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下男に誘われて入ってきた男を一目見て、神童はうんざりと溜息を吐いた。

……「また」こういうタイプの男か。

ベータの言うところの「指輪やさん」とやらはぎらぎらと脂ぎった中年の男性だった。
テカテカと光沢のある整髪料で固められた髪にニコニコと愛想の良い顔。
だが笑顔に紛れて神童の事を舐めるように隈なく観察する様子は、上質そうなスーツでは隠せない程下品でイヤラシイ。


「これはこれは、ベータ様。
いつも格段のご贔屓、痛み入ります。
で?今日はこちらのご令息用のものが御入用と伺いましたが」

「うふふ、そうなの。
今回は趣向を凝らして男の子なんですよぉ」

「それは結構な事でございますねえ。
これだけ見目麗しく上品なら稚児として連れ歩いても人の目を惹くでしょうねえ」

最早隠そうとさえしない宝石商の視線に、神童は嫌気がさしてベータ達に背を向けた。
自分を守る指輪さえ手に入るなら、それがどんなものでも構わない。
こんな不躾な男の視線に耐えながら商談に参加するぐらいなら、ベータの好きなように選べばいい。
そんな気分で神童は席を立ち、窓辺に佇んだ。


「でもですねぇー、この子見た目はいいんだけど少しお馬鹿さんなんですよねー。
だから躾用のリングが欲しくってー。
今日はどんな材質のものを持ってきてくれたのかしらぁ」

「そうですねえ、男性用としか伺ってませんでしたのでファッション用とコントロール用を何点かご用意しております。
躾重視でしたらロック機能もお付けいたしましょうか?」

「ふふふ、もぉーちろん。
ロックにはどんなのがあるのかしらぁ?」

「すぐにご用意出来るのでしたら、三種類ございます。
一つは……」

神童はチラリとオーダーメイドの指輪の詳細を決めている二人の方へと視線を投げた。
漏れ聞こえる話し声は、神童には意味が分からないものだった。
少なくとも指輪を選んでいるようには聞こえない。
だが神童は二人の会話を詳しく聞く気になれず、窓の外を眺めた。
窓の外には手入れの十分に為された広大な庭が見える。
庭だけを見れば、自分の知っている時代となんら変わらない。
切り揃えられた芝生に、一際花が咲き乱れる一角にはアーチと東屋まで設けられている。
趣は違えど、自宅の庭園を思い出させるような庭園だった。
だが少しでも視線を上げれば、庭園の外にはSF映画のような世界が広がっている。
敷地の外とはまるで時代が違うかのようだ。
神童は遠くに見える景色に、本当に未来に居るのだと改めて実感していた。


「失礼致します」

そんな風に神童が物思いに耽っている時だった。
急にすぐ後ろで声がしたかと思うと、神童はいきなり羽交い絞めにされた。


「えいっ」

「ッ!?」

そしてその直後、ベータの可愛らしいというかわざとらしいというか判断の付かないような掛け声と共に神童の腕にチクリと小さな痛みが走る。


「何をしゅるッ!!」

神童は咄嗟にそう叫んで口を閉ざした。
――「何をするッ!!」自分ではそう叫んだつもりだった。
それなのに口は緩慢にしか動かず、神童から明瞭な発音を奪っていた。
しかも閉じたつもりの口が、気を抜くとすぐにだらりと開いてしまう。
思わぬ身体の異変に、神童からサーッと血の気が引いていく。


「ごめんなさぁーい、これからリングの採寸をするのぉ。
暴れると困るから、少し弛緩剤打っちゃっいましたぁ。
ちょーっと力が入らなくなって、色々ゆるゆるになっちゃうけど時間が経てば直るから安心して下さいねぇ」

そう言うとベータは手にしている医療用らしき小さな器具に視線を移した。


「あらヤダ、ベータったらうっかりさん!
今のお薬、弛緩剤だけじゃなく他の成分まで入ってたみたぁーい。
でも貴方なら大丈夫よね?
イヤラシイ事はしたくないって強情なぐらいだからお薬の効果なんて関係ないわよね」

ベータが挑発するように神童に笑う。
そして神童が何か反応するよりも早く、神童を羽交い絞めにしている男に命じた。


「さっさと服を脱がして。
裸にしなきゃリングのサイズが測れないじゃない。
あ、慎重に脱がせなさいよ!今のこの子じゃすぐ勃起しちゃうから。
勃起してたら正確なサイズが測れなくなっちゃうんですからね!!」


ベータに命じられた下男が次々と神童の服を剥いでいく。
神童の必死の抵抗は、結果としてただ男の手を抑えるように触れただけだった。
薬の効能を確かにその身に感じた神童は、弱弱しく手を振って抵抗しながらも、先程のベータの言葉に戦々恐々としていた。


 

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