イミテーションゴールド



「半田!」

賑やかな居酒屋の店内で、相変わらず影の薄い自分を探す為にきょろきょろしている半田に手を上げる。

「よう、久しぶり!」
仕事帰りでスーツ姿の半田がにこやかに笑いながら席に着く。

「この前皆で会った時、お前来なかったから皆残念がってたぞ」
席に着くなりビールを注文すると、先に影野がある程度注文していた品に箸を付けながら半田が言う。

「円堂がさ、お前もサッカー部の顧問になれって言ってたぞ。
自分のところのチームと試合やりたいって」
中学校の教師という職を選んだ影野に、
同じように現在中学サッカー部の監督をしている円堂の言葉を伝える。
この前の雷門サッカー部OBの飲み会は、円堂が指揮しているサッカー部が全国優勝した祝勝会と称して開催されていた。

「この前んときは珍しく鬼道や一之瀬達まで来たんだぞ。
来なかったのはそれこそお前ぐらいだ」
鬼道財閥の御曹司として世界中を股にかけて飛び回っている鬼道や、
アメリカに住んでいる一之瀬達が一同に会することなんてそうそうあることではない。
滅多に会えない友人に会えるとあって、メンバーはなんとか都合をつけて集まったのだ。
だが、その場に影野の姿は無かった。

都合が合わない訳では無かった。
皆に会いたくない訳では無かった。
ただ、まだ平気な顔であの人に会う自信が無かっただけ。

「…まだ引き摺ってんのかよ?」
OB会で会った古い友人達のエピソードを一頻り語り合い和やかな時間を過ごした後、心配そうに半田がぽつりと訊ねる。

中学からの古い友人である半田は全て知っていた。
いつも三人でいたから、その内の二人が恋仲にあることは半田にはすぐばれた。
だからこの時の質問に影野が何も言わず少しだけ困ったように微笑んだだけで、
四年前に別れた時から何も変わっていないこともすぐ伝わってしまう。

「お前もさ〜、いい加減にしろよ。
お前から振ったんだろ?
アイツなんてもう遊び放題だぞ!?」
もう随分酔いが回ったらしい半田が日本酒をぐいっと呷り、ドンとテーブルに音を立てて置きながら言う。

「マックスの野郎、今度はまた男と付き合ってんだぜ!?
お前と別れてからもう何人目だ?
最初はバイトの子で、次が主婦だろ?
大学の後輩とその友達は二股だっただろ?
ああ、あの眼鏡のOLの子は長かったよな。
三ヶ月持ったもんな。
俺の知ってるだけで八人、いや九人か?
ったく、あいつも愛想だけは良い癖に、相手が深く近づいてくると面倒臭くなるんだぜ。
相手がどんな奴か分かるとすぐ飽きるしな。
その癖来る物拒まずだもんな」

呆れたようにもう一人の友人を扱き下ろす。
半田は会うと必ず自分が知りたがっている事を、自分が訊ねなくてもそれとなく話してくれる。
悪口を装って語られるそれは、いつまでも過去に囚われている自分の目を覚まさせる為。
半田が本当は自分のことも、マックスのことも心配していることを影野は知っていた。

「なあ、お前だけなんだぜ?
アイツが自分の傍にずっといることを許した人間は」
今日の半田は酔いが早い。
いつもだったら言わないような言葉を呟く。

「…ヨリ、戻せよ。
お前あれ、まだやってんだろ?」
テーブルに腕を突き頬杖を付きながら、怒ったように半田が言う。

「…うん、止められない」
グラスを見つめながら影野が肯定の言葉を呟くと、半田が弾かれたように体を起こす。

「お前それ犯罪なんだぞ!?
バレたらお前、人生終わるんだぞ!?
分かってんのかよ!?」
腕を痛いぐらいに掴み揺する。

「お前、そんなことするぐらいならヨリ戻せよ!
じゃなきゃ、ちゃんと次の相手見つけろよ!
お前、女にはモテないけど、男にはモテるだろ!?」

「そ、そんなこと無いよ」
半田は心配して怒っているのに、影野はどこ吹く風で、耳を赤くしてモテる発言を自信無さげに否定する。
その様子に怒りを殺がれた半田はテーブルに突っ伏す。

「あ〜、も〜、こうしてると野暮ったいおっさんなのによ〜。
なんなんだよお前、詐欺だろ詐欺。
あん時はその気のない俺でもゾクっとしたもんな〜」

「あっ、あの時のことはもう言わない約束じゃないか」

四年前マックスに別れを告げた直後、自分は自暴自棄になり、
マックスを忘れる為に沢山の人を誘った。
自分のことを心配してくれた親しい友人の半田でさえ。
半田とは結局しなかったとはいえ、何人もの人と行為を重ねた。
自分にはマックスがいない人生などなんの意味も無いということに気づくまで。

「あの時のことは本当に反省してるんだ。
もう半田のことは絶対誘わない」
きっぱりと言う影野をチラリと見た半田がすぐ顔をうつ伏せに戻して呻くように言う。

「あの頃のこと反省するぐらいなら今やってることすぐ止めろよ。
…あの頃の方がまだましだった」


「相手がちゃんと大人だったからな」


 

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