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次の日、影野君は新しい鉢植えを持って登校しました。
今日渡すんだと思うと、少し緊張してしまいます。

……その前にトイレ行っておこう。


緊張した影野君は松野君にプレゼントを渡す前に用を足す事にしました。
時計を見ると、まだそれぐらいの時間は余裕であります。
松野君はいつも遅刻ギリギリに教室に来る事を影野君は知っていたのです。
絶え間ぬストーカーの成果です。

それでも急いで影野君は戻ってきました。
一刻も早く渡したいと気が急いたからです。


影野君がトイレから自分の教室に戻ってみると、何やら様子がおかしいです。
教室で誰かが大きな声で怒鳴っています。
影野君は恐る恐る教室の様子を窺います。
何人もの人が教室の一角に集まって騒いでいるようです。

影野君は、ん?と思いました。
なんだかその集団の中心は自分の机辺りに思えたからです。
影野君はその集団の後ろからこっそりと何が起こっているのか覗き込みます。
影野君が覗き込もうと背伸びした瞬間、クラスでも目立つ方のとある女子の怒号が響きます。
びっくりして影野君は首を竦めました。


「ちょっと!誰よこんな陰険なイジメする奴!?
やった奴正直に出てきなさいよっ!!」

……イジメ?

なんだか剣呑な言葉に影野君は首を捻ってから、もう一度後ろから背伸びで覗き込みます。


「アイツだってうちらのクラスの一員なんだよっ!
何にも悪い事してないのに、こんな事して恥ずかしくないのっ!?」

「そーよ、そーよぉ!
中学生にもなってこんなイジメするなんて最低ぇー!!」

何人かの女の子が腕組みをしてクラスメイト達を睨みつけてるのが見えます。
そして真ん中に陣取っている女子の手には影野君の鉢植えがあります。


「あ…」

影野君は小さく呟きます。

そうです、影野君が机に置いておいた鉢植えを陰湿なイジメと勘違いしたクラスの女子が犯人を捜していたのです。
そういう誤解もあろうかと思って切花ではなく鉢植えにしたのに、折角の影野君の気遣いも無駄でした。
というよりも、それ以上に影野君がイジメの対象になりそうなキャラだったということでしょうか。

影野君は誤解を解くために前へと進みます。
混み合っていたので前に出た時には何故か、その女子達の背後に来ていました。


「あのぉ〜…」

「キャア!」

突然の影野君の登場に女子たちは悲鳴を上げます。
まあ、実際には気づかなかっただけで大分ゆっくりとした登場で突然では無かったのですが。

「それ、俺の花」

「えっ?」

「だから、その花イジメじゃなくて俺が自分で置いたんだ」

影野君がそう言うと女子達は大分気まずそうでした。
あれだけ大騒ぎしといて勘違いだったのですから当然です。
案の定その中の一人は顔をやや赤く染め、恥ずかしいのを誤魔化すように影野君を責めます。


「もうっ!なんだって花なんて持ってきたのよ!?
紛らわしいでしょ!!」

……なんでって言われても。

影野君はなんと言っていいか困ってしまいます。
松野君にあげる為とは何故だか言いたくありません。
影野君は自分の宝物のような気持ちをこんな風に言ってしまうのが惜しかったのかもしれません。

影野君が理由も言えず口篭っていると、騒ぎの成り行きを見守っていたとある女の子が見かねて呟きます。


「もしかして…影野君、クラスにお花持ってきてくれたんじゃない?」

「そうなの!?」

その女子の言葉に影野君に一気に注目が集まります。
ですが、違うと言って本当の理由を追及されるのが怖い影野君は何とも言えません。
その影野君の無言を周囲の女子は肯定と受け取りました。
恥ずかしがっているだけと思ったのです。


「じゃあもしかしてちょっと前からある、あの鉢植えも影野君が!?」

「…うん」

今度は間違いなく事実なので影野君は頷きます。
頷いた途端、クラスは大騒ぎです。

「じゃああの花の世話してたのも影野!?」

「うん」

「水やりだけじゃなく、余計な分を剪定したり肥料まで用意したのもアンタ!?」

「うん」

影野君はいつか松野君にあの花を渡そうと思っていたのでちゃんと世話をしていたのです。
それに影野君は凝り性でした。

「じゃあ、じゃあ!
もしかして教室の掃除ももしかして影野!?」

「うん」

「うわぁっ!うちのクラスの妖精さんって影野だったんだ!?」

「……?」

……妖精さん?
影野君はいきなり出てきたファンタジーな言葉に首を傾げます。

「掃除もしてないのに次の日には勝手に綺麗になってるから、うちら妖精が居るって噂してたんだよ!?
別名掃除の足長おじさん!」

「……」

予想外の言葉に影野君は言葉を失います。
まさか自分がこのクラスで妖精扱いされていたとは夢にも思わないでしょう、普通。
そして本気で妖精を信じる中学生がいるとも。
ですが、影野君のクラスにはそんな中学生がいたのです。
しかも大勢。

そうです、影野君は掃除を押し付けられていた訳では無かったのです。
クラスの皆は、この教室は勝手に綺麗になる不思議な教室と思っていたのでした。
なんという純真なクラスでしょう。
事実を知った純真なクラスメイト達は今までの感謝とお詫びを込めて影野祭りを開催したのでした。


「か・げ・の!KA・GE・NO!くぅわ・げぇ・のう!」

ヒーハーと影野君を讃える声が学校中に木霊します。
当然松野君のクラスにも。

松野君は思いました。

……また何か仁の天然が炸裂したのかな?思ったとおりやっぱり仁って面白い。

と。


そして影野君もクラス一のマッチョの肩の上で思ったのです。

……その花ももうクラスの花にするしかないな。

と。

次からは花以外の物をあげようと胴上げされて宙に舞いながら影野君は決心していたのでした。



 

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