プレゼントの中身



「……コレ、俺に着ろって事ですか?」

「当然。
俺がわざわざタンスの肥やし買う訳ないだろ。
ほら、早く着替えろって」

ええーーッ!!メンタル強っ!!
めっちゃ非難してるつもりで言ったのに、南沢さんはさらりとかわしたどころか更に「着替えろ」という無茶振りさえしてきた。
俺がバリバリの男子って事忘れてないか、この人。
それともこの人の常識では男もスカートを普通に着るのか。
イギリス人か、まったく。

俺が唖然としていると、南沢さんは俺の膝の上から箱を取り俺を見た。

「ふーん、霧野は俺に着替えさせて欲しいのか。
着替えないって事はそういう事だろ?」

「ち、違いますっ!」

ああ、もうっ!
どうして南沢さんの一挙手一投足はこうも無駄にイヤラシイんだ。
俺が慌てて否定すると、南沢さんは妖しい笑みを引っ込めて真顔になった。

「だったら早く着替えろって。
ほらこれ、インナーな」

俺の胸元に押し付けられた白いブラウスに、南沢さんの予想外に真剣な顔。
どうしよう、冗談とかじゃ無いみたいだ。
俺は途方にくれて渡された服一式を胸に抱えなおした。

「…変でも笑わないで下さいよ」






着替えの為に移動したすぐ隣の親の寝室。
親のベッドの上にプレゼントの服を広げてみると、改めて「女の子」の服って実感してしまう。
南沢さんってこういう服が好みなのかな…?
なんか意外だ…。
もっとセクシーな大人っぽいのが好みだと思ってた。

そろ〜っと服に袖を通してみると、すごく肌触りがいい。
柔らかで、ふわふわしてて、
まるで自分もそんな子になったみたいに感じてしまう。
少しずつ南沢さんのプレゼントの服を身に纏っていく内に、どんどん自分も特別な存在になった気がしてくる。
女の子の服って不思議だ。
男の服でこんな気分になった事なんて、今まで一度もない。

全部着替え終わって、ベッドサイドの母親のドレッサーの前に立ってみると、
そこには心細そうで儚げな顔をした俺が居た。
似合って…、いるのかな?
くるくると身を捩って確認しても、自分ではよく分からない。
ただワンピースの裾がひらひらと脚に触れて、それがなんだか凄く恥ずかしかった。

そんな時、トントンと遠慮がちにノックの音がした。
ワンピースの裾を翻していた俺は、自分の行動が恥ずかしくて、誰が見てる訳でもないのに咄嗟にドレッサーの椅子に座ってしまった。


「入っていいか?」

南沢さんの声に一瞬躊躇したものの、俺は結局どうぞと答えてしまった。
親の部屋に勝手に南沢さんを入れるのはどうかと思ったけど、自分でこの格好を披露しに戻るのはちょっと恥ずかしかったから。

部屋に入った南沢さんは、俺の姿を見て押し黙ってしまった。
う、何か言ってくれないかな。
沈黙が痛い。


「南沢さん…?」

俺が声を掛けると、固まっていた南沢さんの表情がいつもの余裕たっぷりの顔に変わる。

「へぇ…」

そう口にしただけで、南沢さんはまっすぐと俺が座っているドレッサーの前に来る。
う、感想それだけ…?
その『へぇ…』がいい意味なのか悪い意味なのか計りかねた俺は、ドキドキした心持で鏡の中の南沢さんを見つめた。
もっと、もっと何か言って欲しい。
そう思うのに、南沢さんは俺のツインテールの片方を掴むと優しく解き始めた。


「髪、やってやる」

ドレッサーに置いてあったブラシを取ると、南沢さんが俺の髪を梳かしていく。
俺の髪を梳く南沢さんの手は、まるで宝物を扱うように丁寧でなんだか気恥ずかしい。
鏡に映る俺の顔はやっぱりどこか心細そうで、なんだか俺じゃないみたいだ。
母親の趣味が全開のドレッサーはアンティーク風で、俺をより現実から遠ざける。
鏡の中に居るのは、一対の恋人同士。
優しい彼氏に、その彼氏から宝物のように大切にされている女の子。
そんな風に、錯覚させた。


「よし、完璧」

鏡の中で南沢さんが自分の前髪を掻きあげる。
そのすぐ前には可愛い女の子。
俺そっくりだけど、男の俺とは似ても似つかない子。
心細そうに御洒落した自分を恋人がどう思ってるか頬を染めて伺っている女の子が鏡の中に居た。


「じゃあ行くか」

南沢さんがその子の手を引く。
俺は南沢さんにお似合いの鏡の中の女の子にほんの少しだけ、嫉妬していた。


 

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