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「な、なんでこんな事するんですか…?
お、俺に会えて嬉しいって…、サッカーが好きだ…って言ってたじゃないですか!?
お、俺の事、…こっ、…殺すんですか…?」

顔を背けてもオジサンの手はまるでじっとりと吸い付いてるみたいに天馬の頭から離れていかない。
逃げようにも、手が縛られていて起き上がる事さえ出来ない。
泣き叫びそうになる心をぎゅっと抑えて、天馬は色白で汗っかきな男を見上げた。

声が震えているのに、最後までしっかりと質問したのは天馬の意地だった。


「ムフフーッ、天馬君、真っ青になっちゃって可愛いーッ!!
僕ちんに殺されると思ってたの?
そんな事しないよー!だってそんな事したら天馬君に嫌われちゃうじゃなーい!
お馬鹿さんだなぁ」

――殺さない。
その言葉は確かに天馬に安堵を齎した。
だが、その安堵を満喫する猶予なんて男は与えない。
その皮脂の浮きまくってテカテカの顔で天馬のホッとした瞬間の顔を頬ずりしたのだ。

ぬとーっとした感触が天馬の頬に触れる。


「ヒィッ」

「もおっ。天馬君ってば何にも知らなくて可愛すぎだよお。
知らない人には着いて行っちゃ駄目!
それに知らない人から食べ物貰っちゃ駄目!って幼稚園で習わなかったのぉ?」

うぅ、なんかほっぺがベタベタする…っ!
男の言葉なんて頬への嫌悪感でいっぱいの天馬の頭には入ってこない。

「勿論、下心見え見えの知らないお兄さんがくれる飲み物なんて絶対飲んじゃ駄目だよぉ〜?
眠くなるお薬が入ってるって天馬君も分かったでしょぉ」

男が頬ずりをしながら薄目で間近にある天馬の顔を見つめた。
その顔は嫌そうに顰められていて話を聞いてるようには思えない。
それなのに男は満足そうに笑うと、漸く天馬の頬から顔を離した。


「これからお兄さんがお馬鹿な天馬君に色んな事教えてあげるからね〜?
ムフフッ、自分好みに一から調教なんて光源氏と紫の上みた〜い!
そーだ!僕ちんが光源氏なら側室が沢山居ないとおかしいよね。
輝君だっけ?天馬君の学校の控えのFWの子。あの子もいいなって思ってたんだよねぇ。
ほらあの、天馬君と一緒に写ってる子」

光源氏?側室?調教??
男の言う言葉の数々は天馬には言葉自体は知っていてもそれが今何の関係があるのか分からない。
言わんとしてる事が理解出来ない。
でも、突然出てきた友達の名前に天馬はまたぞくりと悪寒に襲われた。
男が指差した方を、天馬はバッと振り返る。


自分。裸の背中。アップの自分。太腿。自分。輝。知らない男の子。太腿。太腿。信助と抱き合ってる自分。……。


そこは壁一面、天馬や少年の写真やらで埋め尽くされていた。
一際多いのは天馬の写真。
いつ撮られたのかサッカー部の皆で着替えてる写真まである。
壁一面に壁紙が見えなくなるまで敷き詰められた少年の写真に、天馬はゾクッと気色の悪さを肌で感じた。
あんなに嬉しかった勝利の瞬間が、こんな風に写真として切り取られ飾られているだけで汚らわしく感じてしまう。
大切なものが知らないところで穢されていたような気がした。


「なんでこんな事するんですかッ!?
こんな事してサッカーが泣いてますッ!!
彼方の家族だってきっとこんな部屋を見たら悲しみますよッ!!」

その時、天馬は怒りで何をされるか分からない恐怖を忘れた。
天馬の正義感が男を叱りつけさせた。


…勿論、この薄汚い男には天馬のまっすぐな正義感なんて通用するはずは無かった。


「ムフフッ、泣いてるのはサッカーじゃなく天馬君でしょ?
それに僕ちん家族はもう居ないんだぁ〜。
両親はね〜、僕ちんにいーっぱいマンションを残して死んじゃった。いい親でしょお?
だから僕ちん働かなくていいんだよ!
あ、これからは天馬君のお世話が僕ちんのお仕事になるんだった。てへ」

何…、この人…。
親が亡くなってる事を笑って話してる…。

天馬はあまりの出来事に耳を疑った。
天馬の中でこの男に対する感情が、気持ち悪さから薄気味悪い恐怖へと変わっていく。


「そ、それでもご家族の方は空の上から彼方の事をいつだって見てます!!
見て、悲しんでますッ!!」

あまりの言い草に、怒りの機先を殺がれた天馬はそれでも男をそう説得した。
いつだって天馬はそうやって正しいと思う事を貫いてきた。
周囲もいつだって最後には分かってくれた。

この世の中に心の底から悪い人なんていないと、天馬は信じていた。


「ムフッ!そっかー、パパりんとママりんってば僕ちんの事いっつも見てんのかぁー。
じゃあこれから天馬君と僕ちんのイヤラシイ営みも見られちゃうね」

そう信じていたのに…。


「ウワアッ」

男はそう言うと天馬に掛かっていたシーツをバッと外した。
羞恥に染まった天馬の声と、露になる天馬の全身。
それは上半身は雷門のジャージを着たままなのに下半身は何も身につけていない。
それどころか…。

太腿にいくつもの虫刺されのような赤い痕が出来ている。
性器もなんだか粗相をしたみたいにベタベタに濡れて光っている。


「天馬君が大人になるところ、僕ちんの両親にもばっちり見てもらおうね。
いい思い出になりそうだね!天馬きゅん」


 

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