瞑る



「…くっ。頼む、霧野は放してくれ。
彼は関係無いだろう」

神童は自分を踏みにじっている男を見上げる。
呻くようにそう言うと、暗い道の先を見ていた男が昏い笑みを浮かべて神童を見下ろす。


「…へぇ、関係ねぇって。
俺たちゃ二人居るっての分かってんのか?」

「二人居ようが関係無い…っ!ちゃんと身代金は払うから霧野を放せ…っ」

神童の言葉に男はまるでジョークでも聞いたかのように低い笑い声を上げる。


「ッハ、お前、何か勘違いしてねぇか?」

嘲るように笑うと、事態を飲み込めていない神童の背に乗せた足に力を込める。


「こりゃー誘拐じゃなくてレ・イ・プ!
なー、だからお前一人じゃ足んねぇって言ってんの」

「神童ッ!!」

痛みに意識の逸れた神童に霧野の叫びが男の言葉に意識を戻す。


――…レイプ?レイプって男が女を無理矢理暴行する事だよな…?
え?…え?俺も霧野も男だから…え?


理解出来ず男に担がれたままの霧野を見上げる。
視線が合った途端、避けられた顔。


「幾ら金を積んでもよ、その気のねぇまだちんぽに毛も生え揃ってねぇようなガキとヤれるかってぇの。
そういう坊主とヤるにはレイプしかねぇんだよ。
分かったか僕ちゃん」


神童の視界に男の欲望で醜悪に歪んだ顔と、霧野の硬く結ばれた瞳が映る。


「泣き喚く坊主を無理矢理ヤる善さ知っちまったら止められねぇんだよ。
男のガキは特に単純だからよ、嫌でもちんぽ触っちまえば気持ちよくなっちまうからな。
汚ねぇ親父にケツに突っ込まれて、可愛い坊主が泣き叫びながらイっちまうんだぜ?
あ〜、たまんねぇよ。
っと、もう勃っちまった。ったくアイツもさっさと来ねぇかなぁ〜、グズが」


男が舌打ちをした瞬間、霧野の硬く閉じられた瞳から涙が溢れた。
神童はその月の光を反射させ、キラキラと光るその涙から目が離せない。


――霧野が泣いている…。


いつも、すぐ泣いてしまう自分を慰める側だった霧野が。
自分が必要以上に泣かないよう霧野自身は決して涙を見せなかったあの霧野が。


――今、泣いている…。


背中に感じる男の脚より、
男の下卑た言葉より何より、
霧野の一粒の涙がこの状況の非常さを神童に教える。


かっと全身の血が沸く。


「うおおおおっ、放せぇええ!!
霧野をっ、霧野を放せぇぇええっ!!!」

先程みたいに冷静な逃げる算段など何も無い。
神童はただ男の脚の下で暴れた。
体を捩り、男の脚を退かそうと地面の石を投げつける。
ただ涙を流す霧野の為に必死で。


でも現実は無情だった。


「チッ、そいつ思ったより暴れるな」

じゃりっと神童の頭の傍で足音がしたかと思うと、その人物が身を屈ませる。

「お返ししてやるよ」

声と共に何かを顔に吹きかけられる。
その瞬間、神童の目に激痛が走る。

・・・先程の男がお返しとばかりに神童にコールドスプレーを吹きかけたのだ。


「あああぁぁーっ」

顔を押さえのた打ち回る神童の傍で男達は意にも介せず話し始める。


「こいつ等オトモダチみてぇだな。
そいつ、こいつ放せって煩ぇんだ」

「へぇ。
じゃあ、たっぷり見せつけてやんねぇとな。
…こいつの乱れてる様をよ」

目を開けられない神童に男達の下卑た笑い声が響く。
そして笑い声に紛れて霧野の怯えたような声が小さく聞こえた気がした。


「お前も大概タチが悪りぃな」

「はっ!お前だって嫌いじゃねぇ癖によく言うよ」

神童が霧野の声に視野を急いで回復させようと目を擦る。
耳に神経を集中させても男達の楽しそうな話し声しか聞こえない。
不自然な程、霧野の声も、呼吸さえも聞こえない。

「霧野、霧野、霧野…っ!」

神童が呼んでも返事さえない。
嫌な予感が神童をどんどん焦らせていく。

神童はまだ痛む目を懸命に開く。
霞む視界の中、ぼんやりと霧野の姿が浮かびあがる。


「おう、坊主もよく見てみろ。
オトモダチのエロいところをな」


白い視界の中ぼんやりと見えたのは、
霧野の眩い桃色の髪、
学ランの濃紺、
そして体の中心を大きく走る肌の色。


「こりゃ男にしとくにゃ勿体無ぇな」


そのやけに広い肌の色が怖くて神童は目を瞑る。


目を開けたら、視力を回復した神童の目は、
申し訳程度に制服のズボンを片方だけ踝の所に掛け、上着を肩に掛けただけの霧野の姿を映す事を知っていたから。



 

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