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剣城の切なさと興奮の入り混じった顔に、どういう反応を示していいか分からなかった俺は、その顔を見なかった事にした。

そんな顔したって許せる訳ないだろ…。

剣城がどれだけ切なげで苦しそうだとしても、俺にした事は簡単には許せない。
それに、…興奮、とか。
な、何に…?
俺のこの格好…?

俺は居た堪れなくなって自分の格好を顧みる。
手錠に、性器に変なリング、それに片方だけ赤く腫れた乳首。

え、……SM?


「…だんまり、ですか?
それならしゃべりたくなるようにしますよ」

「え?えっ!え、え、違…ッ」

俺が黙り込んでしまったのを誤解した剣城が俺の耳のすぐ後ろで呟く。
俺の否定の言葉よりも早く、剣城の手がまた俺の胸を抓りあげる。


「痛ッ!」

「痛いですか?なら舐めてあげますね」

耳のすぐ傍で剣城が笑う。
胸の先がじんじんして、変な汗が出てきた。
触られていないのに、なんだかピリピリする。
俺はもうそれ以上触られたくなくて、剣城の「舐める」発言に身体を縮めて自由になる方の手で胸を隠した。
それなのに剣城の舌が這ったのは俺の耳だった。
つっーっと耳の淵を剣城の舌がなぞっていく。

「んんっ」

予期せぬ刺激に身体がヒクンッと反応してしまう。

「耳も、好きですよね?」

「あっ、……やぁ…ッ」

ハァッと吐息混じりに耳元で囁かれると、どうしても全身の力が抜けてしまう。
そのまま耳の穴を濡れた舌が抉るように挿し入れられると、音も相まって抵抗しようにもくにゃくにゃって力が入らない。
胸を隠していた手も気付かないうちに外れていたらしい。


「んーーーッ!」

未だピリピリとした刺激の残る乳首に触れるか触れないかの微かな感覚が走り、身体が跳ねる。

「あっ、やっ、やっ、やぁーー…っ」

じんじんしている乳首は実際には些細な刺激でも、俺に凄い刺激を与えてくる。
しかも耳を嬲る舌はそのまま。
神経を直接撫でるような強い刺激と、身体の芯から蕩けさせるねっとりとした刺激に何も考えられない。
痛いと気持ちイイが交じり合って判断が付かない。
あ…、あ…、やだ、これ…。
これ、だってだって…、SMだぁ……。


「やぁ…っ、胸、も…っ、耳もぉ…、触る、なぁ…ッ!」

耳に張り付いた剣城の舌を振り切ろうと俺は顔を振る。
なんとか剣城の舌は俺の耳から離れたものの、俺の顔はがっちりと剣城の両手で固定されてしまう。
今まで猫背気味に座っていた身体が、捻るように剣城の方を向かせられて不安定になる。
でもまだ許した訳じゃないのに剣城にしがみ付くのは癪に障る。
不安定な体勢なまま、剣城の唇を受け入れさせられる。


「ん…っ、んん…っ、ん、あ…ッ」

ふらふら揺れる身体が不安なのに、剣城の舌はお構いなしにねっとりと絡んでくる。
不安で、気持ちよくて、でも剣城に縋る事は出来なくて。
どうしていいか分からない。
感じてくると余計、身体に力が入らなくて身体がぐらぐらと揺れる。
これもきっとSMだ。
俺を不安がらせて剣城に頼らせようっていうプレイの一環なんだ。
そう頭では分かっているのに、どうしよう、気持ちイイのが止まらない。
不安定な身体に、剣城の手が俺の顔から胴に回される。
剣城の確かな手が、俺の身体を支えてくれる。
それに俺は心のどこかで安心を感じていた。
その事実に俺は愕然とした。

嫌だ、嫌だ…!
剣城に頼るなんて!
そんな女みたいな事、この俺がするなんて嫌だ…ッ!!


「んーっ、んんー、んーーーーッ!」

胴に回っていた手、それは俺の身体を支える為のもの。
「アメとムチ」のアメの部分だったはずだ。
それでも俺に一層恐怖を与えたのは、そのアメの部分だった。
俺はソファから床に崩れるようにして、その剣城の手から離れた。


「俺に触るなって、言ったはずだ…ッ」

悔しくて涙が滲む。
なんで剣城は俺にそこまで強要するんだ。
今までだって充分みっともない姿を晒してきているのに、これ以上俺にどれだけみっともなく浅ましく剣城を求めさせるつもりなんだ。


「ああ、まだ足りないですか」

俺がどんなに睨んでも剣城の態度は一向に変化しない。
まるで俺の言葉が通じていないみたいだ。
どこまでこの平行線が続くんだろう。

俺が絶望的な気持ちで剣城を睨み続けると、剣城は俺に薄く笑った。


「じゃあもっと快楽をあげますね」

「…先輩が俺を求めるまで」


 

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