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小瓶を握り締め、逃げるように帰ってしまった『マックス』を思い、影野は薄い笑みを浮かべる。

あの『マックス』はもう一度ここへ来るだろうか。
本当に『マックス』なら誰にも今日のことは話さず、自分の中で今日のことが消化できた頃に必ずまたやってくる。
圧倒されたままではなく影野と対等に話せる程落ち着いた頃にまた。

またこの部屋にやってきてくれないともう自分はあの少年がどの子だか分からない。
匂いでしか『マックス』を識別できない。
あの少年の顔なんてもう思い出せない。

新しい小瓶にマックスと同じ香水をスポイトで取り分ける。
またいつでも新しい『マックス』がやってきてもいいように。
窓の外を眺めると、サッカー部が整列しているのが見える。

――サッカー部か…。
半田から聞いた円堂の言葉を思い出す。
サッカー部なら『マックス』は沢山いるかもしれない。
でも、この部屋にいないとどの子が『マックス』なのか自分には分からない。
だってこの部屋の外では、あの匂いが無ければ何回と逢瀬を重ねた『マックス』でさえ、
どの子か分からなくなってしまう。
皆が皆、ただの生徒の顔になってしまう。

だからこそなのか、いつまで経っても自分には罪の意識が湧いてこない。
自分にとっては、この部屋で愛し合っているのはあの頃の自分と『マックス』でしかない。
半田の言うとおり、自分がしていることは確かに犯罪だというのに。

むしろ願う。
全てを公にするぐらい自分のことを愛してくれる『マックス』が現れることを。
本当のマックスがしてくれなかったことを、贋物でもいいからして欲しい。


机を片付ける手を止め、ついボーっとしていると、理科室のドアがもう一度開く音がした。

「忘れ物でもした?」

さっきの『マックス』が戻ってきたと思い、微笑みながらドアの方を向く。


でもそこに居たのは『マックス』なんかじゃない本物のマックス。
…片時も忘れたことの無い、たった一人の愛しい人。


 

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