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「…って、シリアスど真ん中に言ってたのはどこのどいつだよ!?」

雷門のツッコミ番長、ちっこいストライカー倉間が頭を抱える。



昨日、重々しい雰囲気の中交わされた南沢と剣城の会話。
「フィフス流の化身特訓法を教える」(要約)との剣城の言葉に、いの一番に騒ぎ出したのは一年達だった。
「うわー、剣城が特訓してくれるのかぁ!
俺、絶対行こうっと!」
と天馬が騒げば、それに他の一年もいつもどおり乗っかり。
その能天気な様子に名指しで指名された三国を始めとする三年連中も恐る恐る参加を表明した。
そうなると浜野もそんな楽しそうな事に黙っていられるはずもなく。
そんな浜野に速水は勿論倉間までも誘われていたのだった。


――化身が出せるようになるかも。


その浜野の誘い文句は倉間の心にも随分と甘く響いた。
自分も化身持ちにという想像の前には剣城に教わるなんて、という矜持は最初から脆かった。
一晩悩んで、あの南沢も参加するのだし、と自分で自分に言い訳をして恥を忍んで室内練習場に来たというのに。

それなのに……。


「これのどこがサッカーの特訓だっ!?」

目の前には色とりどりのコスプレ衣装。
しかもそのどれもが「え?これどこの風俗店ですか!?」という程、どギツイ。
これに着替える事が特訓だと言われても納得できるはずがない。

「しかも南沢さん居ねーし!!」

変態衣装に身を包んだサッカー部の面々の中に、南沢の姿は無い。
そもそも南沢は後輩に教えを請うようなキャラじゃなかった。


「……だから言ったじゃないすか。地獄を見るって」

「そういう意味!?」

剣城の声に思わず突っ込んで、振り返るとすぐさまがっくりと倉間は項垂れる。

「あ、どこ見てんすか。
倉間先輩って見た目によらずエッチなんすね」

ミニスカポリス姿の剣城が胸元と、めちゃくちゃミニのスカートの裾を延ばしながら倉間を不貞腐れたように睨む。
微かに染まった頬がツンデレ可愛い(?)

「見てないだろ!?俺、今、そっこー目ェ逸らしただろうが!?
それこそ母ちゃんの浮気現場目撃した時ばりに気まずくてそっこー目ぇ逸らしたからなぁ!」

「……照れ隠しですか。
変に取り繕うと逆に格好悪いすよ」

「違ぇえ!!
いくら俺がモテない中二でも、お前にがっつく程餓えちゃいねぇえんだよ!!
つーか、お前こそ自分が可愛いとか勘違いしてんじゃねーの!?
テメェの方が格好悪ぃいんだよ!!」

「ふっ。
ああ、俺じゃなくて南沢さんのが見たかったって訳ですか」

「だからーっ!!違ぇえええ!!」

怒涛のすれ違いに倉間は力いっぱい怒鳴ると、肩ではあはあと息をした。


「ああ゛ーっ、もういいから、このぐっだぐだの状況を説明しろってんだ!
これのどーこーがー化身の特訓だっ!!」

ばっと指差した先には、バニー車田が毛むくじゃらの逞しい足を網タイツに必死に押し込めようとしている。

…帰りたい。
倉間は心の底からそう思った。


「……自分はシード養成所で一番最初に、これをやらされました。
自分の限界を自分で決めるなと、限界を超えて新しい一面を発見しろと」

「ちょっ!三国さんがマジで新しい自分を発見してるんですけど!?
どーすんだ、お前!?三国さんが進路希望調査に『新宿二丁目』って書いちゃったら!!」

ばっと指差した先には、エロエロメイドの三国が戸惑った顔で鏡に映った自分の顔にそっと触れている。
その顔は三国母にそっくりで、まあ綺麗に見えないと言い切る事は出来ないようなそうじゃないような。
ごめんなさい!ぶっちゃけそんな驚く程美人になっているという事実は無い。
むしろ何故三国の新しい扉が開いたのか聞きたいぐらいだ。


「新宿二丁目って…、そんなのただの場所じゃないすか。
それ進路希望じゃなくて、ただの進行方向だと…」

「おいいいっ!その『何言ってんだこの人、あったま悪ーい(半笑い』みたいな目をそっこー止めろぉおお!!
頭緩いのは俺じゃなくてお前だから!!
お前、サッカー以外なーんも知らないんだなっ!!」

「……新しい自分の一面も知ってます」

ムっとして言う剣城に倉間のツッコミの声が響く。


「それがこれかよっ!!」

侮蔑の表情で倉間が剣城のミニスカポリス姿を指差す。
そう言えば色の白い剣城にミニスカポリスのきりっとした濃紺の衣装はやけに似合っている。
特訓の成果だと思うとやりきれない。

「違う。
……化身の事っす」

「こんなんで化身が出るかああっ!!」


…倉間の言うとおり、化身が出るような気配はまるで無いまま特訓は続く。



 

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