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一筋縄じゃいかない了承の言葉に、狩屋はずくんと疼くような胸の高鳴りを覚えた。
すぐムキになって怒る可愛さと、一度決めた事は必ず遣り通す男らしい凛々しさを併せ持つこの人が、今、この瞬間から自分の恋人になったのだと思うと胸が勝手に高揚してくる。
無理だと思っていた高嶺の花が、照れたように自分の肩におでこを擦り付けている。
そう思うと愛おしさがふつふつと涌いてきて、霧野をまたぎゅうっと抱き締めた。
「ん…っ」
固い抱擁を拒むでもなく、霧野の口から淡い声が漏れる。
肩を掴ませていた手はしがみ付くように狩屋の肩に回っている。
堪らない…!
「あ、あのですね〜…。
やっぱり霧野さん、さっきの触手の粘液で興奮してるっつーか、いつもと少し違うんで〜…。
俺としては霧野さんの事大事にしたいっつーかその〜…、このまま勢いでスるのはちょっと〜…。
その、我慢の限界なんでそろそろ退いてくれません?」
そう口にしたのは狩屋にとっては断腸の思いだった。
もうとっくに狩屋の性器は天を突いている。
しかもさっきから自分に圧し掛かっている、この最愛の人の身体は熱く発情している。
少し服をずらして腰を突き上げれば、簡単に自分を受け入れてくれるだろう。
それでもたった今恋人になったばかりのこの人に後悔をさせたくなかった。
勢いに任せて身体を重ねるなんて霧野に似つかわしくない。
しかも、多分お互いが初めて同士のはず。
晴れて恋人同士になったというのに、そんな勢いに任せて初体験を済ますなど後悔するのは目に見えている。
自分と身体を重ねて後悔する霧野を見たくなんてなかった。
狩屋はぎゅうっと霧野を抱き締めたまま、そう口にした。
少しでも身体を離して霧野の姿を目にしてしまったら我慢なんて出来そうになかったから。
それなのに霧野はぎゅっと抱き着いた状態でイヤイヤと子供みたいに首を振る。
「まだ我慢しろっていうのか…!?
お前が喜ばせるような事言うから、余計我慢出来なくなったんじゃないかぁ…っ!!」
狩屋ぁ…っと、吐息混じりに自分の名前を呼ばれた瞬間にドカンと狩屋の何かが吹っ飛んだ。
それまで我慢していた分、色々と吹っ切れてしまった。
お互い好き同士なのに何を我慢する必要があるのだろうか、と。
――後悔させないぐらい霧野さんをメロメロのトロトロに愛せばいいんじゃね?
一気にプラスからマイナスへと思考回路を転換させた狩屋は煩悩全開になって、霧野を抱きかかえたまま立ち上がりすぐ近くのベッドへとボスンと霧野を横たえた。
改めて霧野を見ると、火照った身体を持て余しているみたいに息が荒く、目も欲で潤んでる。
しかも触手の体液のせいで全身ぬらぬらとイヤラシク濡れている。
――こんな霧野さん目の前にして我慢しようとしてた俺ってすげー!
ギシッと今度は狩屋が霧野に覆いかぶさる。
「ねえ霧野さん。
アンタ自分が今どんなだか分かってます?
乳首もこーんなコリッコリに固くなってやーらしいの。
今、舐めてあげますからね」
上から霧野の胸元に顔を寄せ、霧野を見つめる狩屋の顔はすっかりいつもの悪い方の顔になっている。
いや、今は悪いというより欲情して本能剥き出しの顔だった。
狩屋は見せ付けるように舌を尖らせると、触手の粘液でぬらぬらと濡れて勃ち上がる胸先をれろれろと嬲った。
「あっ!…あ、ちょっ、そこ舐めたらお前まで…ンッ」
怪しい成分を含んだ粘液ごと胸を舐めている狩屋を霧野は慌てて押しとどめた。
「ああ、もう俺これ以上無いってぐらいアンタに発情してるんで舐めたってなんて事ないです」
でも狩屋は平然と言い放つと、粘液の通った痕を舌で追った。
霧野の身体を触手が通った道を今度は狩屋の舌が這っていく。
「あの触手さぁ、寒さに弱いって言ったでしょ?
最初どこに触ったか知らないけど、すぐアンタの服ん中潜ってきたでしょ。
ぬるぬるってアンタの身体のいちばーん熱いとこ目指して這いずり回ったでしょ。
…ギンギンに熱くなったここ目指して」
狩屋の舌が触手を同じように霧野の屹立に辿り着く。
そこは触手が通った時よりも期待で熱く滾っている。
濡れ細っている恥毛を分けるように舌を這わせば、感極まったように霧野が狩屋の頭を押さえた。
「あ…ッ、狩、やぁ…ッ」
そこを這う感触はもう知っている。
そこにどんどん狩屋の舌が近づいているかと思うと、それだけで期待でゾクゾクッと疼くように熱を孕んでいく。
「あー、ここだけなんか触手の粘液の色薄いですね。
何かで薄まっちゃったのかな?例えば霧野さんの先走りとか」
くすっと狩屋が笑いながら顔をそこから離してしまう。
「あ…」
自分の口から咄嗟に漏れた残念そうな声色が、恥ずかしくて堪らない。
それに拍車を掛けるように大分透明に近づいた粘液が狩屋の舌へと名残惜しげに銀糸を繋げている。
「アレー!?止めちゃ駄目でした?
もしかして霧野さん、チンポ俺に舐めて欲しかったんですか!?」
しかも狩屋がわざとらしく驚いてみせるから始末に終えない。
霧野は赤くなった顔を自覚しながらも、狩屋を睨んで胸を叩いた。
「そういう事言うな、馬鹿っ!」
「だってー、さっき霧野さんだって俺にエッチい事言わせたじゃないですかぁ。
俺だって霧野さんに言って欲しいですよー」
あくまで軽い軽口。
でも、狩屋の手は胸を叩いた霧野の手を掴んだ。
ベッドに霧野の両手が縫い付けられる。
下から見上げる狩屋はドキッとする程ギラついている。
「俺になんでも言って下さい。
いっぱいいっぱい甘えて下さい。
アンタの言う事、俺がなんでも叶えてやるから」
言葉と共に這入ってきた舌は、驚く程熱かった。
息も忘れる程、熱くて、熱くて。
霧野は我を忘れて、ただ狩屋の舌を貪る様に受け入れた。
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