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「ふふふ、これで採寸は全てすみましたわね。
私の指輪には適いませんけど、充分素敵なリングが出来そうですわね!うふふ、楽しみぃ〜」

両手を合わせて喜ぶベータを、神童は見る事無くぐったりと顔を伏せたままだった。


抵抗出来なかった……。――それは神童の胸を後悔が過ぎる。

初対面の男、しかも好感の欠片も持てないような装飾商の男の指で神童の性器は余すところなく明確にされた。
直径は元より、長さ、神童の肌の色に映える色まで、男は次々と神童にとっては知りたくもない情報をペラペラと口上に乗せていった。
採寸をされながら細かく数字を読みあげられるのは神童にとって屈辱でしかなかったし、数値に対して一々おべんちゃらが挟まれるのも神経が逆撫でられた。
そんな風に性器のサイズや色を褒められて喜ぶような類の人間では無いと、神童は男の手を払いのけたかった。
だが、実際に出来たのはそれこそ押さえ込まれた指先に力を込めただけ。後ろから神童を羽交い絞めにしている男の太腿に弱弱しく爪を立てただけだった。
それどころか散々こねくりまわされた性器は、神童の意思に反して勃ちあがる気配を見せた。
こんな風に見世物にされて嫌気がさしているはずなのに。


――薬のせいだ。
そう神童は自分に言い聞かせた。
ベータが呆気なく勃起してしまった神童を嘲笑するようにクスクス笑った時も、
装飾商の男が媚びる様に「勃起されてもお可愛らしい」と的を外した褒め言葉を口にした時も。
繰り返し繰り返し、神童は自分に信じ込ませるように勃起は薬のせいだと心の中で唱え続けた。
それは引き続きなされた勃起状態の採寸を平常心で乗り切るのに必要な行為だった。
何もかもを薬のせいにして、心を怒りで染めなければ自分を保てない程、その頃になると神童は追い詰めれていた。


頭はやけに靄が掛かり、まるで春の日差しの下でまどろんでいるような、ぼんやりとした多幸感に包まれていた。
少しでもボーっとすると、気持ち悪い男の手さえ心地いいとさえ思えてしまう。
周囲の視姦するような下卑た視線でさえ最早気にならない。
心を怒りで保たなければ、自分自身が卑しい快楽へと堕ちていくのは想像に容易かった。
そんな状態でより敏感になった部位を触られ続けたら、なにかの拍子に粗相をしかねない。
そんな神童の危惧の表れだった。


そうして今。
ベータの宣言どおり、恥に塗れた採寸が漸く終わりを告げた。
息を堪え、抵抗も出来ずにただされるがままだった神童は、それでも安堵の溜息を吐いた。
自分は確かに目ぼしい抵抗も出来なかった。
だが、我を無くして衆目の的での射精という恥知らずな行為をするという最悪の事態だけは免れる事が出来たのだ。
自我と、そして最低限の矜持を守る事が出来たことに、神童はホッとしていた。


「ね、このリングってどれぐらいで完成できるかしら?」

「そうですねぇ、三十分も頂ければ完成品をお目に掛ける事が出来ると存じます」

「じゃあチャッチャッとお願いね」

神童の視界の片隅で、ベータと装飾商の男が会話を交わしながらドアへと歩いていく。

早く、早く、全員出て行って欲しい……!
自分が理性を保っている内に早く……!!
神童は顔を伏せたまま、そう強く願っていた。
だが、神童の思いとは裏腹に、ベータは装飾商の男を部屋から作業場へと向かわせると神童の方へと戻ってきた。


「ふふ、三十分もあれば充分ですよね?
だってこれから特別に私がお相手するんですもの」

そして神童をぎくりとさせるような事を嫣然と口にすると、神童から視線を逸らさずに傍らの棚を開けた。


「今だけはたーっぷり射精してもいいんですよぉ。
……出したくても出せなくなる前に、存分に絞り取ってあげますね」

そう言ってベータは棚から小瓶と、神童には見慣れない道具を取り出した。



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