかいいんじゃないかしらねぇ」

それは素晴らしい意見に思えました。

影野君はその足で花屋まで走りました。
お母さんはシャイな息子に好きな女の子が出来たと喜んでるとも知らずに。
松野君が花なんかを愛でるタイプでは無いと思いもよらずに影野君は花屋へ急ぎます。

そして嬉々として松野君に似たカラフルな小さな鉢植えの花を買ってきたのです。
どうやって渡そうかと頭を悩ませながら影野君は小さな鉢植えを手にニコニコと自宅へと帰ったのでした。


 

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