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「ちょっとー!
なんで閉めちゃうんですか!?酷いですよー!!」

折角のキメ顔まで披露したのに鼻先で締め出されてしまった狩屋は、大慌てで玄関のドアを叩いた。
すぐさま再度開かれるドア。
中から顔を出したのは、さっきと同じような柔らかい笑みを浮かべたヒロトだった。


「ああ、ゴメンね。やっぱりマサキだったんだ。
変質者かと思って反射的にシャットアウトしちゃった。ゴメンね」

「・・・」

いつもの穏やかな表情で辛辣な事をいけしゃあしゃあと言い放つ姿は、ドアを閉める前の固い表情とは程遠く余裕さえ感じさせる。
瞬間で立て直すところは流石ヒロトと言わざるを得ない。
だが、練りに練った渾身のセクシーポーズを恋人であるヒロトに「変質者」と斬り捨てられた狩屋はグサツと心に大ダメージを負った。


そう、こんな二人だが、確かに二人は紛うことなく恋人同士。
ただし頭に「狩屋が高校を卒業するまではノータッチ、ノーセックス」と付く、条件付きの清く正しい(注:男同士じゃんってツッコミは無しで)恋人同士だった。
当然、この条件を提案したのは告白した狩屋ではなく、告白を受け入れたヒロトだ。
才能溢れる若きイケメン社長ヒロトのモテっぷりは凄まじく、狩屋が「それでもいいから」と条件を受け入れるには充分だった。
しかしそれ故に、狩屋は焦っていた。
自らそんな厳しい条件を出しただけあって、ヒロトは本当に何もしてこない。
ぶっちゃけ流石に中学生だしエッチな事はしないだろうけど、実際付き合いだしたらキスぐらいはするだろうと思っていたのに、それも無し。
恋人になって変わった事と言えば、今まで以上に自分に甘くなった事だけ。
しかしそれさえ「マサキに良い環境でサッカーに打ち込んで欲しいから」という粋な計らいで雷門中に編入させてもらって以来、二人で会う事さえままならなくなってしまった。
雷門中は確かに面白い所だが、新しい生活に慣れてきて恋人と中々会えていない現状に気づくと、狩屋の頭にはある疑惑が生まれていた。


――あれ、これって恋人って言わなくない?
というか、もしかして俺って形だけOKして貰っただけで結果として良い様にあしらわれてないか!?


そう一度でも思ってしまうと、ヒロトの行動は怪しいところだらけだった。
10歳以上年上の恋人はいつだって余裕たっぷりで、狩屋如きでは腹の底は全く読めない。
優しい恋人と言えば聞こえはいいが、見ようによっては甘い父親か兄のようにも感じられる。
そのうえ破格の高条件であるヒロトを狙ってる女性は至る所に存在する。
ヒロト自身はいくらモテようが歯牙にも掛けないでいるのがせめてもの救いだが、本当は自分という存在を隠れ蓑にして、多数の女性と酒池肉林な生活を送っているのではないか。
ペットという名の愛人を日本、いや世界中の津々浦々に住まわせているのではないか。
週末はゴージャスなホテルで両脇にセクシー女性を侍らせ、札束の浮いた黄金風呂でブランデーを傾けるヒロト……。

疑心暗鬼をそんなベタな妄想にまで発展させた狩屋は、思い詰めた末にとある人物達に、自分の疑惑を相談した。
ヒロトを昔からよく知ってるはずのその二人は、しかしヒロトの私生活やヒトトナリを暴露して狩屋を安心させる事はしなかった。
その代わりに大量の怪しいグッズを狩屋に持たせ、こうアドバイスした。


「ぐだぐだ悩んでないで誘え!!つーか襲え!!
色々ヤってそれでも駄目だったら、多分アイツ、もー枯れてんな。諦めろ」

と。
そしてもう一人も続けてこうアドバイスした。


「彼は若い内からさながらインキュバスのように淫蕩な饗宴に耽っていたから、その可能性も否めないね。
深手を負う前に確認して決別する事を薦める」

と。
二人揃って「襲っても駄目だったらインポだから別れろ」という思いやりも遠慮も微塵もないアドバイスをしたのだった。
なんでこの二人に相談してしまったのか。
ヒロトの知人の中で一番暇そうだったからという理由で二人を相談相手に選んだのだったが、狩屋の完全なる人選ミスと言えるだろう。
せめて緑川か砂木沼辺りに相談していれば良かったものを、あの二人に相談したばっかりに、今まで気にもしていなかったヒロトの過去さえなんだか心配になってくる。
二人の熱い(?)アドバイスにヒロトに対する疑念を更に変な方向へと悪化させた狩屋は、最終手段とも言うべき奥義に出る事にした。
名付けて「ドキッ☆誘惑大作戦」!!
可愛い恋人である狩屋自身がセクシーに誘惑するというぶっちゃけ身も蓋もない作戦だ。
もしそれでも狩屋に手を出してこなかったら、悲しいがヒロトは、
「浮気症」で、「酒池肉林」で、「インポ」で、「元ビッチ」だという事になる。←?

そんな悲しい決意の元、始められた「ドキッ☆誘惑大作戦」だったが、あっさりと渾身のセクシーポーズをスルーされた狩屋は早くも挫けそうになっていた。
実際問題、好きな相手に誘惑を無視されるというのは痛恨のダメージものだ。
想像以上の大ダメージにへこたれそうになった狩屋だったが、肩に背負った合宿用の大きなバッグの重みに励まされた。
この馬鹿デカいバッグの中にはまだまだ晴矢、風介というこの計画の優秀な(?)アドバイザー二人から授かった秘密兵器が沢山詰まっている。
それを全部出し切るまではヒロトに変な烙印を押す訳にはいかない。
狩屋はやる気を奮い立たせるように重いバッグを持ち直した。


――うん!多分俺の服装のチョイスが悪かったんだ。
晴矢クンセレクトの服をそのまま着ちゃったのがそもそも失敗だったんだよ!
なんだよ「露出は高い方がいいに決まってんだろーが!生脚だよ、生脚!あとは乳首な!」って。
こんな下品な格好はヒロトさんの好みじゃないに決まってんじゃん。
だって俺のヒロトさんだぞ!?
こーゆー直球勝負は通用しないって少し考えれば分かるはずだって!


そして第一の失敗をアドバイザーその1晴矢のせいにすると、気を取り直して前を歩くヒロトの腕に自分の腕を絡めた。


「ねー、俺、シャワー浴びたーい。
ヒロトさんも一緒に浴びましょーよぉー」

今度は年下の可愛らしさを最大限にアピールした上目使いで狩屋は再度同じお願いを口にした。
めげずに再度チャレンジするその心意気や良し!
だが、やはりあっさりとヒロトにスルーされてしまう。


「ゴメンね、片付けなきゃいけない仕事があるから一人で入ってくれるかな?」

スルリと絡まった腕を引き抜くと、ヒロトはにっこりと微笑んだ。


「それから合宿の汚れ物、早く洗っちゃいたいからマサキ自分で洗濯機廻しといてくれる?」

まさかの色気もへったくれもない家事返しという大技を繰り出してきたヒロトに、狩屋はがっくりと項垂れた。
ヒロトの口から洗濯機やら汚れ物やらの単語が出てくるのが、これほどまでに萎えるとは。
狩屋は完敗な気分で「…はぁ〜い」と返事をすると、へろへろと浴室へと重い足取りで歩いていった。
その後ろ姿は悲しいまでに哀愁が漂っていたという……。


頑張れ、狩屋!!負けるな、狩屋!!
誘惑大作戦はまだまだ序の口だぞ!!


 続く!!


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