3*
「今日は…」
「ん?」
「・・・しないの?」
俯いたまま恥ずかしそうに、そして何故かほんの少しだけ悲しそうにそう影野が訊いてくる。
――あ、そうだった。今日は仁におねだりしてもらおうって思ってたんだった。
すっかり腕の中の可愛らしい仁で満足していて忘れていた。
マックスは当初の目的を思い出し、急遽路線を元に戻すことにする。
「ん〜、なんか今日はくっ付いてるだけでも十分って気分なんだよね。
仁は?」
探りを入れるつもりでそうマックスは訊ねる。
その言葉は云わば影野から言ってもらう為の、布石に過ぎなかった。
でも、影野はマックスの言葉を聞いた途端、急に立ち上がるとマックスの方へ振り返る。
振り返った影野は、泣きそうな顔をしていた。
え!?
そう思った瞬間、影野が唇を重ねてくる。
「んっ、…ちょっ、ふぁ…ん、まっ、まって」
いきなりの行動にマックスが目を白黒させているのに、影野の舌はお構いなしに口腔を蹂躙してくる。
こんな一方的にされるのは、はっきり言ってマックスの趣味じゃない。
でも、ぎゅっと体ごと抱きしめられているから、影野を押し返すこともできない。
必死にキスを交わしながらも言葉を紡ぐと、
やっと影野は体を離してくれる。
「ど、どーしたの?」
はあはあと息を整えながらそう訊くと、影野は泣きそうな顔で言う。
「もうっ、俺のこと飽きちゃった?
俺がいつも何もしないから?
これからはちゃんとするから、
だからっ・・・。
…き、嫌わないで」
涙を堪えてそう言うと、マックスをベッドに押し倒し、また唇を重ねてくる。
体ごと押し付けた、無我夢中のキス。
上から思いっきり舌を入れられてしまい、マックスは逆にあまり舌を動かすことができない。
無我夢中で体を押し付けてくる上に、マックスより影野の方が体が大きいから、自分が上になることもできない。
どうしても主導権を握ることができない。
漸く影野が体を起こして、ほっとしたのもつかの間、
自分に跨ったまま影野がシャツのボタンをプチプチと外しだす。
「ちょっ、仁!
とりあえず退いてってば!」
自分の力では影野を退かすことはできない。
このままでは立場が逆転してしまう。
そう思うとどうしても必死な声がでる。
「やっぱり、俺とはしたくないんだ…」
そのマックスの必死な声を見事に誤解して影野が呟く。
ちらりとマックスのソコを見ても、無反応のままで、ついに影野は涙をぽつんと溢してしまう。
「だ、だから違うって!」
自分は攻めて、相手が自分の手で徐々に欲に溺れていくのを見るのが好きなのに、
こんな風に一方的に押え付けられたら、興奮するものもしなくなってしまう。
でも、思い込んで暴走中の影野にはその言葉も通じない。
「こ、これでも、駄目?」
泣きながら自分で服を脱ぎだす。
ちらりと無反応なソコを見て、また悲しそうに顔を歪める。
「こ、これでは?」
見よう見真似で、普段マックスにされている愛撫をぎこちなく施す。
恐る恐る首筋を這わされる舌に、不器用に撫で回される胸。
拙いその愛撫は、触れられることに慣れてないせいもあって、
気持ちいいというよりくすぐったい。
テクニックの違いと慣れ、そして生来の感度の差があることに思い至らない影野は、
マックスの無反応に恐怖が募る。
いつも自分が声を漏らしてしまう行為をマックスにしているはずなのに、
時折眉を寄せるだけで何の反応が無いマックスにさらに嫌われてるっていう思い込みが加速する。
だから、気付かない。
普段体を硬くするばかりで受身一辺倒の自分が、必死に奉仕する姿に密かにマックスが煽られていることに。
顔は無反応でも、ソコはしっかり反応しだしていることに。
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