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シャワーを浴びて部屋着に着替えた狩屋は、まだ動いてる洗濯機の上に肘を付いてバッグ(秘密道具入れ)を漁っていた。
はっきり言って、狩屋は次に何を使っていいか決めあぐねていた。
なんと言ってもバン&ガゼの二人が持たせてくれた誘惑グッズの数々は、狩屋には使用方法さえ謎なものが多い。
「どうやって使うの?」と聞いても「大丈夫だろ、アイツに任せてりゃ」とか「禍福は糾える縄の如し、何が幸いするかは神をもっても謎だろうね」とか言ってはぐらかされてしまった。
多分イチイチ説明するのが面倒だったのだろう。
洗濯機の上に並べてみても謎は募るばかり。


「う〜ん、どう見てもこれなんてイルカの人形にしか見えないけどなぁ…」

狩屋の手には白いイルカ(まあ、アレです)と取れたケータイのアンテナにしか見えない物体(まあ、アレです)がある。


「となると次はこれかな?」

狩屋はバッグの中から一際大きな箱を出そうとごそごそと中を漁った。
その時、急に脱衣所のドアが開いてヒロトが顔を出した。


「随分時間掛かってるけど、もしかして洗濯機の使い方が分からないかい?」

ガバーッ!
背後からヒロトの声が聞こえた瞬間、狩屋は洗濯機の上にダイブした。
いくら自分にとっては用途不明の品々だからと言って、大人で、しかも博識なヒロトまで用途不明なはずがない。
いつかはヒロトに使用方法を教えてもらうにしても、こんな形で見られてしまっては元も子もない。
そんな事になっては作戦が企画倒れになってしまう。
狩屋は洗濯機の上に大きく身を乗り出して、ドアの方へと引き攣った笑みで振り返った。


「あ、あははー、合宿で疲れた身体に洗濯機の振動が気持ちいいなー…、ってねー。
あ、ヒロトさん、今度コレを洗濯機兼マッサージ機として売り出したら売れるんじゃないですか?
洗濯の合間におススメ!…なーんて」

随分苦しい言い訳だ…。
狩屋は言ってて自分で悲しくなってきた。
自分はいつの間にこんなにヌルイ人間になってしまったのか、と。
誰もが簡単に騙せてしまう雷門というぬるま湯に浸かってる内に、咄嗟とは言え、こんな子供騙しの言い訳しか思いつかないとは。
こんなんじゃ雷門の能天気な一年は誤魔化せても、ヒロトは絶対に誤魔化されてはくれないだろう。
そう思ったのに……。


「うん、いいかもね」

「…?」

返ってきたヒロトの答えは意外なものだった。
ヒロトは微笑みを浮かべそう言うと、明らかに挙動不審な狩屋を放置でそのまま踵を返そうとしている。
ヒロトの行動に引っかかりを感じたものの、下手にツッコんで墓穴を掘る訳にはいかない。
狩屋はヒロトの妖しい行動を問い詰めるよりも、己の保身の方を選んだ。
惜しい!狩屋!!
ここでもう少し疑問に思ってヒロトに追求していれば、「ドキッ☆誘惑大作戦」はもしかしたら成功していたかもしれないのに!


「マサキ」

「え、っとー…、なに?ヒロトさん」

そのまま出て行くと思ったヒロトが、ドアに手を掛けたまま思い出したように狩屋を再度呼んだ。
狩屋はホッとしたのも束の間、ドキッとして慌てて後ろ手で用途不明の怪しいグッズを隠して振り返った。


「その格好は少しだらしないかな。
ここにはマサキよりも年少の子も沢山居るんだから、家だからといって余りにもだらしないのは感心しないよ」

「はーい」

ヒロトの忠告に、狩屋は素直に返事をした。
怪しいグッズではなく自分の格好を窘められただけと知り、狩屋は密かに安堵で胸を撫で下ろしていたのだ。
ま、この格好は少しラフすぎるか。
ぶかぶかのパーカーの裾を延ばして、狩屋は一人ごちた。
狩屋自身がそう思う程に、少し身長が伸びても楽に着れるようにとワンサイズ大き目に買ったパーカーに、下はボクサーパンツ一丁という己の格好はだらしなく見えた。
休みに日でもきちんとアイロンの掛かったシャツを着用しているヒロトに注意されたら反省せざるを得ない。

結局「ドキッ☆誘惑大作戦」が意図せず成功の兆しを見せていた事に狩屋は気づかず、注意されるままに雷門ジャージを履いてしまう。
ヒロトが密かに狩屋のラフな生脚にドキッとした事は、誰にも気づかれることなくこうして闇に葬りさられた。
しかもヒロトさえもドキッとさせた狩屋のセクシースタイルは他の誰の目にも止まる事は無かった。

もうこの時点でヒロトが狩屋の一枚も二枚も上なのは言うまでもない。


頑張れ、狩屋!!負けるな、狩屋!!
ヒロトがドキッとした事にさえ気づかなくてどうやって作戦が成功するんだ!?ってぶっちゃけ思うけど、諦めたらそこで試合終了ですよ!!


 続く!!

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