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「ふぅ、本当に強情な子ですねぇ」

文字通り、精根尽きてベッドに崩れ落ちている神童をベータが嘲笑する。
ベータはどちらかというと神童が泣いて淫らなお願いをする事の方を狙っていた。
精神的に堕とす事の方をより重視していると言ってもいい。
彼女は神童の高潔さを自分の手で踏みにじってやりたいと思っていた。
泣き伏している今の神童は、乳首だけで射精してしまったショックで泣いているだけであって、所詮まだ一方的に襲われているという被害者意識しかない。
まだ精神の潔癖さは少しも損なわれていなかった。
まだまだ追い詰める必要があると、嗚咽で小さく震えている神童の背中をベータは小さく舌なめずりをしながら眺めた。


「そうだわ!ねえ新しいリングを着ける前に、この子の事綺麗に洗っちゃいましょー。
汗でベタベタしてるしぃー、それにこの子がドプッて馬鹿みたいに精液を自分の身体に飛ばしまくるから青臭い匂いで鼻が曲がっちゃいそおー。
くっさーい」

演技がかったベータの言葉に、伏せていた神童の背がぴくりと強張る。


「そえはおまえがむりあり……ッ!」

「えー、うっそー、信じられなーい!
この子ったら自分の身体が淫乱に出来てるのを私のせいにしたー。
本当に嫌だったら感じたりしないものなのに、感じるどころか乳首だけでイった人間が、本当アリエナーイ!」

「く……ッ!」

反論したものの、再度顔を伏せてしまった神童にベータはツツツーッと顎を指で撫でた。


「呂律が回ってませんし、まだオクスリが効いてるみたいですねぇ。
一人じゃシャワーも無理そうですから、お手伝いにこの子付けますわね?
無理をしないでこの子に綺麗に洗ってもらうといいですわ」

この子……?
一見親切めいたベータの言葉に、神童はぞわりと悪寒を感じた。


「はい、ベータ様。お任せください」

案の定返答したのは先ほどから居る下男だった。
「この子」という可愛らしい響きとは程遠い雄めいた興奮を、敬語と丁寧な物腰では隠し切れないほど下男は発していた。
気をやった神童と違い、下男は未だ興奮冷めやらない様子で神童を舐めるように見つめた。
血走った目が、それになによりスラックスの生地を押し上げている滾った下腹部が神童に危機感を募らせた。
咄嗟に逃げようとするが、弛緩した身体はここでも神童の心を裏切り、立つことさえままならない。


「はにゃせ…ッ!」

神童懇親のパンチは下男の身体にパチンとか細い音を立てただけだった。
いとも簡単に神童は下男の胸へと抱き上げられてしまう。
メチャクチャに暴れているつもりの神童を、そのまま寝室と隣接している一揃えの浴室へと易々と運んでいく。
浴室のドアを開けようと下男が神童を抱きかかえたまま片手をドアノブに伸ばした瞬間、背後からベータの声が響いた。


「お風呂場にもちゃーんとあるから、変な事シちゃ駄目ですよぉ。
分かってますよねぇ?」

「はい、肝に銘じております。ベータ様」

ちゃんとある……?
何が浴室にあるというんだ?
神童には意味が通じない会話も、二人の間ではちゃんと成立しているらしい。
下男に釘を刺したような響きをもったベータの言葉に、神童は一瞬暴れるのも忘れて首を傾げた。
何かまだ自分にだけ隠された事実があるらしい。
その思いがより神童の猜疑心を煽り、周囲への警戒を強めていく。


「分かってるならいいのよ。
フフフッ、最終的に綺麗ならどれだけ汚しても構わないですからね。
泡々お風呂タイム、楽しんでちょうだい」

「ありがとうございます、ベータ様」

下男が深々とベータに頭を下げる。
神童を抱きかかえたまま頭を下げるその様子は、神童にドラマや映画でしか見た事のない、主から褒美を頂戴する家臣を思わせた。
事実、神童の身体が下男への褒美である事に神童が気づくのに時間は掛からなかった。
浴室のドアがパタンと音を立てて閉まる。
それは下男が豹変した瞬間だった。


 

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