2



ソレは、水槽に手を入れてすぐに霧野の指先に当たった。

え…っ?

ソレに触れた瞬間、霧野はびくりと自分の指を水から引っ込めた。
ぬるっとした感触。
ふにふにした質感。
そして何より霧野が触れた瞬間に動いたような気がしたソレ…。
霧野が思い描いていた無機質な人工物とは全てが異なっていた。

だが、それに気づいた時には、もう、遅かった。


「うわっ」

引っ込めた手を追いかけるようにそれは水から飛び出してきたみたいだった。
みたいだと推測で語るしかないのはソレが透明だから。
その透明な物体は、霧野の指の感触を満喫するように、すごくゆっくりとしたスピードで爪先からじわじわと接している面積を増していく。
霧野は自分の指をぬめっとしたモノが這う感触にぞわぞわっと背筋に嫌悪感が反射的に走った。
大きく手を振りソレを振り払おうとしたが、ぬめっとしたその体はまるで接着成分でも含んでいるように離れていかない。
それでころか、ぶんぶん腕を振ってもお構いなしに霧野の手を進んでいく。


「―――ッ!」

ソレの進みが急に止まったかと思うと、続いて感じた感触に霧野はまた背筋にぞくぞくっと走るものを感じた。
ソレは指の付け根まで進むと、そこからどこへ進んでいいか思案するように霧野の指の股をその先端でグネグネと探りはじめた。


「くぅン…っ」

思わず漏れた声。
日常生活で別段意識した事のないその場所が、そんなにも敏感だという事を霧野は初めて知った。
そして自分の口から女みたいな鼻にかかった変な声が出得るという事も。

ソレは霧野がショックを受けている間、指の付け根を甚振り続けると、また微かに光を発した。
水の中に居る時よりも濃く感じる、その紫がかった光。
霧野がその光を見て正気に戻ったのと同時に、ソレもまた霧野の手を前進し始めた。

姿は見えずともぬるぬるとした物体は確かに霧野の肌を這っている。
しかも手の先からどんどん霧野の方に向かっている。
ゾクゾクとした悪寒と、そして少しの性的快感を霧野に与えながら。
霧野は一瞬ソレに自分から触れる事に生理的嫌悪感を覚え、躊躇した。
だが、手首まで達しても止まる気配の無いソレに霧野は戸惑っている場合では無いと決心させた。
一刻でも早くソレを取り除かないと、このままでは得体の知れないソレが体まで来てしまう…!

霧野は、精一杯自分から離すように伸ばした手の上に居るソレをもう片方の手をで振り払った。


「ヒィ…ッ」

だが、またもや霧野の予想を超える事態が起こった。
自分の体から離れてどこかへ落ちるはずだったソレが、振り払った方の手へとくっついたのだ。


「ヤッ!ヤッ!ヤァアッ!」

振り払っても離れない嫌悪感に、霧野は半狂乱でその手を振った。
その嫌悪感を覚えた人間のする当たり前の行動が、その時は裏目に出た。

透明ゆえに霧野はソレの大きさを知らない。
水槽の大きさからあまり大きいと思えなかったソレは予想よりも遥かに大きく、
霧野が手を振った反動で霧野の体にひたんとくっついたのだ。


「……ッ!」

服の上どころかジャージの開いた胸元まで、大きく触れたソレ。
ぬるりと霧野の首筋をソレが撫でる。


「―――ッ!」

今まで以上の嫌悪感に霧野は言葉さえ出ない。
霧野は嫌悪感に全身の力が抜け、へたりと後ろに手を着いた。
最悪な事に相当大きいのか未だ手にもそのぬるっとした感触が無くならない。
透明のソレが自分のどこまで触れているか判断することさえ出来ない。


――顔の方に向かって来たらどうしよう…っ!?

霧野は泣きそうになりながら、そう危惧した。
この謎な物体が何を求めて動いているか分からない以上、
ソレが顔に向かってきて口の中に入る事を霧野は一番恐れた。
こんな変な物体を口にするなんて、死んでも嫌だった。

霧野がゾクッと最悪な事態を想像して身を震わすと、またソレが紫の光を発した。
ぬるり、とまたソレが動きだす。

霧野はその動きだすのを感じた瞬間、咄嗟に両手でソレを掴もうとした。
ソレが顔を這いずり回る嫌悪を考えたら、もうソレを素手で触る事は何でも無かった。


「ッ!?」

ソレを投げ捨てようと掴んだ瞬間、霧野の手は透明なその物体の上を滑っただけだった。
何度ソレを掴もうとしてもツルツルと手が滑って上手くいかない。
手を見ると、ほんのりと青っぽい粘液がべったりとソレが這った所を汚している。


「ひぃぅンッ」

顔に向かってくるという霧野の思い描いていた最悪の事態とは反対に、ソレはゆっくりと霧野の腹部に向かって進み始めた。
霧野が掴むことさえ出来ずにいる内に、ソレはどんどん霧野の胸元から服の中へとその切っ先を進めていく。


「くぅッ」

最初は胸元に触れているだけだったソレがどんどん服の上から中へと潜っていく。
腋をうねうねと蠢き、そして胸の方へと移動していく。
最初はただ気色悪かっただけのソレが、だんだんと意味を変えていく。
ゾクゾクッとした悪寒がまた霧野の背を走る。


「ッあ!」

ソレはそこを見つけると、そこを頭で撫で付けるように何度も行き来した。
霧野にとって14年生きてきて、初めてその存在を意識した場所。
男にとって何の機能も果たさないとばかり思っていたその場所が、今、霧野から力を奪っている。


「ああンッ!」

ソレは霧野の乳首を一生懸命頬擦りしていた。
少しずつ背を走る悪寒は快感へとその比重を変え始めていた…。



 

prev next


 

「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -