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風紀指導室に着くとすぐさま教師はドアの鍵を閉め、棚を漁り出した。
そして怪訝な表情の二人をちらりと一瞥すると、取り出したスカートを霧野に放り投げた。


「おい霧野、それに着替えろ」

「えっ!?」

思わず霧野の口から驚きの声があがる。
投げられたものを広げてみても、制服のスカートにしか見えない。
唐突すぎて意味が分からない。
スカートを顔の前に両手で広げ、呆然としている霧野の姿に、教師の顔が満足そうに歪んでいく。


「なんだ霧野、嫌なのか?」

「当たり前です!」

霧野の即答に教師は何故か腕を組んでうんうんと頷きだす。


「お前が俺の風紀指導は分かりにくいと言うんでな。
分かりやすく校則どおりの丈のスカートを穿いてもらって瀬戸のスカート丈と見て比べてもらおうと思ったんだがなぁ」

そうか、残念だな。
そう教師は付け足したように一人ごちる。
そのわざとらしい口調はこれから更に無理難題を吹っかけられると危惧するには充分だった。
内心更にトンデモナイ指示を出されるかと心配していた霧野は、すぐさま教師の手に戻ったスカートにほっと安堵した。
だが、その安堵も長くは続かなかった。
件のスカートは教師の手に戻ってすぐ、今度は水鳥に差し出される。


「仕方ない。じゃあ瀬戸、お前今すぐここでそれに着替えろ」

「ハアァッ!?」

当然と言えば当然だが、教師の言葉に水鳥から返ってきたのは驚愕というよりは「なに言ってんだこの馬鹿オヤジは!?」といった感じの尖った声だった。


「しょうがないだろう。霧野が嫌だと言うんだから。
正しいスカート丈をものさしで教えるのは霧野にはセクハラに見えるらしいからなぁ。
こうやってお前が正しい丈のスカートを穿いてみるしか他に指導の方法が無いだろう」

「だからってここで着替えさせる事ぁ無いだろーがッ!!」

水鳥が自分の目前の床を指差して怒鳴る。
風紀指導室は狭い個室だ。
棚とデスクがあるだけで物陰になるような場所も無いうえに、男性陣から離れる事さえ難しい。
背を向けてもらってもこの近さでは着替えている気配や衣擦れの音が絶対伝わってしまう。
硬派な水鳥でなくとも思春期の純情な女子が従うには到底無理な命令だった。


「まあそうだろうな。
だが我慢しろ。霧野が無理だというんだから。
お前の校則違反のせいで霧野に嫌がる事を無理にさせる訳にはいかないだろう?
まあお前が着替えるはめになったのは霧野のせいだがな」

教師の言葉に霧野と水鳥はお互いに視線を投げあう。
何の問題も無い霧野が風紀指導室なんていう問題児しか用の無い場所に居るのは、水鳥を庇う発言をしたせいで、
水鳥がこの場に居るのは、あの場で収まるはずだったいざこざを何の関係も無い霧野が余計な口を挟んで問題を大きくしたせいだった。
お互いがお互いに対して少なからず負い目を感じていた。


「わーったよ!着替えりゃいいんだろ、着替えりゃ!!」

先に決断したのは水鳥だった。
硬派らしい思い切りの良さで霧野を庇うようにそう言うと、教師の手からスカートをひったくるように奪い取った。


「着替えっからテメェら後ろ向きやがれッ!」

真っ赤な顔でせめてもの要求をしたというのに、教師は表情一つ変えずにそれを却下した。

「駄目だな。
俺が後ろを向いてる間に逃げられては堪らん。
着替えも当然見守らせてもらう」

「なッ!!??」

あんまりな言葉だった。
度胸の据わった瀬戸でも、流石に異性に見られながら生着替えをするには相当の覚悟がいる。
本当だったら死んでもそんなシーンをこんなイヤラシイおっさんに見られたくはない。
だが、霧野に対する負い目が彼女を悩ませた。
庇ってもらって、そのうえ嫌な事まで変わってもらうなんて女が廃る。
そんな甘えたチャラチャラした考えは水鳥の中には存在しなかった。


「えーいッ!アタシも女だ!!
一度約束した事は最後までやってやろーじゃないかッ!!」

自分で自分に気合を入れるように大きな声でそう言うと、自分のスカートのホックに手をやった。


「瀬戸!」

霧野は慌ててその手を止めた。
いくらなんでも、女子にそこまでさせられない。
水鳥の自分を思い遣った行動に霧野も覚悟を決めた。

「俺なら大丈夫だから」

労わるようにそう囁けば、張り詰めた糸が切れたように水鳥の手がスカートから離れる。
霧野はその手からスカートを受け取ると、教師を毅然と見つめた。


「俺が着替えます。
それでいいですよね?」


 

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