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ガシャンと音を立てて俺の手首に銀色に光る手錠が掛かる。
TVでしか見た事のない手錠が今、俺の手に掛かっている。
それは玩具と馬鹿にするには、少し重量感がありすぎた。
非現実的な光景に現実的な重さ。
なんだかよく事態が飲み込めない。


「ああ、先輩の脚ならなんとか入りそうですね」

剣城の呟きと共にぐいっと手錠に繋がれた方の手が引っ張られる。
ガシャンと無慈悲な音と共に、俺の手首は俺の足首と手錠によって繋がれてしまう。
足首と手首を拘束されても体勢的には苦しさは感じない。
でもこの状態では俺は容易に移動する事も出来ない。


「何するんだッ!」

こんな状態、冗談じゃない。
俺は再度剣城を睨みつける。
いくら恋人同士だといっても、これはいくらなんでも度が過ぎている。
俺の許可なくやっていい範疇を超えている。

だが、俺が睨んでも剣城は平然としている。


「先輩が逃げないようにしただけです。
本音を聞く前に逃げられてしまっては元も子もないんで」

「逃げるって…。
俺は逃げも隠れもしないから、早くこれを外せッ!」

ガシャンガシャンと俺を拘束する手錠が音を立てる。
俺がどんなに真面目な顔で怒鳴っても、手首と足首が手錠で繋がれている限り、俺は間抜けな格好のままだ。


「…ハッ!いつも俺を避けてるくせに何言ってるんですか」

俺を見下ろす剣城が苛立たしげに鼻で笑う。


「避けてるって、それは…ッ!」

「それは…、なんです?」

反射的に否定した俺を剣城が冷めた眼で覗き込む。
なんだよ…。なんでそんな眼で俺を見下ろすんだ。
ただ俺は剣城と一緒に居ると女みたいな反応しか出来ない自分が嫌で。
剣城の事が好きなのに、剣城が近くなればなる程どんどんみっともないところばかり見せてしまう自分が嫌で。
自分でも制御出来ない心と身体が嫌で、それをどうにかしようとしてただけなのに。

それはこんな風に拘束されて、そんな瞳で見られなきゃいけないぐらい、悪い事だったのか?

軽く身動ぎしただけで、また手錠がカシャッと音を立てる。
その音がやけに気に障った。


「お前には言いたくないッ!」

どうしようもなく剣城にムカついた。
今の自分の状況とか格好とかそういうのを全く考慮せずに、気付いたら俺はそう口にしてしまっていた。
剣城には分からない。
だって剣城は悩まなくても格好よくて、俺がまだ出来た例もない恋人への愛撫も簡単にやってのける上にどんどん巧くなっていく。
ずるい。
剣城はずるい。
どうして俺に一々みっともない事を言わせようとするんだ。
みっともない所なんて好きな人に一番見られたくないのに。


「もう逃がさないって言っただろッ!」

俺の怒号に剣城の声も尖る。
剣城は俺の声に反発するように怒鳴ると、ガチャガチャと乱暴な手つきで俺の服を脱がし始めた。

「クッ!動けないようにするなんて卑怯だぞッ!
早く解けよッ!!」

俺は一生懸命脱がされまいとするものの、不自由な体勢でしかも片手とあっては大した抵抗も出来ない。
呆気なくシャツは肌蹴け、ズボンは寛がされてしまう。
悔しい。
いつもは気にした事さえ無かったのに、今は肌蹴た服から見える自分の色の白さが堪らなく癪に障る。
こんな状態では勃ってる方がおかしいのに、縮こまったままの性器がビビってるみたいで腹が立つ。
俺はこの状況に屈するのが嫌で、剣城を睨む瞳に力を込める。


「チッ!
…こんな状態でもアンタは媚びない。
そんなに俺が嫌か」

俺の視線を一身に受けて、剣城が吐き捨てる。
ハッ!そっちこそ、どうして剣城が嫌なんじゃなくて、この状態が嫌だって気付かないんだ。

俺が反論してやろうとしたその時、剣城は俺に跨ったまま、床に転がっていた自分の鞄に手を伸ばした。
手錠という非日常アイテムを既に見た俺は、もう何が出てきても驚かない。
そのつもりで剣城の行動を見つめていた。
それなのに剣城の鞄から出てきたものは予想外のものだった。
俺を更に拘束するものだと思ったのに、取り出したそれは見た事もないものだった。
思わず眉が寄る。
ブレスレット?いやブレスレットにしては内径が細すぎる。
カーテンレールの輪っかぐらいのサイズの金属性のリングがいくつか連なったものに皮製の変なベルトが付いている。
まるで持ち運び用の小さい鳥篭みたいだ。
なんだろう?指を入れるには大きすぎるし、何か小さな動物を入れるゲージだろうか。
まるで用途が思い浮かばない。


「…何をする気だッ!」

用途が分からないソレが俺の警戒心を煽る。

「恋人へ贈るリングと言ったら使い途なんて昔から決まってます」

リング?
リングには見えないけど、ソレ、リングなのか?
淡々とした剣城の態度が俺の胸をざわつかせる。
なぞなぞみたいな剣城の答えに俺は密かに首を捻る。


「愛を誓うんです」

剣城が俺の萎えたままの性器を手に取る。
え?
謎掛けみたいな言葉に気をとられていた俺は、一瞬抵抗が遅れた。
身体を起こして剣城を突き飛ばそうとした時にはもう、そのリングは俺の萎えた状態の陰茎に通されていた。
金属の冷たさと軽量の重みにどうしても違和感を感じる。
動きが鈍る。


「まあ、誓うのは霧野先輩ですけど」

言葉と共に、今度は睾丸にベルトが巻きつけられる。

「ぐ…っ」

強い圧迫感とそれに伴う痛みに、思わず呻き声が漏れる。

剣城が取り出したもの。
それは確かに俺が予想したとおり拘束具だった。
性器全体を覆うようなリングと、睾丸を縛り上げる革のベルトが俺の性器を拘束していた。

まるで鳥篭のように、
守るように縛るように飛ばさないように、そのリングは俺の性器を戒めていた。


 

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