プレゼントは何?



「そんな緊張するなって。大丈夫だ、似合ってるしバレっこないから」

「そういう問題じゃないです!」

……南沢さんの馬鹿。
向い側に座って一人だけ余裕たっぷりにニヤニヤしている南沢さんに、俺はそっと心の中でそう付け足した。


今、俺たちが居るのはこじんまりとしたイタリアンレストラン。
そんな高価なとこじゃないけど、
神童とじゃ一緒に外食するとかないし、他の友達とじゃファーストフードやファミレスにしか入った事の無い俺からしたら背伸び以外の何ものでもない。
薄暗い照明も、隣との距離がやけにゆったりとした座席も、大人だったら落ち着くものなんだろうけど、俺はドキドキしてしまってしょうがない。
落ち着かない。
こんな「デート」らしい「デート」、初めてなのに落ち着けって方がどうかしてる。

しかも俺は人生初の「女装」なんかしちゃってるし。




なんで俺がこんな格好をしているかというと話は少し遡る。

その日、デートの約束した時から少しおかしいとは思ってた。
南沢さんが俺の家まで迎えに来るって言ったから。
あ・の南沢さんが、だ。
面倒な事が嫌いで、何事も利害で考える「あの南沢さん」が、わざわざ俺の家に迎えにくるなんて考えられない。
どうせ当日になって、「現地集合」とか言い出すに決まってると俺は密かに思っていた。

それなのに当日、南沢さんは本当に俺の家に迎えにきた。
トラッドな格好をした南沢さんが大きな紙袋を持って玄関のドアの前に立っていた。
ゆるめカーディガンにパンツという普段着の俺は、南沢さんのカチッとした格好に少しだけ驚いてしまった。

「え…、アレ?どうしたんですか、南沢さん…」

「ん。これプレゼントな」

それなのに南沢さんは何食わぬ顔で俺にその大きな紙袋を渡すと、俺の横を通り過ぎ家の中へと入ってしまう。
アレ?俺って何かプレゼント貰うような事したっけ?
誕生日じゃないし…。
そう思いつつも、南沢さんからの初めてのプレゼントに心は弾む。
ちゃんとした格好の南沢さんに、紙袋から見える赤いリボンの付いたプレゼントらしき箱。
どうしたんだろうって浮き足立つ心を自覚しながらも、既に家にあがってしまった南沢さんに続く。

いつもと少し違う南沢さんはいつもの調子で俺の部屋に向かうと、いつものようにベッドに腰掛けた。


「ソレ、開けてみないの?」

顎をクイッと持ち上げて、南沢さんが言う。
プレゼントを開けてみろって事らしい。
俺は南沢さんの隣に腰掛けて、袋から箱を取り出してみた。

赤のリボンを解いて箱を開けると、ふんわりとした薄紙が服らしきものを覆っていた。
漂う高級感に、なんだか胸がドキドキする。
そーっと、その薄紙をめくると中から俺の髪の色よりもほんの少し濃いピンクの生地に黒で刺繍を施された服が入っていた。

うわ、うわ、わ〜〜〜〜。
俺の髪に合わせてくれたであろうその服に、俺は一気にテンションが上がってしまった。
南沢さんがこんな風にプレゼントしてくれるなんて想像もした事無かった。
どうしよう、すごく嬉しいっ!

「コレ、俺にですかっ!?」

「プッ。
当たり前だろ」

思わず横を振り返り訊ねると、南沢さんはそんな俺に可笑しそうに吹き出した。
う、恥ずかしい。
笑うことないと思うんだけどな。
俺が喜んだり怒ったり無防備に感情を表すといつも南沢さんは少し馬鹿にしたように笑う。
それから余裕たっぷりの顔で、いっつもこう言う。


「可愛いな、お前は」

それからこう続ける。

「いっつも澄ましてるお前が本当はこんな可愛いなんて、サッカー部のヤツらが知ったら驚くだろうな」

これを言われると、俺はいつもなんだかむず痒くなってしまう。
だって南沢さんが「可愛い霧野を知ってるのは俺だけだぞ」って自慢してるみたいに聞こえるから。
それにこうやって無防備な程、感情の起伏が大きくなってしまうのは南沢さんと一緒の時だけだって、南沢さんは気づいていないから。

今日も同じ事を言われてしまった俺は、どうしようもなく居た堪れなくなって服に視線を戻す。
あーあ、悔しいな。
南沢さんに掛かると、俺はいつも簡単にドキドキさせられてしまう。
それなのにいつも南沢さんは余裕な顔のまま。
少しぐらい必死なところとか格好悪いとことか、見せてくれたっていいのにな。
俺はそう思いながら、プレゼントの服を手に取った。


「……コレ、俺にですか?」

「それさっきも聞いただろ」

俺の質問に、南沢さんが少し呆れた声で笑う。
俺の声が地を這うような低い声なのに気づいていないのだろうか?



……箱から取り出した服。
それは俺の髪の色よりもほんの少し濃いピンクの生地に黒で刺繍を施された「ワンピース」だった。


 

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