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「瀬戸、校則の身だしなみについての項目を読み上げるんだ」

教師はまだそっぽを向いたままだった水鳥に生徒手帳を押し付ける。
重く淫靡な空気が充満する生徒指導室に水鳥のたどたどしい読み声が響く。


「一、生徒は学生らしい清潔な格好を心掛ける」

「お前の地面を擦るようなスカートはまずその項目にも抵触しているな」

水鳥が生徒手帳を読み始めると、教師は霧野の前にしゃがみこんだ。
教師が上を向けば霧野のボクサーパンツさえ見えてしまうだろうそのあまりの近さに、
霧野は思わずスカートを押さえた。
遮るものの無い生脚に教師の荒い息が当たる。
さっきから凄く恥ずかしくて身体が火照っている。
スカートの無防備に広がっている裾から蒸れた匂いが漏れていないか、教師の顔のあまりの近さにそんな事まで霧野は心配になってきた。


「一、男女とも極端に人の手の入った髪形を禁ずる。
染色、パーマネント、こて等全面的にこれを禁ずる」

「あー…、瀬戸。今は髪型の項目はいい。
早く制服について読みなさい」

ひくん。
霧野は揃えられた脚を割るように太腿を触れられ思わず身体を強張らせた。
強張った身体を支えようと脚は自ずとその片方を後方にずらした。
開いてしまった脚の隙間に、なんだか自分まで隙が出来てしまったみたいで霧野は慌てて脚を揃えようとした。
でも教師のごつごつと筋張った手が邪魔で脚を揃える事が最早出来ない。
蒸れた脚の間をスーッと風が通り抜けた気がする。


――は、早く!早く読んでくれ!!

霧野は心の中で水鳥に懇願する。
脚を覆う布も無く、脚も閉じられない今の状況はなんだか凄く心細い。
今は膝に近い位置にある教師の手が、いつスカートを潜って敏感な部分を触れてくるか気が気じゃない。
そんな想像だけで目が潤む程心細くなってしまう。
もし実際にそうなってしまったらあられもなく女のような声を上げてしまいそうな自分が怖い。
こんな急所を隠せないスカートを穿いて平然としているなんて女は逞し過ぎる。
霧野はそんな女の一員である水鳥に助けを求めるように赤らんだ顔を向ける。

だが、水鳥は読み慣れない生徒手帳を読むのに必死でそんな霧野の状態に全く気付いていない。


「チッ、わーったよ!
えー…っと、……一、制服のスカート丈は膝下10センチから膝上5センチまでと定める」

「そうだ!校則でスカートは丈の範囲をきちんと定めているんだ。
短すぎるのは論外だが、瀬戸みたいに長すぎるのも校則違反なんだぞ!!」

「ッ!」

教師はぐっと霧野の脚を抱え込むようにしてそこにものさしを押し当てる。
教師の顔が更に脚に近づき、気持ち悪いはずの怒鳴る声さえ蒸れた脚に風となって心地よい刺激となってしまう。
霧野は出そうになった声を咄嗟に口を押さえて抑え込んだ。
だが、声は無くとも脚に触れている教師は霧野の全身の反応を感じ取っていた。
霧野の羞恥を知っていながら何食わぬ顔で霧野を見上げた。


「なんだ、どうした?霧野」

その声に教師だけでなく水鳥の視線までもが霧野に注がれる。
心底心配している表情の水鳥に、霧野は居た堪れなくなってしまう。
……どうして俺はこんな些細な事さえ過敏に反応してしまうんだ。
そう思うと霧野は自分が情けなくなってきた。


「まさかまたお得意のセクハラとか言うんじゃないだろうなぁ?
そんな女みたいな事、まさか言わないよなぁ?」

教師の馬鹿にしたような声と、水鳥の「そうなのか!?」と問いただしたそうな顔が霧野に突き刺さる。


「……言いません」

赤くなっている顔が恥ずかしい。
霧野は顔を俯かせてそう答えた。
赤い顔だけじゃなく、本当なら火照った身体もスカートに包まれた脚も全てを水鳥から隠してしまいたかった。
でもこの狭く何も無い生徒指導室ではそれも能わない。


「そうだよな!自分から瀬戸の代わりにスカート穿いたってのに、そんな事言うわけないよな!!」

霧野の答えに教師は我が意を得たりといった顔で更に無遠慮に霧野の脚に触れ始める。
一旦否定した事で霧野は我慢するしか選択肢が無くなってしまう。


「大丈夫だそうだから、瀬戸、霧野の脚をよく見るんだ。
校則の膝下10センチというと、ここ。
霧野の脚のこの辺りだ。
お前と霧野は身長が大して変わらんから、長さが分かるだろう」

教師の手がスカートの裾よりも下に移動する。
水鳥も申し訳なさそうな顔で霧野の脚を覗き込む。
手が下に下がって少し安堵したのに、水鳥にまで間近で脚を見つめられては落ち着かない。
しかもすぐ教師の手は今までよりも更に上、スカートをほんの少し捲くって脚に触れてきた。
スカートが捲くられた瞬間、危うく声が出そうになってしまう。


「そして膝上5センチがここだ。
どうだ?こうして見ると大分短いだろう。
うちの学校の校則は大分緩いんだ。それが守れなくてどうする!!」

「……確かに他と比べると甘いかもしんないけどさ」

――……ハァッ、ハァッ!
霧野はぎゅうっと震えそうになる身体を抱き締めた。
二人して霧野の生脚の目前でしゃがみ込み真剣な瞳で霧野の露出した脚を見つめている。


「生徒の自主性を重んじる。それが雷門の良いところだ。
だから生徒もその信頼に応えて最低限の事は守る。
こうやって秩序が保たれていると先生は思うぞ」

「……」

――ハァッ!もおッ!そこでしゃべらないでくれーーッ!!

霧野は心の中で身悶えた。
男である自分の生脚を二人でしゃがみ込んで真剣に見つめる姿は滑稽そのものであるはずなのに、話す内容も真剣そのもので遮る事も出来ない。
恥ずかしくて堪らないのに、話題の中心である為、脚を隠す事もしづらい。
羞恥と教師の手の感触に、霧野の意識は真っ二つに裂かれてしまう。
どちらにも集中出来ず、霧野は板ばさみになって落ち着かない。
行き場を失った名前をつける事も出来ないぐちゃぐちゃな感情が霧野を責め立てる。
ただ頭が真っ白になって、自分の脚を見つめる二人の事しか考えられない。
身体が熱くて堪らない……ッ!!


霧野は訳もわからず泣きそうになる自分を持て余していた。
それでも霧野に出来る事は二人の真剣な風紀指導が終わるのをただ黙って待つことだけだった。


 

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