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「現在が戦時下って事はご存知かしら?」

ベータは気だるげにベッドを降り、ベッド脇に落ちていたランジェリーを拾った。
その濃紫のベビードールは身体のラインだけでなく、ほぼ裸と変わらないほどにベータの肢体を明らかにさせている。
胸を強調させるデザインは裸体の時よりも淫靡さを増している。
ほぼ胴丈のレースをあしらった裾が、ベータが動く度に微かに湿った脚の付け根に纏わりついて神童の視線をさ迷わせる。

神童はちらりとベータを見ただけで、その問いに答える事無くベッドをじっと睨みつけた。
神童の視界の隅で男がベッドから降り、傍らの一人がけのソファに全裸のまま腰掛ける。
男は一任した以上はベータの動向に口を挟むつもりはないらしい。


「その戦いの根本を絶つ為に、私達は貴方の時代に送られたんですもの。
貴方だって多少の事はご存知ですよねー」

「……」

ベータはベッドに片膝を乗せた。
もし神童が少しでもベータに視線を投げたなら、随分と煽情な光景を目にした事だろう。
ベータは神童が自分を無視し続けているのを、寧ろ楽しんでいるように言葉を続けた。


「貴方はそんな時代の、いかがわしい路地に倒れてたんですよぉ。
ご主人様が拾って下さらなかったら、今頃どうなっていたやら。
そんなお優しいご主人様を睨むなんて、ベータだったら絶対できなぁい。
とぉーっても失礼だって、貴方もご理解頂けたかしらぁ?」

芝居がかった身振り手振りで恩着せがましく言い募るベータに、神童は苦悩を深くする。
ベータに言われるまでもなく、自分の置かれる状況は非常にまずいものだ。
原因不明で未来に一人で飛ばされ、連絡する手段もない。
誰かが探しだしてくれるのを祈るぐらいしか神童の現状では出来る事はない。
不安定な情勢の時代だという事を考えても、この時代の数少ない知り合いに出会えたのは運が良かったと言わざるを得ない。

でもだからと言って神童は今の状況を感謝する気にはなれなかった。
神童にとって素直に感謝するには二人の行動が強烈すぎた。


「……助けて頂き、ありがとうございます。
ただ……ッ!」

男の保護には確かに感謝している。
だが、保護の見返りに要求された行為は到底神童に出来得る事ではなかった。
しかもベータに飼い慣らされるとあっては、知らない世界とは言え、ここを出てどこか別なところへ擁護を求めた方がマシだと神童に思わせた。

神童は律儀に礼を男に頭を下げてから、ここを出ていく挨拶をしようと顔を上げた。
だが、それは言葉にする前にベータに消されてしまった。
ベータがぐっと顔を上げようとした神童の首根っこを抑えて、ベッドに押さえつける。


「グ…ッ」

「出ていきたかったら、お好きなようにぃ。
でもいいのかしら?この方より優しいご主人様なんて見つかりっこないですよぉ」

凄まじい力で神童を押さえながら、ベータがクスクスと笑う。
神童はググッと視線だけをベータに投げた。


「きゃっ、怖ぁ〜い!
ベータは親切で言ってるだけなのに睨むなんて酷ぉーい。
もー、さっきから何回も言ってるじゃないですかぁ、今は貴方の知らない二百年後の世界だって。
貴方の常識なんて通じないのよ?」

ベータは神童を押さえつけたまま、その耳にそっと顔を寄せる。


「今は全住民が遺伝子情報までデータ化されてIDで徹底管理されているの。
IDのない貴方なんてすぐ捕まるか、裏ルートで売られるかのどっちか」

ベータは楽しそうにそこで言葉を切った。


「SSCって貴方も知ってるわよね?
私達の戦争相手である、サッカーの才能溢れる子供達。
彼らがなんでSSCって呼ばれてるか分かる?
あの子達、才能と引き換えに大人になれないのよ。だから『セカンドステージチルドレン』」

「それがなんだと言うんだ」

「あら、貴方って見かけによらずお馬鹿さんですのね。
まだ分からない?
今は戦時下。そして大人になれない子供達。
SSCに子供を産むなんて考えある訳ないし、大人の数は減る一方。
それなのにノーマル同士の子供が何故か一定数のSSCになっちゃうの。
だから今はね、貴方の知ってる二百年前と違って性モラルがすっごおおく低いの。
若い内からバンバン子供が出来るようなエッチな事をしちゃうの。
それこそ政府が深刻な少子化対策としてフリーセックスを推奨してるぐらい。
性行為はすればするほど、今の時代は優秀で社会に貢献している人間なんですよぉ。
性行為が出来る年齢でセックスを拒否するなんて、今の社会じゃ絶対認められませんわ。
どこに逃げたって貴方はセックス漬けで生きてくしか手段がないんです」

ベータが語る未来は、神童の知ってる日本とはまるで違う。
あまりの社会の変化に神童の目が大きく見開く。


「ね?
これでお馬鹿な貴方にも分かったかしら。

お前はここで元の世界に帰れるまで、性奴隷として生きていくしかねぇんだよ!!
いつまでもお高く留まってねぇで、さっさとご主人様のチンポ舐めるテクでも磨きやがれ!!」


怒号と共に、神童は首根っこを捕まれたままベッドから投げ出された。
ドウッと落ちた先には、男の足。
何も言わずに事の成り行きを見守っていた男が居た。

……全裸で、未だ勃起した状態の肉棒を神童に見せ付けるようにそそり立たせてソファに座った男が居た。


 

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