5



霧野が熱望した終わりは呆気ない程あっさりだった。


昼休みがもうすぐ終わる事を教える予鈴が鳴ると、教師は霧野の脚から手を放しあっさりと立ち上がった。

「瀬戸、分かったな?
明日からスカートの丈をきちんと直す事!
分かったら授業が始まるから、もう行きなさい」

遠のく顔に、穏やかな声。
その声に促され、水鳥も立ち上がる。
やっと風紀指導が終わったのだと霧野は安堵のため息をついた。

そう、霧野の予想とおり確かに「風紀指導」は終わった。
でも本当の「指導」はここからだった。


「おい霧野、お前その姿で授業を受けるのか?」

水鳥に続いて指導室を退出しようとした霧野に教師が呆れた声色で言う。

「あ…!」

あまりの安堵に、霧野は未だスカートを穿いたままだったのを忘れていた。
自分の混乱ぶりに霧野は再度顔が熱くなる。


「着替えんの待ってるよ」

「いや、先に行ってていい」

水鳥の言葉にも霧野は軽く首を振った。
気を使う事は無いと思ったし、それに待たれても着替えづらいだけだ。
霧野の言葉に水鳥も「そうか?」と心配そうにするものの素直に部屋を出て行く。
水鳥が最後まで霧野を心配そうに見つめたまま、ドアは音も無く閉じられた。



着替えようと机に置いてあった自分の制服を取ろうとした霧野の手を、教師は制服に届く前に握ってしまう。
そしてそのまま霧野の手を強く引き、くるりと身体の向きを変える。
流れるような教師の行動に、全てが終わったと油断していた霧野は呆気なく壁に押し付けられてしまう。


「え…?」

背中に感じた壁の冷たさと着替えを遮るように握られた手に霧野は思わず驚きの声を上げる。
顔を上げれば、すぐそこに教師の顔。
穏やかさとは程遠い顔をした教師がすぐ前に立ち塞がっていた。
しかも部屋の角に押しやられ、その前に立ち塞がれてはまるで逃げ場が無い。
安堵が去り、急にさっきまでの心細さが蘇ってくる。


「こんな姿で授業に出ようなんて、本当に霧野は変態だな」

握った手を霧野の頭上で壁に押し付け、教師が更に一歩霧野に近づく。
まるで抱き合うような距離の近さに、霧野はまたぎくりと身体を強張らせる。
触れているのは手だけなのに、すぐ目の前に居る教師の熱量が伝わってくる。
しかも伝わる熱量がざらりとしていて自分に纏わりつくようだった。
水鳥が居た時とまるで雰囲気が違う。
怒鳴り散らすだけしか能の無い教師のはずなのに、今はなんだか怖い。
霧野は教師のギラついた目に、本能的に恐怖を感じた。

教師はそんな珍しく怯えた表情の霧野を見つめ、至近距離でにやりと笑うと耳元で囁いた。


「こんな女装して勃起した状態でよく授業を受ける気になるな。
変態の考える事は先生には理解出来んよ」

「あ…ッ!」

ぐりり。
教師が密着させた脚で、霧野の性器を押し上げる。
激しい羞恥で全身を熱くさせていた霧野の身体は、自分でも望まない内にその熱を欲望と変換していたらしい。
滾った霧野の欲望は、そんな教師の雑な刺激にもどくりと更に熱を孕む。
安堵で少し落ち着いていたソコがまた熱を取り戻していく。


「な…、なんで…ッ!?」

「フッ、気付いてないとでも思ったのか?
同じ男なんだ、隠し通せるはずないだろうが」

霧野の驚愕の声に教師は嘲るように笑う。
自分でも考えないように、意識しないようにしていた勃起を教師は簡単に気付いていたらしい。
隠す為の内股もスカートの裾を握ってさり気なくふんわりと余裕を持たせていたのも全てが無駄だったらしい。
それどころかそんな行動が教師に感づかせる原因だった事に霧野は思い至らない。


霧野は今、心底自分を恥じていた。
女装を見られた事。
男なのに着替えを恥ずかしいと思ってしまった事。
そして…、
恥ずかしいと思いながらも、人知れずそんな状況に興奮を覚えてしまった事。
しかもその興奮が軽蔑すべき教師にバレていた。

もう恥ずかしさで死んでしまいそうだった。


 

prev next


 

「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -