乞う
「や…っ、な、何!?
…や、嫌だ、止めてくれ…ぃやっ、霧野ぉ…っ!」
自分自身でも見た事のない不浄の場所を触れられる羞恥。
元来閉じているべきところを抉じ開けられて存在する異物感。
そのどうしようもない程の嫌悪感に神童は目を見開く。
――…そんな所、嫌だ!汚いっ!汚いっ!嫌だ!嫌だっ!!
今、触れられている箇所は自分の体の中で一番穢れた場所で、
しかも嫌悪で身じろぐ度に、霧野の指の関節まで感じてしまう。
頬に触れているこの温かな指のもう一方は、自分の中に挿れられている。
息をする度に自分の一番穢れた場所が霧野の美しい指に触れてしまう。
汚してしまう。
それが凄く嫌だった。
でも、神童には逃げる術は無い。
男は神童の脚を腕を後ろから羽交い絞めにし、前からは霧野がうっとりとした笑みで神童に触れてくる。
どこにも逃げる隙間が無い。
神童に出来る事は、霧野に自分の嫌悪を訴えるぐらいだった。
「霧野、止め…っ!抜いて、くれ…っ」
「……拓人、俺を受け入れてくれないのか?」
神童の涙ながらの懇願は、霧野から傷ついた顔を導かせただけだった。
「違っ」
神童から咄嗟に否定の言葉が飛び出す。
――…違う!霧野を拒んでいるんじゃない。
ただ、その場所に触れてほしく無いだけなのに…っ。
そう言っているだけなのに、どうして霧野には通じないんだ!?
教科書に載っている程度の至ってノーマルな性知識しか持ち合わせていない神童には、解らない。
今、為されている行為が、男同士での性交渉の慣らし行為であることを。
――薬のせいで夢うつつな霧野にとっては、漸く訪れた恋しい相手との愛の儀式であることを。
神童が霧野の悲しげに寄せられた柳眉に戸惑い言葉に詰まったその瞬間、
神童の頬に添えられた霧野の手に力が篭る。
添えるものから神童の顔を支え、動きを封じるものになったその手は、神童の口唇の下を軽く押した。
自然と微かに開く口唇。
それが閉じる前に、霧野は自分の同じものをそこへ重ねた。
「…ッ!」
閉じるのを許さないとばかりに、侵ってくる舌。
それは突然の事に縮こまっていた神童の舌を暴き立てるように、くちゅり、と神童の咥内で蠢く。
神童の全てを奪いつくすような、その性急で荒々しい動き。
口腔の中でぬるぬるとしたモノが意図を持って這いずり回る感触に、神童は息さえ出来ない。
「…はぁっ、…んっ!」
霧野の舌が神童の舌に絡みつく度、ぞくぞくと腰に甘い痺れが走る。
くにゃりと下肢の力が抜けてしまい、縋る神童の手が霧野の腕に痕を残す。
それは、先程までペニスに触られていた時の直接的な刺激と違い、まるで麻酔にでも掛かったような感覚。
……中にある霧野の指の辺りが、なんだかじんじんする。
神童からすっかり力が抜けたのを見計らい、霧野が漸く神童から口唇を離す。
名残惜しいと言わんばかりに、神童の口元へと銀の糸を残して。
「…拓人、ずっと好きだった。
ずっと、ずっと…、お前だけが好きだった!」
至近距離で囁かれ、神童は息を吐く間もなく再度口唇を塞がれる。
再び侵入してきた舌は、今度はねっとりと神童の舌に絡みつく。
そして今まで全く動かしていなかった指をそれに合わせてゆっくりと抜き差しするように動かし始めたのだった。
――……あっ、…あっ、なんだか…どんどん…。
霧野の指がぐちゅぐちゅと音を立てて出入りする度に、じんじんと痺れるようだった下肢にじわじわともどかしさが生まれていく。
――…んっ!…な、何だ?…何か、へ、変だ…?
息さえ満足に出来なくて、神童はぼんやりと思考力を奪われていく。
くちゅりと舌を吸われる度に腰がじんじんとして、
じんじんとしているところを霧野がぐちゅぐちゅと弄って、更に神童の思考力を奪っていく。
――…ふぁっ…く、…今のとこ、もっとぉ…。
思わず腰を揺らしそうになって、神童はハッとした。
――『もっと』…?俺は、もっと何をして欲しいと思ったんだ…っ!!
汚いと自分でも思うような場所を霧野に触れられて、それが気持ちよいと感じている。
あまつさえ、もっともっとそこを激しく霧野に弄ってほしい…。
神童の自問自答に簡単に導き出されたその答え。
それは神童が認めるにはあまりに残酷なものだった。
そうそれは恐怖さえ感じるぐらいに。
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