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沈黙を破ったのは霧野だった。


「今の言葉、信じていいんだな?」

首元を掴んでいた手を引き寄せると、更に近くなった顔をつき合わせて凄む。

「こんな時まで、嘘吐いてどうするんですか」

挑発的に返ってきた狩屋の答え。
霧野はその答えに「そうか…」と呟くと、パッと掴んでいた手を離した。


「なら、いい。
狩屋、ヤるぞ」

その衝撃発言は、それまでと変わらない怒った表情で告げられた。
余りに今までの流れを無視した発言に狩屋は思わず自分の耳を疑った。
言葉の意味する行為が頭の中で上手く繋がらない。

それでも霧野の手が狩屋のジャージのファスナーを開け始めると流石にいつまでも呆けてもいられない。


「ちょっ、ちょっと待って下さいって!
霧野先輩、アンタ自分が言ってる意味ちゃんと分かってますか!?」

「当たり前だ。
いくらショックな出来事だったとしてもそこまで茫然自失となる程、俺は弱くない」

狩屋の制止にも霧野の手は止まらない。
憤然とした表情のまま、ファスナーを下まで下げるとそのまま狩屋の腕からジャージを抜き取る。
狩屋と視線さえ合わせない。


「もしかして発情してそういう気分だったとしたら、それはさっきの触手のせいですから!
さっきの触手の粘液には人を興奮させる成分が入ってるんで、洗い流して時間が経てば落ち着きますから!!」

「ごちゃごちゃ煩いっ!」

霧野は狩屋の言葉を遮るように、狩屋の腰に跨ったまま狩屋の上半身を強く押し倒した。
上から見下ろす格好で、倒れた狩屋の肩を起き上がれないように強く押さえた。


「この俺がそんな訳の分からない成分に気持ちまで左右されるわけないだろっ!
いいからお前は黙って目を瞑ってればいいんだよ!!」

……それって。

狩屋は霧野の言葉にドキッと胸が大きく期待で高鳴った。


「それって…、俺とならセックスしてもいいって意味に聞こえるんですけど…。
俺、期待しますよ?」

「すればいいだろっ」

霧野の顔が更に怒った表情へと変わり、ぷいっと視線を逸らされる。
でもいくら見下ろしていても、怒った表情でも、もう狩屋には霧野の精一杯の意地っ張りにしか見えない。


「俺、これでも結構我慢してるんですよ?
でもそんな格好でそんな事言われたら、俺、途中で止める自信無いですって。分かってます?」

それでもそう確認するように訊いたのは、狩屋なりの罪悪感からだった。
いくら意図していなかったとはいえ、霧野がこんな状況になったのは明らかにあの触手のせいだった。
気持ちは左右出来なくても、気分は十分高められたはず。
何よりさっきからずっと昂ぶったままの霧野のペニスがその証拠だった。

それなのに返ってきた答えは、予想外のものだった。


「そんな格好ってどんな格好?
ねえ狩屋、俺って今どんな格好してる?」

ハァッと発情した吐息と共に霧野の口から吐き出されたのはそんな質問だった。
見せ付けるように霧野が捲れた状態の服を更に上にたくし上げる。
わざと意識しないようにしていた霧野の痴態に狩屋は一気に頭に血が登ってしまう。
いくら格好つけてみても所詮狩屋も未だ未経験の中坊の童貞に過ぎなかった。

男のくせに色素が全く沈着していない綺麗なピンク色の乳首も、ぬらぬらと粘液に塗れてそそり立つペニスも何もかもが刺激的だった。
中途半端に肌蹴た衣類も興奮を煽る材料でしかない。

直視なんて出来るはずもない。


「どんな、って…。
その…、いっ、色々見えてるじゃないですか!
その〜…、ち、乳首とか…、チ、チンポとか…」

「うん、俺、チンポギンギンになっちゃった。
さっき甚振られたせいかなんだかお尻もジンジンするし」

横を向いてそう言うと、狩屋の頭上から霧野の声が響く。
卑猥な内容に狩屋はぎゅっと目を瞑った。
目を瞑ったせいで聴覚が研ぎ澄まされたのか、言葉と共にくちゅくちゅと粘っこい水音が微かに聞こえてくる。

――き、霧野さんが自分で…ッ!?

イヤラシイ予想図が狩屋の頭にボンッと思い浮かぶ。


「…ふッ、…ん、ここぉ…。
くちゅくちゅって音聞こえるか?
…んっ、…こんな汚い場所にお前のが挿入るんだぞ?
チンポだって…ふッく、…こんなにトロトロだから…んッ、お前のお腹もべちゃべちゃになっちゃう、な…ッ」

息も切れ切れに囁かれる淫猥な言葉の数々に狩屋の頭は沸騰寸前だった。
くちゅくちゅって音も、霧野本人の口から語られる状況も一つの事を指し示していて最早我慢の限界だった。

――霧野さんが、俺とスる為に自分でお尻を弄ってる…ッ!!

改めて想像の状況を言葉にしてしまったら、もう我慢なんて出来なかった。


「霧野さんッ」

がばりと狩屋が起き上がると、そこにあったのは霧野の泣き顔。

「え…っ!?」

びっくりして狩屋の動きが固まる。


「なあ、お前は俺の事抱けるのか?
俺、こんな顔だけどちゃんと男なんだぞ」

霧野は狩屋の想像通りの行為をしていた。
ただ、その顔は欲ではなく涙で濡れていた。

……苦しげに歪んでいた。




 

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