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――舐める……?これをか!?

神童はてらてらと鈍く光る男の性器から視線を逸らした。
まだ成長段階にある神童の同じ部位とはサイズが一回り、いや二回りは違う。
まるでコーヒーのロング缶のような大きさに威圧感さえ感じてしまう。


――お、大人のはこんなに大きいのか…?

絵に描いたような優等生である神童は例え同性であってもふざけて他人の性器を見るなんて経験がなかった。
シャワーやトイレでも他人の裸体を不躾に見る事さえ無かった。
当然自分以外の勃起した状態を見るのは初めての経験だ。
床に這いつくばって仰ぎ見た男の性器は、そこから子供の手が握りこぶしを挙げているような途轍もない大きさに見える。


――そ、それに、濡れてるように見えた……。

ベータとの性行為の痕跡を、男の性器は存分に残していた。
ベータが分泌した愛液を男のペニスは纏って光を反射させていたのだ。
それはあまりにも生々しく厭わしいものに感じられる。
男とは別の独立した一つの小さな怪物がそこに居るように思える。
神童は吐き気さえ覚える程の嫌悪感に眉を顰めた。


「お掃除フェラぐらい、イマドキ小学生でも出来るっつーの!!
てめぇマジでここ出て、そこら辺のオッサンに一から仕込んで貰うか!?
てめぇが倒れてた路地辺りに捨てりゃぁ、フィストファック出来るぐらい穴をガバガバにされんのなんてすぐだぞ、すぐッ!!」

だが、その潔癖さがベータの逆鱗に触れたらしい。
俯き嫌悪を堪えている神童をぐずぐずしていると思ったのか、苛立たしげに背中をドカッと蹴った。
蹴られた衝撃で、神童は男の腰へと倒れこむ。
・・・神童の顔を男の性器が掠めた。


「ウ…ッ!」

「大丈夫かい?神童くん」

咄嗟に顔を庇ってしまったせいで男の身体に無防備に乗り上げそうになった神童の身体を、男は優しく受け止めた。
年齢の割りに贅肉の付いていない逞しい腕が神童の身体を支える。


「あ、ありがとうございます……!」

顔を上げ礼を言えば、男は神童と目を合わせたまま顔を綻ばせた。
ほんの少しの笑みが、男の顔を迫力あるものから若々しく優しいものへと変える。
・・・男の印象をより豪炎寺に近いものへと変えていた。


――この時代の常識がおかしいだけで、この人自体はいい人なのかもしれない……。

その豪炎寺に似た雰囲気を持つ男の笑みは、強固な警戒心の隙間を縫って神童の心に届いてしまっていた。


「神童くんは性交渉の経験はあるのかい?」

だから男のその問いに、神童は縋るように必死で首を振ってしまった。
もしかしたら、この人ならこの窮地から自分を救ってくれるかもしれない、と。
何回も首を振って否定する神童に、男は怒ることなく重ねて訊ねた。


「男女問わずだよ?」

「ありませんッ!俺、そんなこと……!
女性は勿論、男性とだなんて考えた事さえありませんッ!!」

「じゃあ舐めてもらうのは無理かな?」

無理です!
と神童が即答しようとしたその時だった。
それよりも早くベータが鋭い声で神童の返事を遮った。


「ご主人様ッ!何をおっしゃってるんですか!!
その子はIDが無いんですよ!?
性奴隷以外のID無しを屋敷に匿ってるなんてバレたら、ご主人様が逮捕されちゃうじゃないですか!!」

ベータの言葉に神童の身体が強張る。
自分を助ける事がそんな危険を孕む行為であるとは思っていなかった。
男は神童の動揺に眉を寄せると、低い声でベータを窘めた。


「……ベータ」

「あら、本当の事じゃないですかぁ。
その子も少しは甘えた考えを捨てるべきなんです。
危険を冒して倒れてたその子を拾ってあげた私達に、ちょっとは感謝すべきなんですよぉ」

ベータの言葉が神童の心に突き刺さる。
そう言えば突きつけられた現実の強烈さとベータの性格の悪さに、ついつい相手の立場を思いやる事を忘れていた。
嫌だとかしたくないとか自分の都合と保身の事しか考えていなかった事に神童は気づいた。


「今の話は本当ですか?」

「あらあ、私が嘘を吐いてるとでもいいたいのぉ?
ぜーんぶ本当の事に決まってるじゃなぁい」

「ベータ!」

男に向かっての質問に割って入ったベータをまたもや男は窘めた。
そして神童がずっと男を見つめたままだと気づくと、小さく溜息を吐くと重い口を開いた。


「……ああ、そうなったら私の立場は困った事になるだろうな」

「そうですか……」

苦々しげなその表情が嘘ではないと神童に告げていた。
自分をただ庇護するだけでは男の立場を拙いものにする、その事実は神童にとって辛いものだった。
ここを逃げて他の誰かに助けを求めるのも無理であるとの最終通告であるだけでなく、男への性的な奉仕を拒むことを困難にさせていた。


「郷に入りては郷に従えって言うじゃないですかぁ。
ここのルールをここまで無視できるってすごぉーい!
貴方ってぇ、本当はすごい自分勝手な人なんですね。ベータ、知らなかったぁ!」

ケタケタと笑うベータの笑い声が最後の一押しだった。
郷に入りては郷に従え、か。
神童は苦い思いでそのことわざを噛み締めると、キッと顔を上げた。


自分のせいで男に迷惑を掛ける訳にはいかない。
……舐めるしかない。

そう、神童は覚悟を決めていた。

 

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