5*



神童はそれでも一度、ソレを凝視するのを躊躇った。
だがすぐ意を決したように小さく息を吸うと、視線をそろそろと男の顔から性器へと動かした。


「……ッ!」

それを直視した神童は驚愕に息を呑んだ。
先程一瞬見た時に、まるで子供の握り拳のようだと思ったのはあながち間違いではなかった。
男の性器はカリ首が大きく張り、陰茎は太い上に血管が浮き出ていて怒張としか言いようがない。


――気持ち悪い……!

その嫌悪感は生理的なもので、神童が如何に覚悟を決めようがどうしようもない。
その形態は神童に古い映画で見た異星人を思い出させる。
ぬとぬととした粘液に濡れ、おぞましいウネリが全身を覆っているのに先端だけがつるりとした形状は、
狭い宇宙船で乗組員を内側から食い破って出てきた、あの気持ち悪いエイリアンそのものに見えた。
神童は知らず知らずの内に、男の手をぎゅっと握っていた。

それでも神童は生理的嫌悪感を抑えて、そこに顔を寄せた。
見なければ良かったと、視線を避けながら。
だが、直視するのは避けられてもその強い臭いは避けられなかった。


――う……ッ!

思わず咽そうになるぐらい、その臭いは予想外のものだった。
アンモニア臭なら予想も出来た。
耐える心算も出来ていた。
でもソレは饐えた発酵物のような臭いをしているのに、どことなく濃厚な甘い匂いに感じさせた。
食虫花のように、餌を惹き寄せられる為の甘い匂いをソレは発していた。
その匂いに惑わされた虫の未来には死しかない。
そんな生物の営みを凝縮したような原始的な臭いがそこから漂っている。
神童は直接本能に訴えるような甘い匂いこそを嫌悪した。


――生々しい……。

神童の瞳に意図せず涙が浮かんだ。
その臭いは神童に自分がすべき事の意味を残酷なまでに突きつけた。
自分がこれからしなければならない行為は、握手やハグのようなボディータッチの延長なんかじゃない。
親愛を意味するキスの延長なんかじゃない。

紛れも無い、性行為。

この男から恩を受ける為に、自分は性を切り売りしなければならないのだ。
神童を覚悟以上の後悔と動揺が襲う。


舐める為に男の性器を手で支えようとするが、駄目だった。
どうしても神童はヌルついたソレを掴む事が出来ない。
舐める為に神童は口を開いたが、駄目だった。
どうしてもそれ以上、顔を近づける事が出来ない。

神童の頬から涙がぽつっと零れ落ちる。


「神童君」

男の手がさらりと神童の緩くウェーブの掛かった髪を梳く。
男の手が撫でるように神童の耳を掠めて、頭の形をなぞる。


「もういいよ」

神童は男の言葉の意味を図りかねて、何も言えずに瞬きをした。
後ろでベータの咎める声が聞こえる。
だが、男はベータの声など意にも介せず神童に微笑んだ。


「私を悦ばそうとした、その心だけで今は十分だ。
君が出来る範囲で私に仕えてくれればいい。
さ、今日から君も私の可愛い愛人の一人だ。胸を張って、この屋敷で過ごすんだ」

男はそう言うと、神童の額に軽くキスを落とした。
そして神童が何も言えないでいる内に立ち上がると、ベータに色々と指示を残して部屋を出て行ってしまう。


「ベータ、聞いていただろう。
今日から神童君も君と同じ愛人の一人だ。そのつもりで扱うように。
ただ君が望む通り、神童君の世話は君に一任するから、ちゃんと面倒をみてやってくれ」


たったそれだけで、神童はこの男の愛人となった。
愛人という名の性奴隷の一人に加わる事となったのだ。


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