気付く



男にぐっと押さえ込まれたまま、神童はぐっと目を瞑る。
男達のじゃべる声と、時折聞こえる地面を蹴る音。
神童の心の中は霧野への心配が渦めいているのに、脳裏に一瞬だけ見えたぼやけた霧野の半裸がちらついて目が開けられない。


「…霧野っ!」

目を瞑っているしかない自分が悔しくて唇を噛む。
だが悔し紛れに呟いた霧野の名前に、自分を押さえつけている男が神童の髪を掴んで顔を持ち上げる。


「オトモダチに怪我させたく無かったら、目ぇ開けろ」

今までのどこかおちゃらけた声と全く違う低い声。
耳元で囁かれたその声は神童の肝を冷やすには充分だった。


目は、開けたくない。
霧野のそんな姿は見たくない。
・・・でも!
でも自分たちはやっと自由なサッカーを取り戻したばかりで、それなのに怪我という形で霧野からまたサッカーを取り上げる事は出来ない。

噛み締めた唇から鉄の味が広がる。


「…くっ!」

ぎゅうっと一度更に目を閉じてから、神童はゆっくりと目を開ける。


目を開けると、霧野は自分の想像通りの姿をしていた。
違っていたのは、口に霧野自身の下着を詰め込まれていた事、
霧野の後ろから蛇が巻き付くように男の腕が霧野の躯に回っていた事だった。

・・・その姿に一瞬で目が奪われる。


裸体を這う男の浅黒い腕は霧野の白い肌を強調している。
体の所々が霧野の鮮やかな髪の色と同じ色になっている。
頬、上腕、胸の先、そして…初めて見る霧野のペニス。
黒、白、ピンク、鮮やかなその三色のコントラストは綺麗で、そして淫靡だった。


「…ギャラリーが揃ったな」

男の一言に神童は思わず霧野の痴態に見とれていた自分にはっとする。
慌てて目を逸らすも、逸らした途端神童を押さえている男がぐっと腕に力を込める。
渋々神童が霧野に視線を戻すと、霧野を羽交い絞めにしている男がにっと笑って霧野の猿轡にしていた下着を取り外す。


「げほっ!ごほっごほっ…しん、ど…ぐっ、みな…」

霧野が咳き込みながら懸命に言葉を紡ぐ。
目を逸らす事を許されない神童にその懸命の願いが突き刺さる。


「しっかり見とけよ坊主。
オトモダチのキスシーンなんざ滅多に見れねぇぞ」

だが、そんな二人の間に場違いな程明るい声が響く。
男は長い舌を神童に見せると、その上に毒々しい程カラフルな薬剤を乗せる。

ぎくりと神童と、そして霧野の体が強張る。
明らかに怪しい薬。
そして今の状況。
あれを飲む訳にはいかないと判断するには充分だった。


でも男はお構いなしに羽交い絞めにした霧野の口腔に貪り付く。
上から覆いかぶさるように口を重ね、霧野の鼻を塞ぐ。
暫く我慢していた霧野もついに息が続かなくなってぷはっと口を開いてしまう。
そこに男は自分の唾液を上から注ぎ込む。
…あの怪しい薬剤と共に。

霧野の口の端から、霧野のとも男のとも分からない涎が零れていく。
大量の唾液と口内に初めて感じる他人の舌が霧野には苦しくて堪らない。
あの薬をどうしても飲みたくない霧野はどんどん注がれる唾液にも懸命に我慢する。
だが、眉を寄せて口を舌で犯される姿は霧野の意に反して、男達の嗜虐心を煽るものでしかなかった。
どんどんと男の舌は遠慮が無くなっていく。
ついにごくりと霧野は男の唾液も怪しい薬でさえ飲み込んでしまう。


「即効性のドギツイやつだが、兄ちゃん健康そうだし大丈夫だよな?」

一旦口を離し、男が霧野ににやっと笑う。
ひゅうっと息を吸い込んだ霧野に、男はまた口を重ねる。
だが、今度は先ほどまでの乱暴で一方的なものでは無かった。
ゆっくりと歯列をなぞり、上顎に舌を沿わし、霧野の官能を呼び起こそうと舌で誘う。
そして片方の手で上半身のピンクを、片方は下半身のピンクに指を這わす。


くちゅくちゅと卑猥な音が神童を襲う。
その音と共に、神童の目の前で霧野が少しずつ薬のせいで男の欲望の色に侵食されていく。

最初は一方的に蹂躙されていた口は、今では二人の間を蠢く二本の舌が微かに見える。
男に弄られていた胸の先も、男の象徴も、今ではどちらも芯を持って勃ち上がっている。

くちゅくちゅと音を立てているのは霧野の口なのか屹立なのか、もう神童にも分からない。


「…もうそろそろ頃合だろ」

どれぐらいそうしていただろうか男が漸く霧野から口を離す。
口が離れ、男の居るやや後ろを向いていた霧野が神童の方へゆっくりと顔を向ける。

その顔は普段のきりりとした凛々しさなど微塵も無い。
とろりとした目で甘ったるい雰囲気の霧野が神童を見つけてふんわりと笑う。


「拓人」


名前を呼ばれた瞬間、神童はどくりと自分の心臓が大きな音を奏でるのを確かに聞いた。


その初めて呼ばれた下の名前にも、
自分を見つめる霧野の視線にも、
確かに自分への愛を感じてしまったから。

・・・それが理性の箍が外れた霧野の隠された本音だと、
誰に聞かなくても神童は気づいてしまったから。



 

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