Hバージョン



街がバレンタインムードに染まりだした頃から、
バレンタインという恋のイベントを前に影野は明らかに動揺していた。


――マックスにあげたら喜んでくれるかな…?

正真正銘二人は恋人同士だというのに、影野の心配はまずそこから始まった。

甘い物好きなマックスにチョコを用意しないと嫌われるかもと、
店に向かっても雰囲気に負け結局買えず。
買うのが無理なら手作りだと、
材料を集めてみても結局ラッピング用品売り場もバレンタイン一色で足を踏み入れられず。
男同士なんだから別に渡さなくてもと思っても、
極度の甘い物好きなマックスの顔を思い出すとそうもいかず、堂々巡りな日々を送っていた。

バレンタインのポップを見る度に狼狽する影野をいち早く気付き、それを満喫していたマックスだったが、
バレンタインの二日前になっても挙動不審が直らない影野をついに見かねてこう提案した。

「ねえ、今年のバレンタインはうちでチョコフォンデュでもしようか?」


バレンタイン当日、マックス邸にて二人でチョコフォンデュを用意する。
手作り用に影野が買い込んでいた大量のチョコと、二人で買いに行ってきた果物、そしてマックスが淹れてくれた温かいコーヒー。

「マックスもコーヒーなんて珍しいね」
初めての恋人と一緒のバレンタインに幸せを感じている影野がコーヒーを飲みながら笑顔で言う。

「ふふふ、これバレンタイン用にチョコフレーバーの特別なヤツなんだ」

――特別なのはそれだけじゃないけどね。
マックスは内心ほくそ笑みながら、やはり上機嫌で答える。

「えっ、俺何も用意してないよ…」
マックスの答えに影野が青ざめる。
二人でチョコフォンデュをするから、自分は他に何も用意していない。
何事にも悲観的な影野はそんなことさえ気にしてしまう。

「別にいいよ。(仁からはこの後他の物貰うし」

「でも、俺だけ何にもないんじゃ…」
マックスの返事を聞いても、まだ気にしている様子の影野にマックスはあることを閃く。

「じゃあさ、ボクに仁がチョコつけた苺食べさせてよ。
プレゼントとして、あーんって」
ニコニコしてそう言われたら、負い目のある影野は恥ずかしくてもやらざるをえない。
でも緊張でチョコ付きの苺片手に、マックスを前に固まってしまう。

「ほら、あーんってば」
マックスの促す言葉に、うーうー唸りながら俯きがちになんとか苺をマックスの口の前に差し出す。

「…あーん」
いつもよりさらに小さな声ではあったけれど、確かにそう言いながら差し出された苺にマックスは満足そうにぱくっと食いつく。
苺だけじゃなく、影野の指も一緒に。
指に食いつかれた影野は息を飲む。

「おいひい」
もぐもぐしているマックスと自分の指を見つめ赤くなる影野。

「ボクも食べさせてあげるね」
そう言うマックスが今度は同じようにチョコの付いたバナナを差し出す。

「あーん」
照れもせずそう言うマックスを前にもうさっきから湯気出まくりの影野はギブアップ寸前だった。
でも、この後も二人でチョコを食べさせあうという行為は続けられる。
フルーツが無くなり影野がほっとしたのもつかの間、今度は更なる要求が影野を襲う。

「じゃあ、次は仁の指にチョコ付けて食べさせて」

「は?」

「今度は仁が食べたい。だって仁が一番美味しそうなんだもん」
そう平気な顔で言うマックスに、ついに影野が白旗を揚げる。

「…それ無理」

「そう?じゃあボクの食べる?」
そう言うと影野ににじり寄りチョコの付いた指を無理やり口に入れる。
二本も入れられ苦しいのに、チョコを舐める為に舌を這わしているとなんだかイケナイ気持ちになってくる。
影野が指を舐めながら顔を赤くしていると、指が抜かれ、今度は口にチョコを付けられる。
チョコに付いた指で唇をなぞられるだけで息が漏れるのに、
この後されるだろう行為に胸が苦しいくらい高鳴る。
どんどん近づいてくるマックスの顔にぎゅっと目を瞑ると、唇にマックスの唇では無くぺロっと舌で舐められた感触がする。

「え?」
慌てて目を開けると、べぇっと舌を出したマックスの顔。
そしてすぐさま少し開いた口に深い大人のキスをされる。

「っん、…ふっ、んん」
不意打ちのキスのせいか、いつもより性急に蠢く舌のせいか、
影野はキスだけでいつもより昂ぶってしまう。
いつもだったら、何度しても慣れなくてぎゅっとマックスの服を掴んでいるのに、今日はマックスの背に縋るように手を回している。
その様子にマックスは心の中でガッツポーズを決める。

――これならいける!

唇を離した時に影野が物寂しそうに吐息を漏らしたから、マックスは確信を深め、影野に分からないように、にやりとする。

「もうチョコ無くなちゃったから、片付けてくるね」
今までの甘い雰囲気など無かったかの様に立ち上がる。

そう、今日のマックスの本当の目的は
『仁からのおねだり』!!

先程二人で飲んだコーヒーもただのチョコフレーバーではなく、催淫効果がある『ガラナチョコ』フレーバーをこの日の為に用意していた。
何度しても、触れるだけのキスでさえ物凄く照れる影野も可愛いが、たまには影野からも甘えて欲しい。
それが常日ごろからのマックスの偽らざる本音だった。
影野のあの様子なら今日こそ『おねだり仁君』が見れるかもしれない。

そう思いながら、後押しのコーヒーのお代わりを淹れていると、背後からつんつんと服を引っ張られる。
マックスが後ろを振り向くと、そこには顔を赤くした影野がいた。


 

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