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――…あ、アレェー…?ここ、どこだァ…?


目を開けると、そこは見た事も無い天井。
部屋は薄暗くてよく見えないけど、この部屋に見覚えが無いのは確かだ。
しかもここがどこだかさっぱり見当もつかない。
いつの間に寝てしまったのか思い出そうと、寝ぼけ眼を擦ろうとして天馬は目に手を遣る。

でも手は自分の意思に反してすぐ止まり、手首にぐっと絞まるような感覚が走る。


――エッ!?な、何…?


一気に目が覚めてしまう。
慌てて身体を起こそうとすると、今度は両手に激痛が走る。

「…ッツゥ!」

自分の思うように両手だけが動かない。
手に意識が集中すると、なんだか指の先が寒くて仕方ない。
じんじんと痺れて指の先の感覚がぴりぴりしてる。
なんだろう、こんなのおかしい。
天馬は身体を起こす事も出来ず、首だけで自分の手の先をみると、手は何故だかビニール紐で何重にもぐるぐる巻きにされてアルミフレームのベッドヘッドに結びつけられている。


「……ッ!」

スーッと身体が一気に冷えていく。
「血の気が引く」という状態を、天馬は初めて身をもって体験していた。

「な…、何?コレ…」

自分が見ている物の意味が、頭に入っていかない。
縛られた指の先が白い。
細くカサカサとしたビニール紐が何重にもなっているせいで手の先までちゃんと血が通っていないんだ。

手が痛い。

そう思ったら、なんだか急にこれが現実だって嫌でも分かってしまった。


縛られてる。
俺、今、逃げられないように縛られてるんだ…。


誘拐、監禁、身代金、鉄砲、刃物、マフィア、拷問……。
どわっと一気に今までTVとか映画で見た怖いシーンが頭の中に思い浮かぶ。
どうしよう、あのドラマの誘拐された女の子みたいに山奥の井戸に落とされちゃったら……!
泣いても叫んでも誰も助けにきてくれなくて、結局最後は犯人に殴られてボコボコの顔のまま水死してしまった女の子の顔が頭から離れない。

怖い。

怖いよ、秋ねぇ…!

頭の上でカサカサとビニール紐が音を立ててる。
理解できるのは縛られてる今の状況だけで、なんで自分がこんな目にあってるのかさっぱり分からない。
これからどうなるのかなんて考えたくも無い。
震えが止まらない……ッ!!



「あっ、天馬君、やっと起きたんだね」

そんな時だった。
ドアが開いて男が一人、部屋に入ってきた。
途端に部屋がぱっと明るくなる。
入ってきたのは天馬が助けたあの男だった。

「オジサンッ!」

手は縛られていると分かっていても、知っている顔を見てつい安堵で駆け寄ろうとしてしまった。
また、ぐっと手首が絞まる。

「イッ!」

「大丈夫!?天馬君!」

あのオジサンが心配そうに駆け寄ってきてくれる。
良かった!これで助かる!!
そう思うと天馬はじんわりと今までしていた最悪の想像から開放された思いで泣きそうになる。


「うんうん、怖かったね。一人にしてゴメンねぇ」

「オジサン……」

オジサンのじっとりとした手が天馬の頭を撫でる。
それだけで涙がじわじわと浮いてきて、視界がぼやけてくる。
涙が零れてしまう前に、溢れてきた涙を拭ってしまいたい。


「オジサンッ」

「なあに?天馬君」

オジサンはニコニコとベッドに座って頭を撫でているままだ。
見上げても、切羽詰った声で呼んでもそれは変わらない。
でっぷりと座り込んで動く気配さえない。


「あのっ、早く手を解いて下さいッ!
そうしないと俺達…ッ」

心ばかりが焦っていく。
早くしないとすぐにでも怖い人が鉄砲やら刃物やらを持ってこの部屋に来てしまう。
消え去ったはずの想像がまた天馬の中に蘇ってくる。
開いたままになっているドアの先から、誰かが今すぐにでも来そうで怖い。
薄暗いドアの向こうをしきりに気にしながら天馬はそう訴えた。


「えー?解いちゃったら天馬君、逃げちゃうじゃない。
それ縛るの結構大変だったんだよぉ?」

「え……?」

返ってきた声はのんびりとした明るい声。
それなのにぞくりと天馬の背を冷たいものが駆けていく。


「大丈夫だよ、天馬君。もう一人になんてしないから。
これからは朝から晩まで、ずぅーっと僕ちんが一緒に居るからね」

元々細い男の目が更にすっと細くなる。
三日月型をしたその瞳は、ドアの向こう側よりずっとずっと薄暗い闇を湛えている。


――オジサンが…、犯人……?

ぞくっとまたより強い冷気が天馬の背を駆け抜ける。
未だ自分の頭にある手が、急に重く汚らわしいものへと瞬時に変わる。

それは自分を戒める、もう一本の新たな鎖だった。



 

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