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その数mlしかない体液は霧野の中に存在した溢れんばかりの欲望を凝縮したような存在だった。
毒が体外に出されてしまえば、熱はあっという間に引いてしまう。
そして後に残るのは後悔だけ。


――出してしまった……。


部屋に充満する濃厚な空気も、気だるい身体も、乱れた着衣も、行為を強いた教師も、
自分を取り巻く全てが、今となっては厭わしい。
勿論、最後まで抗いきることの出来なかった霧野自身もだ。

霧野は教師の唾液で光る萎えた性器を、下着が汚れる事も構わずに下着の中に納めた。
スカートも早く脱いでしまいたい。
いや、それよりも頭から水を被って全身を洗い流したい。
霧野はただこの場で行われた事の全てを悔いていた。


だが、いくら塞ぎこんでも起きてしまった事実は変わらない。
そしてこの場に、もう一人、欲望に支配された人物がいる事も。


塞ぎこんでいる霧野の耳にカチャカチャという耳慣れた小さな金属の擦れる音が入ってくる。
その音は主に着替えの時に耳に入るもの。
ベルトを着脱する時によく耳にする音だった。

ぎくり、と霧野の心臓が警告を告げる。
霧野は今の状況が呑気に気落ちしている場合では無いことに漸く気付いた。


「ほーら、次は感謝の意を先生に示さないとな。
人にヨくして貰ったら、相手にもそれなりの行為を返す。それが社会のルールだ。
情けは人の為ならず、だぞ」

教師がはあはあと欲情しきった表情で音を立ててベルトを外そうとしている姿は霧野の目には酷く醜悪に見えた。

「変態霧野の更生のチャンスだぞ。
先生に奉仕して、自分の行動を悔い改めるんだ。
身を投げ出しての奉仕活動なんて、中々出来る事じゃないぞ?」

この期に及んでまだ自分の立場の安全を図り、霧野に責任を転嫁しているところなど反吐が出そうなくらいみっともない。
霧野はもうこの教師に触られるのはおろか近づかれるのも嫌だった。

早く逃げなければ……!

霧野はこの狭い生徒指導室で、また汚らわしい教師の手に掴まれる前にどうにかして逃げようと立ち上がろうとした。
だが、それよりも早く、教師は穿いているスラックスから赤黒い怒張をやや得意げに取り出した。


「四つん這いになってスカートを自分で捲くるんだ」

霧野が自分に従うと信じて疑わない教師の命令口調が、霧野には信じられない。

「嫌です」

霧野は教師を睨みつける。
気持ちは急いているのに、気持ちに身体が付いていかない。
過ぎた快感を受容していた脚は、全身を支えようとするとひくひくと細かく震える。
快感に不必要な程強張っていた腕には力が入らない。
悔しいが今すぐ走る事も教師を押しのける事も無理そうだ。

霧野は壁を伝うように教師から遠ざかる。
教師も霧野を逃さないとばかりに、霧野の腕を掴んだ。


「痛ッ」

「観念して少しは先生の言う事を聞きなさいッ」

「放せッ!」

嫌悪も露に霧野は教師を睨む。
上方へ引き上げるように片腕を掴まれていては足元も覚束ない。
このまま教師が掴んだ手を放すだけで霧野は床に崩れ落ちてしまうだろう。
キリキリとした見えない緊張が二人の間を走る。


――ピンポーン

その時、授業時間だというのに静寂を壊す機械音が学校中に響いた。
だが、二人の間の緊張は壊れない。
一瞬たりとも目を離したら、何をされるか分からないとばかりに霧野は教師を睨みつける。

『○○先生、お電話です。至急職員室までお越し下さい』

「チッ」

だが、名指しで教師の名前が放送されればそうもいかない。
教師は忌々しげにその放送に舌打ちした。


「携帯ではなく学校に掛けるなんて誰だ、まったく」

そんな言葉と共に呆気なく放される霧野の腕。
そして霧野が床に崩れ落ちても、心配したような事は起きず、
反対に教師は霧野とは逆の方向に踵を返してしまう。


「すぐ戻ってくるから、そのままで待ってろ」

本当に霧野が待っていると信じているのか。
教師は霧野に向かってそう言うと、足早に部屋を出て行ってしまう。
教師がドアを開けたままで廊下が視界に入ってきても、霧野はまだ呆然としていた。


――助かった、のか……?

もう駄目だと挫けそうだった状況が、偶然によって覆ったのが信じられなかった。


 

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